TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「狂った果実」*根岸吉太郎監督作品



監督:根岸吉太郎
脚本:神波史男
撮影:米田実
助監督:池田敏春
音楽:甲斐八郎
主題歌:「狂った果実」アリス
出演:本間優二、蜷川有紀、益富信孝、永島暎子、岡田英次、小畠絹子、北見敏之、粟津號

☆☆☆★ 1981年/にっかつ/84分

    ◇

 石原裕次郎主演の『狂った果実』('56)のリメイク作品ではない。
 これは、1980年にリリースされたアリスの「狂った果実」の歌詞をモチーフにした青春ロマン・ポルノで、70年代の空気を漂わせながら80年代のカッタるい若者たちを描いた秀作である。

 ブルジョワ層の享楽的な生き方と富める者への憎しみを爆発させる終幕など、中平康監督の『狂った果実』をベースにした感もあるが、どちらかと云えば、師である藤田敏八監督風青春映画の趣きだ。それは、藤田監督の名作『帰らざる日々』と同じく、アリスの歌が若者の息づかいとなっているところに感じるのかもしれない。

  生まれてきたことを 悔やんでないけれど
  幸福に暮らすには  時代は冷たすぎた
  中途半端でなけりゃ 生きられない それが今


 ガソリンスタンドで働く佐川哲夫(本間優二)は、夜は新宿のぼったくりバー〈パラダイス〉で働いているが、生活は真面目な二十歳の青年だ。実家は亡くなった父親が神主だった神社で、田舎から出てきて一人暮らしをしている彼には、毎朝のジョギングと単調で冴えない生活が日々日常だ。母親には毎月仕送りをしている。
 ある日、給油に来た数人の若者の車の助手席に千加(蜷川有紀)がいた。

 今日は、バーの兄貴分でボクサーあがりの大沢(益富信孝)からホステスの春江(永島暎子)と結婚するからと祝言の“祝詞”を頼まれる。感動する春江はお腹に子どもがいることを告げ、大沢も感激をして哲夫の前で春江を抱き始めた。堪らなくなった哲夫はアパートを飛び出し、街を走る。

 熱くなった哲夫は駐車場の片隅でマスターベーションに耽り、それを見ていたのが千加だった。義父(岡田英次)のスポーツカーを借り、適当な遊び相手として哲夫をドライブに誘う千加。突然の雨で車を止めたところで哲夫は千加に襲いかかるが、ことを果たせず射精してしまう。

 「わたしも、途中からその気になって滑稽でした」

 翌日、哲夫の働くスタンドに「強姦魔さ〜ん」とからかいに来た千加。彼女に動揺する哲夫は客の車をぶつけてしまいスタンドをクビになる。

 「あんた学生さん?」
 「デザイン学校でインテリア専攻です」
 「ふ〜ん、翔んでるっていうのかな」
 「翔んでるなんて、そんなかったるい。漂ってるんだなぁ。蜉蝣飛行………」

 その夜〈パラダイス〉で金払いの悪い客をぶちのめした哲夫は警官に追われ、現れた千加と連れ込み宿に逃げ込み、ふたりは結ばれる。

 高慢なブルジョワ令嬢に惹かれてく哲夫。千加から義父の東野と肉体関係があり子どもを宿したと聞いた哲夫は、東野の経営するデザイン会社に乗り込み堕胎の金を要求するが一蹴される。

 いじましいほど真っすぐで、今を懸命に生きている哲夫に嫉妬し、愛情表現の裏返しとしてサディスティックな行動にでる千加は、遊び仲間のドラ息子たちをけしかける。

 「ポテト畑を荒らしに行かない?あの子が働いているダッサ〜いお店」
 「ご執心だね」
 「そう、だから徹底的にからかいたいですよ」

 〈パラダイス〉で大暴れする男たちだが、はずみで春江のお腹を蹴ってしまい彼女は流産してしまう。
 事情を知った大沢は千加たちの溜まり場に殴り込むが、元ボクサーとはいえ多勢に無勢。反対に瀕死状態にされてしまい、連れ立ってきた哲夫は包丁で若者ふたりを刺してしまう……。
 
    ◇

 『十九歳の地図』の少年そのままに、本間優二が走る。朝靄のなかを走る。都会を走る。田舎者の内省的正義感と屈折した青年を本間優二は見事に体現し、蜷川有紀の無表情さは屈折した千加の憂い顔に見事にはまっている。ラストの修羅場における茫然とした表情もいい。

 そして屈託のない笑顔を見せる永島暎子の存在感が、最後の男ふたりの暴力への衝動に説得力を持たせている。
 最高に可愛い女、永島暎子は次作『竜二』でもっともっと輝くのである。
 
 監督の根岸吉太郎はこの作品と同時に、初めて他社で撮り上げた『遠雷』(ATG/ブルーリボン賞監督賞受賞)で一般映画への足がかりと大きな手応えを得たのだが、本作はロマンポルノとしては必要以上な性描写もなく、情交シーンは『遠雷』の方が生々しい。これは、たわわなな石田えりと蜷川有紀の希薄さの大きな違いだろうが、しかしどちらも、若者たちの生きているという強い共感が感じられる作品が並んだことになる。

 終幕、血だらけのままアパートから郷里の母親に、給料が上がったと電話する哲夫に胸を打たれ、明け方、足を引きずりながらいつものようにジョギングをする哲夫の横を覆面パトカーが通り過ぎるラストショットは忘れ難いものとなる。
 田舎から出てきて都会のなかを浮遊していた青年にとって、現実という居場所はどこまでも残酷だ。



★十九歳の地図★
★帰らざる日々★
★竜二★

[根岸吉太郎作品]
★濡れた週末★
★透光の樹★

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Comment

ひまわり says... "今夜は"
『危険な関係』(監督:藤田敏八) 
ゲスト:根岸吉太郎(『危険な関係』助監督)×寺脇研×荒井晴彦 を渋谷で観て来ました!前に書いた藤田敏八監督の本の出版記念でトークショーもあって貴重な時間を過ごせました!今日早速読んでみます!
2012.08.29 23:46 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: 今夜は"
>ひまわりさん

クリエイションの奏でる「危険な関係のブルース」………ブルージーなハープとピアノの音色が忘れ難いですね。
2012.08.30 23:56 | URL | #- [edit]

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