TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「あ、春」*相米慎二監督作品




監督:相米慎二
原作:村上政彦「ナイスボール」
脚本:中島丈博
音楽:大友良英
出演:佐藤浩市、斉藤由貴、藤村志保、富司純子、山崎努、余貴美子、三林京子、原知佐子、河合美智子、村田雄浩、寺田農、塚本晋也、岡田慶太(子役)、笑福亭鶴瓶(友情出演、三浦友和(友情出演)

☆☆☆☆★ 1998年/松竹/100分

    ◇

 相米慎二監督作品12作目は、「家族愛」「親子愛」「日常生活」といった平凡でありふれた市井の人々の生活で構成するいわゆる松竹大船調喜劇の趣きながら、現代人のこころに棲む不安や哀しさを捉えながら、本来人間が持つこころの豊かさやしなやかさを透くって見せ、人間讃歌としての温かみと美しさにあふれた珠玉の作品である。


 一流大学を出て証券会社に勤める韮崎綋(佐藤浩市)は、良家の娘瑞穂(斉藤由貴)と結婚し、妻の実家で一人息子と瑞穂の母親と一緒に暮らす平凡な男。趣味は庭先でニワトリを飼うことだ。
 バブル期に入社した綋は、不況の波がよせる今は悪戦苦闘中。会社の倒産が噂され、同期が次の就職先を見つけて自分を誘ってくれるも、不安を感じながらも“順風満帆な人生”はつづくものと、どこかで思おうとしている。
 そんなある日、綋は会社からの帰り道に浮浪者然とした男に声をかけられる。男(山崎努)は、5歳のときに家を出て行った父親の笹一だと告げる。母親から「5歳のとき父親は死んだ」と聞かされ成長してきた綋は戸惑うが、その日以来、笹一は家に住みつくことになる……。

    ◇

 奇をてらったと云われ続けた相米スタイルの長回しが、ほんわりと長閑な物語のリズムに見事に嵌り心地よいムードを醸し、春の日長一日の情景に聴こえるほのぼのと懐かしさを憶えるサウンドも心地よい。

 太った黒猫がノソリと一件の家に入り込み、猫の目線で廊下から庭に出て鶏舎に辿り着く。「コケコッコ~」の鳴き声と、笑福亭鶴瓶扮する住職が叩く木魚の乾いた音。
 この作品に通底するのどかな世界観が感じられる冒頭の数分間には、庭で飼われるニワトリとそれを少し訝る義母の言葉から綋の育ちも示され、見事な出だしである。

 映画の主軸は、現実から目を遠ざけどこかボンヤリした“普通の男”佐藤浩市と、図々しさが秀でながらどこかロマンチストな“無頼な男”山崎努のふたり。
 疎まれながらも惹き付けられる笹一は、山崎努の強烈な個性と色気があってのこと。際だっている。さすがに凄い。
 佐藤浩市はどこまでも受け身の演技。どこか弱々しく影の薄い佐藤浩市だが、病院の屋上での山崎努とふたりきりの長回しは素晴らしいシーンになっている。血縁だけではない人間関係のつながりと、家族の存在の大切さに気づかされる。
 そして、このふたりの人間性はもとより家族の在り方とか儚さに目を向けさせるのが、男たちを取り囲む“強い”女たちだ。

 おっとりと上品ながら仄かな色気を携えている義母の郁子には、かつての大映のスター女優だった藤村志保。未亡人になってからの新たな人生を嬉々として楽しんでいる様を、大真面目に演じれば演じるほど可笑しく、天真爛漫な姿からはしたたかさも見え隠れする。
 綋の母親公代には、かつての東映任侠映画で一枚看板を背負っていた富司純子。トラック運転手相手の安食堂を切り盛りする、勝気であけすけな女性だ。終盤、ある秘密を暴露するも(しら〜とした表情は絶品)、ラストの散骨シーンではその秘密さえ反故にするような不敵な笑みが凄い。
 このほとんど同時期デビューの大女優ふたりの芝居が、上手く物語を転がしてゆく。

 喘息を煩い少し情緒不安定気味ながら、優しくおおらかに家庭を守っている斉藤由貴もいい。家の中に起こった波風によって生気を取り戻していく様を、しなやかに演じている。
 
 そして出番は少ないが、公代の義理の息子(三浦友和)の嫁を演じ、蓮っ葉で不貞腐れた態度で迫力を見せる余貴美子と、笹一の内縁の妻だと言って現れる三林京子の存在も印象に残る。

 法事からはじまり散骨で終わるこの映画は、笹一の死と同時に卵からヒヨコが孵るエピソードのような輪廻転生の死生観や、家族としての共同体幻想も含んだ、春の憩いのファンタジーであろう。
 
[相米慎二作品]
★ションベン・ライダー★
★魚影の群れ★
★ラブホテル★
★台風クラブ★
★お引越し★


スポンサーサイト

Comment

紀平 光太 says... "「映画ベース」のご案内"
TEA FOR ONE 管理人様

はじめまして。紀平と申します。

私は現在「映画ベース」という映画のレビューサイトを開発しており、
是非映画に関心のある方からレビューの投稿や、
サイトをご利用頂いてのご意見やご感想などを頂ければと思っております。

「映画ベース」
http://kota.lolipop.jp/eigabase/


まだまだ立ち上げたばかりの未熟なサイトですが、
一度サイトにお越し頂き、
ご利用をご検討頂けますと幸いです。

どうぞよろしくお願い致します。

//----------
// 映画ベース
// http://kota.lolipop.jp/eigabase/
//
// 紀平 光太
// kihira@kota.lolipop.jp
//----------
2013.04.24 13:16 | URL | #- [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/923-873332a0