TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「ホテルローヤル」桜木紫乃



 2度目のノミネートで第149回直木賞を受賞した桜木紫乃の連作短編集。
 北海道の釧路湿原を180度望める高台に建つ、部屋数6つの小さなラヴホテル“ホテルローヤル”。
 そこに関わる様々な事情をもった市井の営みや孤独、閉塞感といった悲哀が、一話ごと時間軸を遡って描かれる人間模様。

シャッターチャンス
  夢と希望は、廃墟できらきらと光る埃にそっくりだった

 かつてはアイスホッケーの選手で知られた中学の同級生と付き合っている美幸(33歳)は、彼に誘われ廃墟として佇んでいる“ホテルローヤル”に、投稿雑誌用のヌード写真を撮りにやって来た……。

本日開店
  死ぬまでいいひとでいられる能力は
  そのひとに与えられた徳ですもんね

 二十も年上の僧侶と結婚した幹子(40歳)は、寺を維持してゆくために、定期的に檀家と寝ている。ある日、経営難で倒産した“ホテルローヤル”のオーナーが死んだことを知る……。

えっち屋
  男も女も、体を使って遊ばなきゃいけないときがある

 ある事件がもとで客足が途絶えた“ホテルローヤル”が営業を終える最後の日、実質的に経営してきたオーナーの娘雅代(29歳)は、アダルト玩具の在庫を引き取りにきた営業マンにあることを頼む……。

バブルバス
  五千円でも自由になったら、わたしまたお父さんをホテルに誘う

 小学生の娘と中学生の息子と舅を抱える主婦の恵は、たまたま浮いた5千円で夫と“ホテルローヤル”の門をくぐる……。

せんせぇ
  帰る家を失った少女に「かわいそう」と言わせた自分を嗤った

 単身赴任している数学教師は、妻が20年間不倫をしていたことに耐えている。高校2年のまりあは担任の彼が帰省する電車に同乗し、両親に捨てられたことを告げる……。

星を見ていた
  なにがあっても働け
  一生懸命に体動かしてる人間には誰もなにも言わねぇもんだ

 十も年下の無職の夫に毎日求められるミコ(60歳)は“ホテルローヤル”の清掃婦。3人の子どもたちは既に家を出て音信不通。ある日、次男から3万円入りの封書がホテル宛に届いた……。

ギフト
  幸せなんてね、過去形で語ってナンボじゃないの

 42歳になる看板屋の大吉には21歳の愛人るり子がいた。妻と子どもと愛人のために一念発起した彼は、高台にラヴホテルを建てることにする。しかし、ラヴホテル経営を嫌がる妻は子どもとともに出て行ってしまった。るり子は大吉の子を身籠り、大吉はホテルの経営に夢を乗せる……。

    ◇

 ここに登場する人間たちはみんな金銭に困窮している。それに加え「性の貧困」「愛情の貧困」と、生臭い話ばかりが沁み込んでいる。
 暗く、重い話ばかりだが最後まで面白く読ませるのは、ホテルの開業から衰退までの時間を逆に遡ってゆく構成だろう。

 登場人物のリンクばかりでなく、例えば「シャッターチャンス」でヌード撮影に適された部屋がなぜ乱れたままなのかは「えっち屋」で明かされ、ホテルが経営難に陥った原因は「せんせぇ」の“その後”につづく。
 結末に希望らしきものが見える一編でも、読者には彼らの未来が見えているわけだから、長い時間の流れのなかに、女と男の狡さと弱さ、生きる希望と性欲がごちゃ混ぜになり、そこから抜け出せないまま、もがいている人たちの様子に生きていることの実感を見いだすだろう。切なさが、読後の余韻となって迫ってくる。
 
    ◇

ホテルローヤル/桜木紫乃
【集英社】
定価 1,470円(税込)

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