TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「フィギュアなあなた」*石井隆監督作品



監督:石井隆
原作:石井隆「無口なあなた」
脚本:石井隆
音楽:安川午朗
出演:柄本佑、佐々木心音、風間ルミ、桜木梨奈、壇蜜、間宮夕貴、伊藤洋三郎、山口洋行、飯島大介、竹中直人

☆☆☆☆ 2013年/角川書店、ファムファタル/112分

    ◇ 

 1988年デビュー作『天使のはらわた 赤い眩暈』以来、スクリーンの中を彷徨してきた石井隆監督の包括的世界が、豊潤な映像イメージを展開し、“性”と“死”のリアリティとファンタジーを観る者に突きつけてくる。
 官能による香しい夢犯である。



 フィギュア好きな内山健太郎(柄本佑)は出版社に勤める真面目なサラリーマン。ある日突然、会社からリストラを宣告され、その上、恋人にも逃げられどん底状態に陥った孤独なオタク青年だ。
 新宿でやけ酒を煽り、ゲイ(レズビアン)カップルにいちゃもんを付けたばっかりに、片方のスーツを着た巨漢女ヨッちゃん(風間ルミ)にボコボコにされる始末。
 こうして健太郎の地獄巡りがはじまった。

 迷い込んだのは歌舞伎町の廃墟ビル。螺旋階段を駆け上がった一室には、使い捨てられた裸のマネキン人形が山の様に積み重ねられ、まるで人間たちが焼却処理された墓場のよう部屋だった。
 健太郎は、真っ赤なネオンに照らし出されたマネキンの山の中に、セーラー服姿の美少女フィギュア(佐々木心音)を発見する。柔らかく、温もりのある肌、血管まで透けて見え、ヴィーナスの丘にはサワサワと陰毛まであるが、心音はしない。 
 身に降り掛かった不幸の数々を忘れ、フィギュア相手に至福の時を過ごす健太郎だが、しつこく追跡して来るヨッちゃんと宏美(桜木梨奈)が廃墟ビルにやって来た。
 しかしふたりは、海の底のような青い部屋のバー「イルカ」に潜んでいた得体の知れない3人組(伊藤洋三郎、山口洋行、飯島大介)と衝突。ヤクザから大量の覚醒剤を横取りして追われている3人は、ヨッちゃんを射殺。隠れていた健太郎も見つかり、命を狙われたその刹那、マネキンの山から美少女フィギュアが起き上がり、サイボーグのような強さで3人組と死闘を繰り広げ、奪った拳銃で3人を射殺する。

 雨の一夜が明けた静かな朝。
 目覚めた健太郎の隣には、彼の命を救った美少女フィギュアが裸で横たわっていた。
 健太郎の救いの天使となった美少女フィギュアを自宅に持ち帰り、“ココネ(心音)”と名付けてふたりの奇妙な共同生活が始まる。
 果たしてこれは健太郎の妄想なのか、美少女フィギュアの正体は………。

    ◇

 原作通りのラストカットに「なるほど」と………
 全編に「ラヴ・ミー・テンダー」の元歌であるジョージ・R・プルートン作曲の「オーラ・リー」が奏でられ、映画が終わっても、いつまでも頭の中から離れない………

 本作は、1992年に劇画作品としては最後となった『カンタレッタの匣』集の一編「無口なあなた」を原作にしながら、〈名美と村木の物語〉が確立されているデビュー映画『天使のはらわた 赤い眩暈』と、劇画【赤い眩暈】(’80/ヤングコミック掲載)を透し見ることができる。

 『天使のはらわた 赤い眩暈』の話は、リストラされ行くあてもなく車を走らせていた村木(竹中直人)が名美(桂木麻也子)を撥ねてしまい、死んだものと思われた彼女をひとまず廃屋につれてゆく。なんとか一命を取り留めた名美も、恋人に裏切られ傷心のなか現実世界から逃避してきたひとり。ふたりは、隔離された空間で孤独と不安を紛らわすように肌のぬくもりを求め合う。束の間の幸福……車のガソリンを買いに行った村木が、ヤクザに因縁をつけられ殺されてしまう。廃屋のなかで待っている名美が、ラジカセから流れる「テネシーワルツ」にあわせて踊るシーンで終わる。
 〈魂の滑空〉と云われる、身震いするほど素晴らしいシーンを生み出したのはファンも承知であろう。因みに、村木を殺すヤクザに扮するのが本作の主人公柄本佑の父・柄本明というのも面白い符合。
 【赤い眩暈】の方は、地震に足をすくわれ転び、車に撥ねられた名美が数分間に見た冥界を描いた話。

 現実から逃避しフィギュアとの妄想の中に閉じ込められてしまう青年の夢想は、見世物小屋のショーやサーカスのようなクライマックスシーンへと導かれてゆく。
 このフェリーニ的興奮が、劇画家石井隆が70年代から描きつづけてきたタナトス(死)を踏襲した現世と冥界を彷徨う光景の再現にほかならないであろう。

 さて、観客も主人公の柄本佑と“共同夢犯”に陥るほどに、ヒロインの佐々木心音の肢体には見とれるばかりである。
 グラビア・アイドルの佐々木心音で映画を1本と依頼された石井隆は、完全女優主義。絶対的に女性を美しく撮るために、演技未経験の佐々木心音には男の妄想を実体化したフィギュアを演じさせた。
 死体のようなマネキンの山に積み上げられた“フィギュア”の佐々木心音の、綺羅綺羅した瞳、張りのある乳房、引き締まった脚、艶ややかな股間の翳りは、ハードでエロティックなアクションを行うなかでヴィーナスの如き輝きを放っている。

 尚、蛇足であるが『フィギュアなあなた』と題された石井隆作品はもう1本、2006年に「週刊アサヒ芸能」の販促品DVDとして流通した、杉本彩がフィギュアとして登場する作品がある。
 

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Comment

トウジロ says... "ヨッちゃん!"
こんばんは、mickmacさん

ヨッちゃんと宏美、それに「イルカ」にまで触れるあたりが、さすがmickmacさんですねえ!宏美の雄叫びを聞いていると、これは石井世界らしいとっても哀しい内容で頷くばかりなのですが、ヨッちゃんがヨッちゃんのまま頭の中に居座っていて、なんかとっても怖いです。ホント強烈でしたね。イルカも意味不明ですねえ。なんだろう、“奥に人がイルカ、イナイカ”ですかね、ハハハ。「神曲」の世界では漁師に嵐を告げる(災厄の前兆)役割を担っているらしいのですが、なんかあの看板のテイストがちょっと奇妙で、不思議ですよね。考えるとキリがなくなって、呑み込まれちゃうのが石井監督の世界ですね~
2013.06.24 20:29 | URL | #JalddpaA [edit]
mickmac says... "Re: ヨッちゃん!"
>トウジロさん

お待ちしていました(笑)。
実はヨッちゃんですが、石井隆作品のなかでは既に登場しているキャラではなかったでしょうかね。劇画だったような・・・作品が思い出せなくて。探す時間もなく・・・ただ、思い過ごしかもしれませんが、一応尋ねておこうかな(笑)
宏美の過去も、このふたりのエピソードをも、想像させる哀しい世界を知りたいですね
また、「イルカ」も気になるのですよね。「ヌード」で名美に買わせてからイルカづいたのでしょうか。
2013.06.24 23:57 | URL | #- [edit]
ひまわり says... "お久しぶりです!"
mickmacさん の石井隆監督作品の文章が読めて嬉しいです!今回の『フィギュアなあなた』なにか今までの石井作品の余韻とは何か違って感じなかなか深い余韻から脱け出せず3回観ちゃいました^^;後半の祝祭シーンがもうたまりませんでした!9月には『甘い鞭』と今年二本も観れるなんて幸せです!
2013.06.26 00:48 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: お久しぶりです!"
>ひかわりさん
おひさしぶりです。

やっと石井隆監督の新作に触れることができましたね。既に3回も鑑賞済みですか!エライなぁ(笑)。

深い闇の先を見つめる心音と健太郎の、切なくも哀しい「オーラ・リー(ラブ・ミー・テンダー)」のメロディと歌詞は忘れ難い名シーンとなりました。

肩ならし的にゲスト出演した壇蜜さんも、眼差しが素敵。『甘い鞭』で披露するSのキャラクターの方がキュンとくるなぁ(爆)。
2013.06.26 13:28 | URL | #- [edit]

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