TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「カイロの紫のバラ」*ウディ・アレン

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THE PURPLE ROSE OF CAIRO
監督:ウディ・アレン
脚本:ウディ・アレン
撮影:ゴードン・ウィリス
音楽:ディック・ハイマン
出演:ミア・ファロー、ジェフ・ダニエルズ、ダニー・アイエロ、ダイアン・ウィースト
☆☆☆☆ 1985年/アメリカ/84分

    ◇

 ショウビジネスへのノスタルジアをかき立てた『ブロードウェイのダニー・ローズ』につづいて発表された本作は、映画への愛にあふれたファンタジー・ロマンスとして、すべての映画ファンを幸せな気分にさせてくれる作品になっている。
 現実逃避で映画館に通う主人公を見ながら、われわれ観客も虚構の世界から夢と幸福を共有させられるといった[映画の本質][映画の力]を感じさせてくれる傑作である。


 1930年代のニュージャージー。
 失業中の夫(ダニー・アイエロ)を、ウェイトレスの仕事で支える妻のセシリア(ミア・ファロー)。惨めな生活と夫との愛の無くなった生活を逃れるために、セシリアは映画館通いをしている。
 今上映されている『カイロの紫のバラ』という作品に夢中のセシリア。ある日、映画に夢中になり過ぎたために、ダイナーでヘマをやらかしウェイトレスの職をクビになってしまう。
 セシリアは自分の不甲斐なさに涙し、その辛さを忘れるために映画館に足を運ぶ。何度も何度も繰り返し観る『カイロの紫のバラ』。
 本編では上映のモノクローム作品のタイトルを何度も映し、その度に上映シーンも進む形でわれわれ観客にも『カイロの紫のバラ』を観ている感覚を味あわせてくれる。

 そして突然、スクリーンの中から冒険家のトム・バクスター(ジェフ・ダニエルズ)がセシリアに語りかけてきた。
 「君はいつも見に来てくれるね」
 「わたしの、こと?」
 「そう。これで5回も見ている」

 そう言うとトムはスクリーンを飛び出してくる。 
 「いつも君を見ていた」
 実際には俳優がカメラを見て愛の告白をしているのを、観客は自分を見ていると想像しながら夢心地になれるのが映画の力。
 現実世界に出て来たトム。スクリーンの中の人物たちが「戻れ!」と叫ぶが、トムはセシリアを連れて劇場を出て行く。
 「もう辞めた。2,000回も同じ芝居、やってられないよ」

 「どこへ行った?」
 「外の世界」
 「外はどうかな?」
 「楽しくなさそうよ」
 登場人物がひとり居なくなり、画面の中では登場人物たちが勝手なことを言い出す始末。
 スクリーンの中と観客との言葉の応酬が楽しい。

 映画館の喧噪をよそに有頂天なセシリア。ひと目惚れをして結婚を迫るトム。“映画のような”ロマンスがスタートするのだが、そこに、自体を収拾するためにトムを演じている俳優のギル(ジェフ・ダニエルズ:二役)が現れ、ギルもまたセシリアにひと目惚れをして愛の告白をする。 
 〈虚構の世界〉のトムと〈現実の世界〉のギル。

 ♪ 夢中になるのはやめましょう 夢はいつか終わるものだから
   その日を楽しくすごしましょう ふたりで ♪

 セシリアが選んだのは現実逃避していた〈虚構〉のトムではなく、金も名誉もある〈現実〉のギルの方だ。しかし、セシリアは〈現実の世界〉に打ちのめされる。夢の儚さと現実の厳しさを突きつけられたセシリアが向うところは、映画館しかなかった。

 ここからラストまでの数分間が秀逸。
 上映されているのは恋焦がれた『カイロの紫のバラ』ではなく、ミュージカル映画『トップハット』に代わっている。虚ろな目でスクリーンを見つめるセシリア。
 「Cheek to Cheek」に合わせて、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが踊っている。徐々に、セシリアの顔にほんの少し笑顔が戻ってくる。

 至福の時を与えてくれる映画。辛い日常を忘れさせてくれる映画の力……その場限りの慰めでも、人間生きてくための幸福感はないよりあった方がいいに決まってる。
 セシリアが観る『カイロの紫のバラ』から得た幸せが、セシリアが出ている『カイロの紫のバラ』を観るわれわれ観客の心地よさになる。見事なエンディングである。

 ミア・ファローの、全身で喜怒哀楽を表現する存在感と、このラストの表情は素晴らしい。

 また、ウディ・アレンの作品には欠かせないダイアン・ウィーストが本作で初登場する。トムの純粋な心(虚像だから当たり前)にホロリとする気のいい娼婦エマを演じている。笑顔がとても可愛らしく、おっとりした感じが好きな素敵な女優だ。
 彼女はこの後、ウディ・アレンの『ハンナとその姉妹』『ブロードウェイと銃弾』で2度のアカデミー賞助演女優賞を獲得している。

1986-05_カイロの紫のバラ

[ウディ・アレン作品]
★アニー・ホール★
★インテリア★
★マンハッタン★
★ブロードウェイのダニー・ローズ★
★マンハッタン殺人ミステリー★

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