TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「ルシアンの青春」*ルイ・マル

1975-08_ルシアンの青春
LACOMBE LUCIEN
監督:ルイ・マル
脚本:ルイ・マル、パトリック・モディアノ
音楽:ジャンゴ・ラインハルト
出演:ピエール・ブレーズ、オロール・クレマン、オルガー・ローウェンアドラー

☆☆☆★ 1973年/フランス、イタリア、西ドイツ/140分

   ◇

 1975年に日本公開されたルイ・マル監督長編劇映画10作目の作品で、英国アカデミー賞を受賞している。

 第二次世界大戦の末期のフランスを舞台に、ナチスとレジスタンスとの間で市井のごく普通の青年が時代に翻弄されてゆく様を描いたドラマで、決して甘酸っぱくキラキラした美しい青春物話ではなく、戦時下において人間の醜い面を映し出した悲劇であり、権力に屈してしまう人間の弱さを描いた秀作である。

 オープニング、田舎道の長い坂を自転車で疾走するルシアンの姿と、ジャンゴ・ラインハルトの軽快にスウィングするギターの音色がとても印象的だ。

 ノルマンディ上陸作戦直後の1944年6月。17歳のルシアンは病院で雑役夫として働いている。戦争がなければごく平凡に田舎の農夫として一生を過ごすような、無知だが無垢な青年だ。
 休みの日は自転車で家に帰るが、父がドイツの捕虜となり母は地主に囲われている環境では家に帰っても喜んで迎え入れられない。野原に出て兎狩りや、鶏の首を刎ねたり、パチンコで小鳥を射ち落としたりする悶々とした生活。
 地主の息子がレジスタンスに入ったことに触発され、学校の先生のところにレジスタンスの仲間にして欲しいと頼みに行っても断られ、結局つまらない休暇を終え病院に戻ることになる。
 帰り道に自転車がパンク。しかたなく歩いて帰ることになるルシアンだが、夜も遅くなり、夜間歩行禁止のかどでゲシュタボに連行されてしまう。
 弁明するルシアンだが、ゲシュタボに酒を飲まされ、村の様子をペラペラと喋ってしまう。そのことでレジスタンス活動をしている学校の先生が捕らえられるが、ルシアンは手厚く歓迎してくれるゲシュタボの本部に入り浸るようになる。
 思想も信念もない愚かな青年ルシアンは、ゲシュタボを証明するたった1枚の紙切れで何でもできることを知り、次第に権力に魅せられ、自分の居場所を見つけたような気になるのだった。

 ある日ルシアンは、ユダヤ人の仕立て屋オルン(オルガー・ローウェンアドラー)のところで洒落た背広を新調してもらい、そこでオルンの娘フランス(オロール・クレマン)に恋い焦がれてしまう。それからは何度でも、我が物顔のように仕立て屋の家を尋ねるようになる。
 配給の行列でフランスを見つけたルシアンは、早速ゲシュタボの証明書を見せ、嫌がるフランスを列の先頭で買わせようとしたりする。
 オルンや祖母からルシアンを相手にするなと厳しく云われるフランスには一つ考えがあった。それは、ルシアンの力で一家ともにスペインへ亡命する手助けを乞うことだった。
 野性的なルシアンに恐さを持ちながらも、逞しさに頼りがいを感じるフランスの複雑な心の内。しかしこれは、劣悪な戦時下において迫害と差別される民族の生き方にもあたり、哀しい現実を感じないわけにはいかない。

 ドイツ人から激しい侮辱を受けて泣くフランスの姿を目の当たりしたり、礼儀正しく接してくれた彼らと過ごした時間のなかで、次第にルシアンのなかにも人間性を取り戻し、本気でオルン一家をスペインへ亡命させたいと考えはじめた。
 その矢先、オルンが逮捕され収容所に送られてしまった。ゲシュタボによるユダヤ人狩りが始まったとき、ルシアンはドイツ兵士を撃ち殺してフランスと彼女の祖母を連れて逃亡をする。
 スペインとの国境近くで車が故障をして、廃屋に辿り着く。野兎を捕まえ食べる日々が3晩つづき、ひとときの平穏で穏やかな時間に喜びを感じるルシアンたち。
 青く澄んだ空と、鳥や蝶が飛ぶ野原には花が咲き乱れ、傍らにはフランスの笑顔がある。安らぎに満ちたルシアンの横顔…………。

 ルシアンの笑顔ではじまった、たった4ヶ月間の出来事。
 「1944年10月12日、ルシアンはレジスタンス側の裁判で銃殺刑に処せられた」の字幕で映画は終わる。
 ルシアンが犯した悪を責めることはできない。環境によって悪と正義は曖昧になることを、観るものに考えさせることで静かに反戦を訴えている。

 ルシアンを演じたピエール・ブレーズは、実際に片田舎で育った無知で純粋な木こりだったようで、一般公募で抜擢された青年。一躍スターダムにあがったのも束の間、日本公開された1975年に自家用車に乗ってスピードを出し過ぎたことからの事故で亡くなっている。


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