TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「かたみ歌」朱川湊人



 第133回直木賞を受賞した朱川湊人の受賞後第一作で、昭和を舞台に、切なくて、だけど心に温かい七つの“不思議な物語”を収めた短編集。
 直木賞受賞の『花まんま』は未読なのだが、この本の腰巻きの惹句を見て、先にこちらを読んでみたいと思った。

 『つらい時、悲しい時、どこからか聞こえてくる
  あの歌声が、いつも私の支えだった。』

 この中の数々の物語には歌が流れている。それが、なんとも懐かしく、郷愁を誘います。
 ザ.タイガースの『モナリザの微笑』、吉田拓郎の『人間なんて』、佐良直美の「いいじゃないの幸せならば』などは、各物語の重要なファクターとなっている。

 三十年近く昔。アカシア商店街という名のメインストリートを持つ東京の下町には、いつも『アカシアの雨がやむとき』が流れている。そしてそこには、傷ついた人々をやさしく包む不思議な出会いと奇蹟の出来事が起きていた。
 七つの物語に登場するのが古本屋の『幸子書房』。一見気難しそうで芥川龍之介のような風貌をした店主が語るには、近くにある寺には“あの世”と“この世”を繋ぐ何かがあり、寺の近くで奇妙な事が起こるという。それぞれの登場人物は、この店主と出会うことで自分の姿を見つめ直してゆき、かけがえのない思い出を創ることになるのだが、それは読者への感動として伝わってくる。

 心にしっかりと滲みる七つの物語には癒されます。泣かされます。お勧めです。

かたみ歌/朱川湊人
【新潮社】
定価 1400円(税別)


★以下、簡単に七つの物語に触れます。

◆紫陽花のころ
この町に越してきた作家志望の私と年上の比沙子が体験する、篇としての序章的作品。

◆夏の落し文
小学三年生の私と五年生の兄との、あの夏の別れ。
子供の頃の時間はとてつもなく長く濃密だったという一文に、きらきらしていたあの頃を思い出す。
最後の一行には涙した。

◆栞の恋
『幸子書房』を舞台に、酒屋の邦子の栞の文通が描かれる。携帯やメールの恋物語では描けないトワイライトゾーンだ。
「森トンカツ、泉ニンニク~」と歌う『ブルー・シャトウ』が懐かしい。

◆おんなごころ
「栞の恋」にも登場したスナック『かすみ草』のママ初恵が主人公で、七編中一番辛い話だ。『嫌われ松子』を思い出すような、男に振り回される女・豊子のおんなごころ。松子のように前向きになれなかったぶん、豊子は悲劇で惨めだ。

◆ひかり猫
誰もがどこかに隠し持っている孤独感。一匹の猫の魂が癒してくれる物語です。

◆朱鷺色の兆
死神が見えることで生と死に怯えた過去を持つ団塊世代の中古レコード屋のオヤジの独白。

◆枯葉の天使
それまでの六編にリンクしたこの一編は、『幸子書房』の店主の謎が明かされる。

「会えるのを楽しみにしています。でも、なるべく、ゆっくりゆっくり、来てください。」

グッとくる話です。そして、優しい気持ちにさせられて終わります。
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