TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「ブロードウェイのダニー・ローズ」*ウディ・アレン

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BROADWAY DANNY ROSE
監督:ウディ・アレン
脚本:ウディ・アレン
撮影:ゴードン・ウィリス
音楽:ディック・ハイマン
出演:ウディ・アレン、ミア・ファロー、ニック・アポロ・フォルテ
☆☆☆☆ 1984年/アメリカ/84分/B&W

    ◇

 先に紹介したウディ・アレン映画のマイ・ベスト3『アニー・ホール』『マンハッタン』『インテリア』は結果的にダイアン・キートン出演作になってしまったのだが、ミア・ファロー出演作も忘れてはいない。『ブロードウェイのダニー・ローズ』『カイロの紫のバラ』『ハンナとその姉妹』は、誰もが選ぶ珠玉の3作であろう。

 ビリー・ワイルダー映画のような人情コメディ『ブロードウェイのダニー・ローズ』は、ショウビジネスで働く人々の悲哀が描かれてゆく。
 50年代のイタリア・コメディを狙ったというモノクロームの映像は、『マンハッタン』同様にゴードン・ウィリスのカメラが陰影に輝くニューヨークの姿を美しく捉えている。

 ダニー・ローズ(ウディ・アレン)は、片足のタップダンサー、吃音の腹話術師、盲目の木琴奏者、解き方を学べない催眠術師など、ショウビジネスの世界の底辺にたむろする芸人たちのマネージャー。
 仕事は熱心で、芸人たちには親切。心優しい夢追い人の彼だが、少し芽がでた芸人たちは必ずみんな彼の許を離れてしまう。
 三流芸人を抱えたダニーの唯一貴重なタレントが、かつて消化不良を歌った「アジータ」というヒット曲を1曲だけもつイタリア人の歌手ルー・カノーヴァ(ニック・アポロ・フォルテ)だ。
 必死に売り込んだ末に、やっとウォルドルフ・アストリア・ホテルのショーの出演契約ができた。しかしショーの当日、ルーは愛人のティナ(ミア・ファロー)がいないと歌えないとダダをこねる。
 ティナは、大きく金髪をふくらませたカーリーヘアで、いつも大きなサングラスをかけ、タイトで派手な服を着て、がさつな言葉遣いのイタリアン・マフィアの未亡人。
 お人好しのダニーはティナのいるニュージャージーへ出かけるが、相手にしないティナはマフィアのパーティに出かけてしまう。このパーティにダニーも出席したために、ティナを恋慕するボスのひとりからダニーに自分の女をとられたと勘違いされ、マフィアのヒットマンたちに追いかけられるハメになる。
 ダニーらはなんとか追っ手から逃れ、当夜のディナーショーにティナを連れて行ったのだが、ダニーは思いもかけない裏切りを知らされる。
 自己中心的なティナだが長いことルーの才能を信じてきた彼女は、知り合いの有名マネージャーをルーに紹介していたのだ。そして、チャンスに飛びついたルーはダニーを捨てて去っていってしまった。

    ◇

 冒頭、老年のヴォードヴィリアンたちが“カーネギー・デリカテッセン”で、ダニー・ローズの噂話をするところからはじまる。この、ざわめきの中からはじまるシーンがとてもいい。
 “カーネギー・デリカテッセン”は、ブロードウェイの劇場近くにあるアメリカで一番有名なデリ。実際、ブロードウェイの芝居が終わったあとには芸能関係者たちの溜まり場になり、いつも満席。
 何度もニューヨークへ行ったわりに一度も入ったことはないのだが、はす向かいのウェリントン・ホテルの窓から“カーネギー・デリカテッセン”が見える部屋に泊まったときは、夜遅くまで賑やかだったのを見ている。
 撮影は実際の店舗のなかで撮影され、昔話に花を咲かせる男たちも本物のヴォードヴィリアンたちで、このなかには、ウディ・アレンがスタンダップ・コメディアンをやっていた頃のマネージャーもテーブルを囲んで出演している。
 
 エンターテインメントの世界で生きいくためには、3S[スター][スマイル][ストロング]のキイワードに支えられているという人生観で芸人たちに接するをダニーの優しさは、そのまま、ウディ・アレンのショウビジネスへの愛があふれる語り口で感じさせてくれる。
 風船アーティストやコップ演奏家など売れそうにもない芸人たちの売り込み、「セプテンバー・ソング」を弾くインコが猫に喰われてしまった調教師への労りなど、芸人たちを見つめる眼差しは優しい。

 もちろん義理や人情ばかりではなく、それと同じだけの不義理と不人情もある。ブロードウェイの小さな劇場から、ラスヴェガスの大きなステージに立つには大きなバックボーンがいる。だから苦楽を共にしたマネージャーを離れることは、それこそ日常茶飯事。
 ダニーにしても、ルーの裏切りの言葉を聞いた時は腹がたっても、これは致し方ないことだと彼を許してしまう。そして裏切りということで云えば、彼自身にも心当たりがあるからだ。

 ダニーとティナがマフィアに捕まったとき、ティナの相手の名前を稼ぎ頭のルーとは云えず、彼が抱える世界最低の腹話術師の名前で誤摩化してしまう。これはダニーにとって大きな罪の意識となる。
 そして、間違えられて暴行を受けた腹話術師へダニーはきちんと温かい手を差し伸べる。これもまた、マネージャーと云う仕事を知り尽くしているウディ・アレンの人物造形の深さが現れている。

 罪の意識としてはティナもまた、ダニーへの心残りがある。そして、この映画の最高のラストが待っている。
 1年後の感謝祭の日、ダニーの部屋では売れない芸人たちを招いて、こころばかりのパーティを開いている。「呼んでくれてありがとう」と芸人たちの楽しそうな顔から、ダニーの優しさが伝わってくる。そこに、ルーと別れたティナが訪ねてくる。
 「お詫びに来たの」
 「この1年ツイてなかった。このままでは失業さ」
 「友だちにならせて」
 「名案とは思えないな」
 帰ってしまうティナ。虚ろな顔のダニー。
 そして、7番街を走るダニーは“カーネギー・デリカテッセン”の前でティナに追いつく。
 ウディ・アレン映画にして、初めてのハッピーエンドと言えないかい。
 
 映画はヴォードヴィリアンたちの会話に戻り「ダニー・ローズ。彼は生きた伝説だ」の台詞で終わる。
 ダニーは、ブロードウェイで最高の名誉を得た。“カーネギー・デリカテッセン”のメニューには「ダニー・ローズ・スペシャル・サンドウィッチ」という名前が書いてあるのだから。
 そしてこのサンドウィッチは、今でも本当にある名物メニューだ。

 大きなサングラスでほとんど顔を見せないミア・ファローは、目が隠れているので、怒り、笑い、悲しみ、虚ろなど、表情での演技ができないのだが、タフでナイーブなセクシー美女を見事に演じている。女優の顔を隠したままの演出ってのが凄い。
 このティナ像は、ウディとミアが馴染みの有名イタリアン・レストランのオーナー夫人が、金髪にサングラスでいつも煙草を吹かしている姿を見て「いつかあんなキャラクターを演じてみたいわ」と言うミアの言葉がヒントで書かれたと云う。

 冒頭、劇中、エンディングに歌われる「アジータ」は、ルー役のシンガー・ソング・ライターでもあるニック・アポロ・フォルテのオリジナルで、チャップリン映画『ライム・ライト』の「ティティナ」に似た曲。軽快なイタリアーノ気分でウディの遊びごころが味わえるし、ショーの中で歌われる「マイ・バンビーノ」というオリジナル曲も、グッとくるカンツォーネである。

1985-09_ダニー・ローズ

[ウディ・アレン作品]
★アニー・ホール★
★インテリア★
★マンハッタン★
★マンハッタン殺人ミステリー★

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