TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「ハンナとその姉妹」*ウディ・アレン

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HANNAH and HER SISTERS
監督:ウディ・アレン
脚本:ウディ・アレン
出演: ミア・ファロー、ダイアン・ウィースト、バーバラ・ハーシー、ウディ・アレン、マックス・フォン・シドー、マイケル・ケイン、キャリー・フィッシャー、モーリン・オサリバン、ロイド・ノーラン
☆☆☆☆★ 1986年/アメリカ/103分

    ◇

 人生の機微をベースに「生と死」「愛」「家族」「欲望」「不貞」「出産」「宗教」「芸術」など普遍的テーマを、ウディ・アレンならではの皮肉とユーモアを効かせて描いた一大家族群像劇。
 三姉妹の人生と恋愛、彼女らに絡む男たちの愚かで滑稽な姿をオムニバス風に、小説の頁をめくるように16の章に分けて各人のモノローグで展開していく構成で、生き生きとしたニューヨークのロケーションと、クラシックとジャズのスタンダード・ナンバーをあふれるくらいに敷き詰めた、見応え聴き応え充分な傑作である。


 オープニング・クレジットに「You Made Love You(恋のとりこに)」が流れ、つづいて聴こえてくるハリー・ジェイムスの「I've Heard That Songs Before(いつか聴いた歌)」に惹き込まれ、第1章はバーバラ・ハーシーの顔のアップではじまる。
 
 元俳優という芸能一家の感謝祭の家族パーティ。
 長女ハンナ(ミア・ファロー)は、『人形の家』のノラを演じ絶賛されるほどの女優でありながら主婦業もこなし、夫エリオット(マイケル・ケイン)と平穏な家庭を築いている。
 次女のホリー(ダイアン・ウィースト)は売れない女優。何をしても熱して冷めやすく、恋愛も仕事も中途半端で、ハンナにはライバルというよりも姉の才能に嫉妬心でいっぱい。
 三女のリー(バーバラ・ハーシー)は、厳格な歳の離れた画家フレデリック(マックス・フォン・シドー)と同棲中。
 父親(ロイド・ノーラン)が「Bewitched(魅惑のとりこに)」をピアノで奏で、母親(ミア・ファローの実母モーリン・オサリバン)がピアノの横で口ずさんでいる。
 パーティで久しぶりにリーに会ったエリオットは、彼女の若々しい魅力に惹かれている。中年男の浮気心……不倫の予感だ。

 ある日、ハンナの家に別れた元夫ミッキー(ウディ・アレン)がやって来る。ミッキーに子種がないことで人工授精で作ったふたりの子供たちがおり、その誕生日にプレゼントを持ってきたのだ。別れたとはいえ、今はよき友人として付き合っているミッキー。自分が病気なのではないかと悩む病気恐怖症だ。このあたり、メロドラマ的展開に笑いのスパイスを加えるウディの自己描写が面白い。
 ハンナの子らとして全員ミアの実の養子たちが出演していたり、ミア自身のアパートがそのままハンナの家として使われ、なんともウディの実日常そのままが描かれる態のようだ。

 さて、エリオットはリーに近づいていく。
 エリオットが偶然を装うためにソーホーの街なかを走り回るシーンとか、詩集を贈ったり、フレデリックのアトリエでキスを迫るシーンとか、妻の妹への気持ちと彼女へのアプローチにドキドキする男の不器用さと滑稽さには笑ってしまうのだが、どこか自分にも当てはまることに気づかされる。男ならこんな感覚って、みんな持っているのではないかと共感できる描写だ。
 エリオットの気持ちとして甘いムードに合わせレコードプレイヤーからバッハの「ラルゴ」が流れ、リーの戸惑いは揉み合った拍子に針が飛び「アレグロ」に変わるといった見事なBGM変換。この「チェンバロ協奏曲第5番~ラルゴ」はミレーユ・ダルクの傑作『恋するガリア』('65)のテーマとしての印象が強いが、ここではリーのテーマ曲として何度も流れてくるのが印象深い。

 実はリーの方も、厳格で排他的なフレデリックとの生活に息苦しさを感じているので、ふたりがベッドインするには時間はかからないのだが、そのあとのふたりの思惑の違いがまた可笑しい。
 エリオットにとって妻ハンナは心の休まる大事な存在だから「ああ、俺は何てことをしてしまったのだ」と思い悩み、真夜中に電話でリーに今日のことは無かったことにしようと伝えようとするのだが、その矢先にリーの方から先に電話があり「あなたのことを考えてる。今日はステキな日だったわ」なんて言われてしまうと、エリオットも「わたしもだよ」と言ってしまう。ここにも、平凡な男の愚かさに共感してしまう。

 プレイボーイで名高いマイケル・ケインが、不倫にウブな男を演じる可笑しさ。これは見事なキャスティングだが、当初はジャック・ニコルソンにオファーされたという。しかしJ・ヒューストン監督の『女と男の名誉』の撮影に入ったために、マイケル・ケインに白羽の矢。
 ジャック・ニコルソンは『女と男の名誉』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートはされたが受賞はできず、マイケル・ケインはこの作品でアカデミー賞助演男優賞を見事受賞している。何が功を成すかわからないものだ。

 もうひとり滑稽な男ミッキーは、病気に関して誇大妄想になり本格的に検診を受けるが、結果はまったくの健康体。それが逆に虚しくなり、人生の意味を考えるような心の病に陥ってしまう。自殺用のライフルを買い求めたり、ユダヤ人なのにカトリックに改宗しようとしたり、ウディの右往左往ぶりが大いに笑えるのだが、これもまたどこか共感するところがあり、つくづく人間ってだらしない存在だと思うのである。

 コカイン中毒でパンク・ロックが趣味、歌がヘタなのにミュージカルのオーディションを受けるホリー。独身で自由気ままに生きているが、一見奔放そうで実は繊細で傷つきやすい性格の持ち主。このホリー役を、ダイアン・ウィーストがとてもチャーミングに演じている。結果、アカデミー賞助演女優賞のほか数々の賞を手にしているのも嬉しい。

 ホリーは女優を諦め戯曲を書きはじめる。
 エリオットとの関係を断ち大学に戻ったリーは、教授と仄かな恋に落ちる。
 ハンナは、エリオットと口論をするものの、夫への愛は変わらない。
 ミッキーはホリーと街で再会し、楽しく語り合う時間をもつ。

 「人生に答を求めてはいけない。神はいなくても、人生は生きて死ぬだけ。本気で悩むようなことはないのだから、暗い人生をおくることをやめ、命のある限り“今”を楽しめばいい」
 ミッキーがマルクス兄弟の映画から生き方を悟ったことをホリーに語るシーンは、セントラルパークの紅葉が美しい。

 ラストシークエンスも感謝祭パーティ。
 ハンナの父親と母親、ハンナとエリオット、リーは新しい恋人を連れ、ホリーはミッキーと結婚。

 「素晴らしいドラマだ。姉との結婚に破れた男が、何年か経ってその妹と結婚する」
 「ハートって、とても弾力性のある筋肉だね」

 ホリーがミッキーに「妊娠したの」と告げて映画は終わる。

 開き直りこそ、人生のラビリンスを楽しむ術だ。
 「人生捨てたものじゃない」と結論づけるウディ・アレンの前向きさが気持ちよく、エンディング・テーマはふたたび「I've Heard That Songs Before(いつか聴いた歌)」が聴こえてくる。

 後年、ウディ・アレンはいくつかのインタビューにおいて『ハンナとその姉妹』のエンディングは最悪だと語っているが、入り乱れた人間関係を軽いコメディで温かく描くウディ・アレンの悲喜劇はやはり素晴らしいと思うのだが。

1987-04_ハンナとその姉妹

[ウディ・アレン作品]
★アニー・ホール★
★インテリア★
★マンハッタン★
★ブロードウェイのダニー・ローズ★
★カイロの紫のバラ★
★マンハッタン殺人ミステリー★


★恋するガリア★

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Comment

さすらい日乗 says... "無題"
ウッディー・アレンって嫌味なところもありますが、いつも女優の好みがいいですね。
いい女ばかりで、それを見る価値はありますね。
2013.04.11 08:55 | URL | #o/PXu/q6 [edit]
mickmac says... "Re: 無題"
さすらい日乗さん 

コンプレックスの塊のようなウディのお好みはインテリジェンスな女性たち………
ダイアン・キートン、ミア・ファロー、ダイアン・ウィーストが出ていた当時の作品が、やっぱり好きですね。
それと、案外男優の使い方も趣味がいい(笑)。
2013.04.12 00:15 | URL | #- [edit]

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