TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「夢売るふたり」*西川美和監督作品

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監督:西川美和
原案:西川美和
脚本:西川美和
音楽:モアリズム
出演:松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈、鈴木砂羽、安藤玉恵、江原由夏、木村多江、やべ きょうすけ、大堀こういち、倉科カナ、伊勢谷友介、小林勝也、香川照之、笑福亭鶴瓶

☆☆☆☆ 2012年/日本・アスミック・エース/137分

    ◇

 常に自分のオリジナル脚本にこだわり作品を撮りあげてきた西川美和監督の3年ぶりの新作は、可笑しく、愛おしく、そして、切ない男と女の愛の物語だ。


 東京の片隅で暮らす市澤貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)夫婦は、十年以上頑張って念願叶って開いた小料理屋「いちざわ」を火事で失う。
 もう一度自分たちの店を持とうと、里子はラーメン屋で働きはじめるが、貫也は立ち直れない。
 ある夜、貫也は駅のホームで常連客だった玲子(鈴木砂羽)に会う。泥酔していた彼女をマンションに連れてゆき一夜を共にした貫也は、事情を聴いた玲子から前の日に不倫相手からもらった手切れ金を手渡される。
 金の次第を知った里子は、店を再開するための資金集めに結婚詐欺を思いつく。
 里子が隙のある女を探し計画し、貫也が言葉巧みに女たちの心の隙間に入り込む。
 仕事も恋もうまくいかない独身OL咲月(田中麗奈)、辞め時を探している孤独なウエイトリフティング選手ひとみ(江原由夏)、留学を夢見ながらも男運の悪い風俗嬢紀代(安藤玉恵)、息子を抱えたシングルマザー滝子(木村多江)。
 しかし同じ夢を見ていたはずの夫婦は、いつしか自分たちには気づかなかった一面と向き合うことになる………。

    ◇

 ゆったりしたアコースティック・ギターの調べに乗って、登場人物たちがスケッチされるタイトルバックから、今回もまた西川監督の人間描写を楽しませてくれるのだなと予感。

 西川監督として初めて“女の物語”を展開し、だます女にも、だまされる女にも、“女の心情”が痛々しく描かれ、女の意地や、女の凶暴さは、女の視線で描いているからこそで、日常のなかの女の“生と性”も生々しく曝け出されていく。

 貫也から渡された玲子の金を燃やしはじめ、貫也を風呂場の熱い湯船の中で問いただす里子のゾッとする凄み。里子の心に決意のスイッチが入るシーン。それまでの献身的な仕草や、自転車の二人乗りなど微笑ましかった里子の顔から笑顔が無くなる瞬間。徐々に貫也と心と身体が離れていく過程の表情の変化。
 健気で自分の感情を表に現さない里子を演じる松たか子の、眼の奥で演じる無表情の感情表現が素晴らしい。
 映画全体の雰囲気を、松たか子ひとりで女の恐さ、優しさ、エロティックさを感じさせているところが凄い。

 夫婦の夢を叶えるために女たちに夢を売っていたはずの貫也が、苦しくも叶わぬ夢を追いかけている女たちに自分を気づかされる。
 自分の心と身体そして夢を切り売りしていた淋しさと、女たちに自分を曝け出し安心感に包まれていた貫也は、里子が本当に欲しがっているものに気づく。

 それは、女のプライド。

 里子だって自分で判っている。でも、どうしようもないんだよな。里子のこころが切ない。
  
 嬉々として自転車で、女のところに出かける貫也の背中を見送る里子。そのあとの包丁のシーンにも里子のプライドが見える。
 しかし、それが衝撃の展開に繋がるだなんて誰も予想できない。
 雨の中の、赤い傘と光る包丁だなんて、いい小道具だ。

 交差点で、事の始点となった玲子と目があう里子。自分の中だけで、苦しみ溺れた里子の背負ったものの大きさが少し判った気がする。
 
 夢を叶えようが、夢に破れようが、女たちはしっかりと次の道を歩んでゆくラスト。貫也が見る空と里子が見る空に、未だふたりの夢は残されているよ、と西川監督は言いたげだ。

 阿部サダヲの情けなさと、笑福亭鶴瓶の得体の知れなさも良かった。


★ゆれる★
★ディア・ドクター★
★きのうの神さま★

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