TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「お引越し」*相米慎二監督作品



監督:相米慎二
原作:ひこ・田中
脚本:奥寺佐渡子、小此木聡
音楽:三枝成彰
出演:田畑智子、中井貴一、桜田淳子、笑福亭鶴瓶、青木秋美(現・遠野なぎこ)、森秀人、千原しのぶ

☆☆☆☆ 1993年/日本ヘラルド、アルゴ・ピクチャーズ/124分

    ◇

 ひこ・田中の児童文学小説を原作に、家族の崩壊と少女のこころの成長を描いた傑作。2013年のTVドラマ『夜光観覧車』(湊かなえ原作)で家族の崩壊を描いている脚本家・奥寺佐渡子の第1作目にあたる。
 両親の間で揺れ動く少女の行動を絶妙の長回しで見せていくホームドラマ的展開だが、安易に家族を再生させないのが相米慎二ワールドである。


 漆場レンコ(田畑智子)は京都鴨川近くに住む小学6年生。両親が離婚を前提に別居することになり、父親のケンイチ(中井貴一)が家を出て行く。
 母親のナズナ(桜田淳子)と一緒に新生活をはじめるレンコだが、いまいち実感が湧かない。勝気なナズナには不満がいっぱいで、次第にレンコの心の内にザワザワしたものが湧いてくる。
 同じように両親が離婚している転校生のサリーこと橘理佐(青木秋美)のことで級友たちと喧嘩したり、自分の存在を両親に認めさせようと篭城作戦を敢行したり、次第にレンコは学校にも家にも居場所を見いだせなくなってくる。
 ある日、昨年も行った琵琶湖への家族旅行に行けば、また元の平和な家族に戻れるのではないかと考えたレンコは、勝手に電車の切符やホテルの予約をする。
 ホテルのロビーで、もう一度3人でやり直したいと言い出すケンイチにナズナが怒りだす。いたたまれなくなったレンコはホテルを飛び出し、祭りをしている湖畔の町を彷徨う。
 そこで砂原という老人と出会い温かい言葉をかけられ力を得たレンコは、火祭りが最高潮を迎える中、ひとり森のなかに迷い込んでゆく……。

    ◇

 田畑智子のデビュー作である。
 実家の京都・祇園の老舗料亭に、たまたま来ていた相米監督から「彼女でなければ撮らない」と見初められた11歳の田畑智子が、とにかく素晴らしい。この年の新人女優賞を数多く受賞しているのは当然であろう。

 離婚する父と母の間で、小学生の女子の揺れ動く気持ちを無邪気に見せる前半から、様々な経験を経て両親と自分自身を乗り越え少女に変貌するまでの表情の移ろいは、演出の妙だけではなく田畑智子のセンス=存在感に尽きる。
 後年のインタビューによると、とにかく何処が悪いか指示もないまま、何度も何度も繰り返しの連続で、「タコ」(主演女優は必ず浴びせかけられる相米監督の口癖)「ガキんちょ」と罵られながら動いていたという。
 3ヶ月のリハーサル中には、中井貴一とボクシングごっこをするシーンのために立命館大学のボクシング・ジムに通ったという。女の子と父親の遊びのボクシングに、そこまで要求する冒頭のそのシーンは、11歳の女の子には見えないサマになった構えとシュート。母親桜田淳子へは全然子供らしくないジャブを浴びせるのだ。


 映画の冒頭は『家族ゲーム』の横一列の食卓に匹敵するような異様な夕食風景。二等辺三角形の変形食卓の底辺の位置にレンコが座り、頂点をカメラに向けてナズナとケンイチが向かい合わせに座っている。鋭角な構図から、大人同士の敵意と愛情の喪失感が象徴される見事な図である。

 レンコは父が大好きである。父が家を出て行く日の昼休み。学校を抜け出し様子を見に、全速力で帰ってくる。走る、走る、走り続けるレンコを、横移動のカメラが捉える。
 河原で転がっている父を蹴飛ばし、いつもしていたボクシングの練習で戯れる。二人がこれまで続けてきた触れ合いもこれでおしまい。レンコは「コーチ! 長い間お世話になりました!」と頭を下げる。
 ケンイチの荷物を乗せた軽トラックが走り出すと、レンコが追いかける。軽トラックからのカメラが走るレンコを捉え、カーブでスピードの落ちた頃合いに、レンコが荷台に飛び乗る。田畑智子の根性入ったシーンだ。

 学校の理科室で火事を起こしたレンコをナズナと担任の先生(笑福亭鶴瓶)が追いかける。延々と町中を走り抜けるレンコ。ここでも全力疾走の田畑智子。ついにはレンコだけがバスに乗車し、最後部席でしらっとした顔を見せる。とても過酷に走りまわされている田畑智子である。

 坂道を、レンコと同級生のサリーが1台の自転車を押しながらゆっくり登ってくる。サリーが離婚したパパに逢いにいった話をする。パパが結婚した新しい女のいる家に、どんな顔をしているか見に行ったのだという。だけどいなかったという。
 坂の上には、レンコたちより小さな子供らが遊んでいる。
 「どこ行ったん?」
 「病院」
 「え?」
 「赤ちゃんが出来たん」
 途端に土砂降りの雨が降ってくる。
 坂のうえから、レンコが走り出す。今来た坂を、全速力で下って行く。
 圧巻の長回しである。

 レンコの一生懸命さは田畑智子の躍動感と運動量で示され、動きのないシーンにおいては田畑智子の微妙な表情の動きがレンコの内面を表出させ、田畑智子の肉体は台詞以上を語ってくる。

 「満月 空に満月 明日は愛しいあのこに逢える」

 相米監督の演出のひとつに、よく歌を口ずさませるシーンがある。十朱幸代の「ちゃんちきおけさ」(『魚影の群れ』)や、志水季里子の「赤い靴」(『ラブホテル』)のように切なさが増幅してくるのだが、本作では、幼い田畑智子に「がんばれ、みんながんばれ」と井上陽水の歌でレンコの背中を押している。

 映画の終幕、森を彷徨うシーンは台本にはなかったという。物語のリアリズムを無視し、ホームドラマから幻想詩に逸脱する展開が、この映画の魅力のひとつでもある。
 琵琶湖畔に辿り着いたレンコの目の前に、過去の幸せだった家族の時間の情景が現れる。『フェリーニのアマルコルド』を連想する幻想的で荘厳な領域は、極めて美しいシーンだ。
 幻視するレンコはあの頃には戻れないことを悟り、過去の自分を抱きしめ決別する。それは父と母への決別でもあろう。
 新しい自分の誕生に「おめでとうございます………おめでとうございます」と、過去の自分に何度も何度も宣言するレンコの表情は、もはや子供の顔ではない。

 エンディングとクレジットタイトルも長回し、そして早変わり。
 街路樹が並ぶ遊歩道に、出演者たち(田畑智子の実家族までも)が様々な恰好で散らばり、その間をレンコが渡り歩く。

 「こんにちは。どこ、行きはるんえ?」
 「未来へ」


[相米慎二作品]
★ションベン・ライダー★
★魚影の群れ★
★ラブホテル★
★台風クラブ★

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