TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「チェイシング・リリー」マイクル・コナリー

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 『ハリー・ボッシュ・シリーズ』や『リンカーン弁護士シリーズ』が人気の、ハードボイルド作家マイクル・コナリーのシリーズ物ではない長編サスペンス。


 「リリーはいるか?」
 いきなり、ナノテクノロジーのベンチャー企業の科学技術者ヘンリー・ピアスの引っ越してきたばかりの新居に、間違い電話が次々とかかってくる場面からはじまる。一気に謎への渇望を抱かされる見事な導入部というほかない。
 腹を立てながらも、やはり気になる主人公と読者。リリーって誰なんだ?リリーってどんな女なんだ?
 調べてみると、リリーはアダルト・サイトを媒介にしている売春婦。黒髪にブラウンの瞳、スペインとイタリアの血が混じった美しい女性で、リリーへの連絡先電話番号がピアスの番号と同じだった。
 リリーに何かあったのではないか?

 ピアスが社長でもある企業では、革命的な発明による特許出願間近で、社運を賭けた出資者とのプレゼンテーションが週明けにあるというのに、彼はリリー探しに没頭してしまう。
 まずは、リリーが3Pを愉しむときのパートナーになるロビンという女に電話をして会いに行くのだが、やがて、自らに犯罪の嫌疑がかかり容疑者として追われるようになってしまう……。

 いかにリリーが美しても、たかが娼婦ひとりの行方。まさしく、妖しくアブナイ世界にわざわざ首をつっこんでいくピアスの行動にありえないと思い始めるころ、ピアスにとってリリーの行方を探すことが、彼の過去のある出来事に起因していると判明する。なるほど、巧いストーリー展開である。

 1本の間違い電話から、抜き差しならぬ泥沼にはまり込んでしまう男の話となると、巻き込まれ型サスペンスの典型。アルフレッド・ヒッチコックやブライアン・デ・パルマの映画への連想もできる。
 ブロンドで青い瞳のロビンの登場では、ヒロインではないにしろ偏執症的ヒッチコックの『鳥』('63)。あの映画では、ブロンドのティッピ・ヘドレンが生き残り、黒髪のスザンヌ・プレシェットは眼を烏にえぐられた。
 ロビンのキャラクターはデ・パルマの『ボディ・ダブル』('84)。まるっとメラニー・グリフィス(ティッピ・ヘドレンの娘)に果て嵌るじゃない。
 解説にも書かれているがリリーの題材は実在の『ブラック・ダリア』事件で、デ・パルマの映画『ブラック・ダリア』も連想してしまうのだが、リリーに偏ることなくもうひとつの物語として主人公のベンチャー企業の開発話が平行する。
 原題の『Chasing The Dime~ダイム(10セント硬貨)を追いかけろ』とは、主人公がスーパーコンピュ-タを10セント硬貨のサイズにまで小型化しようと開発を目指していることを指している。
 また〈Dime〉のスラングとして「10=パーフェクト=セクシーなほど完璧な美女」という意味合いがあるので、邦題で〈Dime〉を分かり易く〈リリー〉に変えたのも単に安易な変更ではないってことになる。

 窮地に追い込まれたピアスは打開策として科学者の論理のアプローチを活用する。この理論的推理で真相に迫るところがなかなか面白いし、大学時代の友人ハッカーとの会話に映画の台詞などを小道具に使うスタイルも洒落っ気がある。

    ◇

チェイシング・リリー/マイクル・コナリー
訳:古沢嘉通・三角和代
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
定価 1,050円(税込)

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