TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「オリンピックの身代金」三好徹



 ここぞとばかりにナショナリズムが芽生えるオリンピック。
 ロンドン・オリンピックの開幕式を朝っぱらから充分に堪能したミーハーには、「ジェームズ・ボンドのテーマ」が流れたところでワクワクしてしまったではないか。女王陛下の小芝居も凄いよなぁ。歴史と伝統の大英帝国の、シニカルでウィットに富んだ演出は面白かった。

 ストーンズの曲も流れ、締めのポール・マッカートニーの「ヘイ・ジュード」は出だしのミスもご愛嬌。

 選手入場のインドのチームのハプニングも、関係者にとっては蒼白ものだが、案外みんな気がつかないってところがメンタリズムか……。

 肥大するオリンピック事業でよく言われてきたのが、テレビ放映権の高騰と高額なスポンサー協賛金による商業主義。これは1984年のロサンゼルス・オリンピックが発端であったが、コマーシャリズムが悪いものでもなく、ロサンゼルス大会は税金を一切使わずに行われたオリンピックでもあったわけで、開催国の多額の費用負担を軽減した一面もあるわけだ。

 今回のロンドン・オリンピックの開会式では、参加したボランティアの人々は無料出演で、ポール・マッカートニーやMr.ビーンことローワン・アトキンソンらも無料のパフォーマンス(契約上1ポンドを受け取る必要はあった)を披露してくれた。

 しかし、小さな国や発展途上国の選手が参加できるようになった現実を横目に、莫大な放映権とスポンサー料が一部の人間の懐を潤すという金権体質を生んだのも確か。

    ◇

 さて本書は、1981年に刊行された「コンピュータの身代金」からはじまる“身代金シリーズ”3部作”の最終作で、莫大な五輪マネーを標的にしたクライム小説だ。
 2009年に吉川英治賞を受賞した奥田英朗の同名「オリンピックの身代金」は東京オリンピックが舞台だったが、本書は1984年のロサンゼルス・オリンピックがターゲット。
 初出はロサンゼルス・オリンピック開幕前、1984年『EQ』5月号から4回に分けて連載されていた。

 「30億円をすべて千円札の札束で用意せよ。さもなくばオリンピックの衛星中継を妨害する」
 日本最大の放送局NBCに届いた脅迫状により、対応をめぐって対立する局の上層部。奇想天外な犯人に対する報道局長は、彼らの不可解な動機から一味を割り出すのだが……。


 1981年にカッパノベルスから刊行された「コンピュータの身代金」により、日本の犯罪小説の分野で燦然と輝く三好徹の“身代金シリーズ”がはじまった。1983年に「モナリザの身代金」が発表され、翌年にこの「オリンピックの身代金」が3部作を締めくくった。
 このシリーズの特徴は、泉と名乗る経歴不詳の天才犯罪者の犯罪美学だ。
 
 血を一滴も流さない誘拐。それは、身代金のターゲットが生身の人間ではなく「コンピュータの身代金」「モナリザの身代金」といったようなモノであり、或いはこの「オリンピックの身代金」のようにカタチのないものを狙うこと。
 そして「コンピュータの身代金」は10億円、「モナリザの身代金」は20億円、この「オリンピックの身代金」では30億円を要求するというように、被害者は銀行や国家といった権力者であり、それに対する挑戦といったかたちがカタルシスを感じる読み物となっている。

 いわゆる、コン・ゲームとしての面白さがあるシリーズだ。
 いかにして膨大な身代金を盗み、捜査側を出し抜くのか……。
 計画を把握するのは泉ひとりだけで、思いもよらない展開と“どんでん返し”を喰らうのは読者ばかりではない。全作で泉に協力する銀座のバーのマダム井出圭子や、誰が仲間なのかを知らずに協力する他の仲間との頭脳対決が、「黄金の七人」や「ルパン三世」のような趣きで展開していくから面白い。 
 ただ、完結作として「モナリザの身代金」の続編となった「オリンピックの身代金」は、世界に舞台を移したことで少し展開が大雑把になった感はあるかな。
 それでもやはり、誘拐ものミステリとして充分にクオリティは高く、面白く読める。ノベルスも文庫も絶版だというのが惜しい話である。

 「コンピュータの身代金」と「モナリザの身代金」は火曜サスペンスでドラマ化されており、藤竜也と浅野ゆう子の主演、ともに監督は西村潔だった。


★オリンピックの身代金*奥田英朗★



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コンピュータの身代金/三好徹
【光文社】カッパノベルス:1981年
(絶版)

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モナリザの身代金/三好徹
【光文社】カッパノベルス:1983年
(絶版)

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