TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「真夜中のカーボーイ」*ジョン・シュレシンジャー



MIDNIGHT COWBOY
監督:ジョン・シュレシンジャー
原作:ジェイムズ・レオ・ハーリヒー
脚色:ウォルド・ソルト
音楽:ジョン・バリー
主演:ジョン・ヴォイト、ダスティン・ホフマン、シルヴィア・マイルズ

☆☆☆☆ 1969年/アメリカ/113分

    ◇

 60年代後半、貧困・差別・ドラッグ・セックスに溢れる病めるアメリカを背景に、都会の孤独とひと欠片の友情を描いたアメリカン・ニューシネマ秀作の一本。
 監督はイギリス人のジョン・シュレシンジャーで、彼の冷めた視線で描かれるものは、大国アメリカの物質万能主義が生み出した“夢”と“自由”の残骸だ。

 鍛え上げた肉体を武器に都会の金持ち女を相手に金を稼ごうと、意気揚々とテキサスからニューヨークに乗り込んできたカウボーイ姿のジョー・バック(ジョン・ヴォイト)。安ホテルを根城に女を漁るジョーだが現実は思うようにはいかず、逆に引っ掛けた女に金をせびられる始末。
 ジョーが安酒場のカウンターで出会ったラッツオ(ダスティン・ホフマン)は、小柄で足が不自由で、肺を病んでいるのに煙草を切らすことのない男だ。ラッツオ(ねずみ)というアダ名で呼ばれるのを嫌い、本名はエンリコ・サルヴァトーレ・リッツォと名乗り、イタリア系である自分に誇りを持っている。
 ふたりの最初の出会いでは、お人好しのジョーはラッツオに騙され、一文無しになりホテルを追い出され、街角に立つ男娼をすることになる。何事もうまくいかず自分を見失いそうになるジョー。

 『タクシードライバー』でも描かれていたこの42ndSt.あたりは、80年代まではポルノ・ショップが立ち並び、ドラッグのディーラーや売春婦(男娼)が横行するもっとも危険な地域で有名だった。1976年に初めてニューヨークに行ったとき、恐いもの知らずでこの辺りを歩いたことを思い出す。
 この映画の当時もまさに退廃的で欲望の街として、病めるアメリカの象徴なのだ。

 ある日ラッツオを見つけたジョーだが、目の前にいたのは以前のようにパリッとスーツを着込んだラッツオではなく、ドブねずみのように薄汚れた姿のラッツオだった。行くあてのないジョーはラッツオの住まいに転がり込むのだが、そこは取り壊し寸前の廃墟の一室。部屋にはフロリダの観光ポスターが貼られている。それは、陽の光が降り注ぐ中での新生活を夢見るラッツオの唯一の夢だったが、その日の暮らしにも困る、それがふたりの現実だった。失望の連続のふたりだが、孤独の風穴を埋め合いながらも、生きる目的だけは持ちつづけている。

 テキサスの田舎町から希望を持って出てきた若者が、ニューヨークという大都会の中で歪んだ現実に打ちのめされ、そして味わう挫折と孤独。彼が唯一得たものは、病んだ都会の象徴とも云える小男ラッツオとの奇妙な友情だけだ。
 ふたりが薄汚れた今の世界から脱出するために残されたものが、太陽がサンサンと降り注ぐフロリダへの脱出というのが、なんとも皮肉だ。
 ジョーが体験した世界には、現実への怒りがあっても世の中への絶望はない。この映画の一番大事なところは、生きていくための心の問題は、ひとへのいたわりだということを教えてくれることだ。

 容態が急激に悪化してきたラッツオ。金がいる。ジョーは街で重役風の男を誘い、金を奪う。ラッツオを抱えフロリダ行のバスに乗り込むジョー。走りつづけるバスの中で静かに泣き出すラッツオ。
 「……漏らしちまった。身体が動きやしない……。」
 フロリダを夢みるラッツオの泣き笑いの顔が切ない。

 ラッツオの着替えを買うジョーは、自身のアイデンティティであったウエスタンシャツやブーツを屑かごに捨てる。フロリダの街並が写るバスの窓の向こう側には、派手なアロハシャツに着替えたラッツオを優しく抱き、涙をこらえたジョーの姿が写っていた。

 1969年度のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、脚色賞を受賞した。
 ラッツオを演じたダスティン・ホフマンは、鮮烈デビューした67年の『卒業』に次いで第2作目になるわけだが、その存在感はとにかく凄い。
 ジョン・ヴォイトとともに主演男優賞にノミネートされたのだが、なんとその年の主演男優賞受賞者はカウボーイの象徴とも云えるジョン・ウェインだった。皮肉な話だ。
 音楽はジョン・バリーで、哀切あるハーモニカのメロディがとても印象的だ。

 物資文明の象徴として写るテレビ番組のワンシーンに『ウルトラマン』が放映されている。大都会を壊す怪獣のシーンが可笑しい。

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