TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「深夜の告白」*ビリー・ワイルダー

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DOUBLE INDEMNITY
監督:ビリー・ワイルダー
原作:ジェームズ・M・ケイン
脚本:ビリー・ワイルダー、レイモンド・チャンドラー
撮影:ジョン・サイツ
音楽:ミクロス・ローザ
出演:バーバラ・スタンウィック、フレッド・マクマレイ、エドワード・G・ロビンソン

☆☆☆★ 1944年/アメリカ/107分/B&W

    ◇

 ビリー・ワイルダー監督第4作目にして最初のヒット作品は、男と女の醜い部分が曝け出され、金と情欲により破滅していく男の物語。倒叙ミステリー映画の先駆的作品であり、ファム・ファタールものの古典として燦然と輝くフィルム・ノワールである。


 ロサンゼルスの保険会社の外交員ウォルター・ネフ(フレッド・マクマレイ)は、実業家のディートリクスンの美しい後妻フィルス(バーバラ・スタンウィック)に惹かれ、彼女と不倫関係に堕ちた。そして彼女にそそのかされ、夫にかけた多額の保険金目当ての完全犯罪の計画を練ることになる。
 生命保険など必要ないと云うディートリクスンを欺き倍額保険の契約を締結し、松葉杖のディートリクスンを駅まで送るフィルスの車の中で彼を撲殺するネフ。ディートリクスンに見せかけ列車に乗るネフの周到な偽装工作により、ディートリクスンは列車からの転落事故として処理された。
 完璧だったはずの殺害計画だったが、ネフの同僚である敏腕調査員キーズ(エドワード・G・ロビンソン)は長年のカンによって疑惑を抱きフィルスの身辺調査を始める。
 保険金を手に入れられないまま、追いつめられていくネフとフィルス。そして、ディートリクスンの前妻の娘ローラがフィルスの正体を語ることから悲劇が訪れる………。

    ◇

 1920年代のアメリカで実際に起きた事件を基に、ジェームズ・M・ケイン(『郵便配達は二度ベルを鳴らす』)が書き上げた原作『殺人保険(倍額保険)』('43)を、レイモンド・チャンドラーとビリー・ワイルダーが共同で脚本を練ったのだが、映画の脚本は初めてのチャンドラー(当時50代)と、若くに脚本家デビューをして名脚本家と認められていたワイルダー(当時30代)の間にはかなりの軋轢があり、完成に至るにかなり難航したという。

 タイトルバックに松葉杖の男のシルエットが不気味に映ったあと、銃弾で重傷を負ったネフが深夜のオフィスでレコーダーに事件の顛末を録音(告白)するところから始まり、回想の形で映画は進行する。
 一人称形式で語られる主人公の心情吐露が、気怠さと退廃を醸し出すムードとなりハードボイルドというひとつのスタイルとなっているが、この独白形式は主人公が見たもの、聞いた事しか描かれることがないので、たとえば主人公の心理的行動の移ろいからネフが味わうスリルをも体感できるようになっている。
 逆に、彼の居ないところでのフィルスの行動や思惑は推測でしかない。だから、彼女の真意がどうだったのか、ローラが語ったフィルスの素性は信用できるのか、本当の事は判らない。

 ネフがフィルスを問い詰めにいくクライマックス。
 「音楽がうるさい」と窓を閉めるネフの姿に銃声だけが聞こえる。
 「下手だな。もう一発撃ってみろよ」と、フィルスに近づきピストルを取り上げるネフ。「愛していたなんて言うなよ」
 フィルスの表情が変わる。「誰も愛してなんかいない。たった今まで思っていたのに…こんな気持ち初めてよ」
 抱きつくフィルスに「グッバイ、ベイビー」と銃声…そして崩れ落ちるフィルス。
 
 ジェームズ・M・ケインの犯罪小説とともに本作は、削ぎ落とされた台詞とストーリー展開、サンスペンスフルに奏でられる音楽など、以後のクライム映画に残した影響は計り知れないものがある。

 ネフが車の中で殺人を犯すとき、カメラはフィルスの表情だけを撮りつづける。ここは好きなシーンだ。

 当時のハリウッドにおいて、悪女に翻弄される男の役を承諾するスターたちはいなかったという。(グレゴリー・ペックやアラン・ラッド、スペンサー・トレーシーにオファーするものの)
 そんな中でネルを演じたフレッド・マクマレイも、悪女のレッテルに二の足を踏んだであろうバーバラ・スタンウィックも、それまでの人の良い、明るい役柄を捨てての新境地を見せたことになる。
 ギャング・スターで名を馳せたエドワード・G・ロビンソンが、犯罪を暴いていく側で存在感を見せつけているのもいい。
 始終葉巻を銜えるキーズ役のロビンソンに、マクマレイが鑞マッチを擦るシーンが何度も出てくるのだが、これが最後に深い余韻を残す演出になっている。

 本作を元ネタにローレンス・カスダン監督とキャスリーン・ターナーが鮮烈なデビューを飾った『白いドレスの女』('81)のように、悪女が微笑んでエンディングというわけにはいかないこの時代。犯罪者が生き残るのはアンモラルとして許されないこととして、ビリー・ワイルダーは当初、ネフが電気椅子で処刑されるシーンを撮ったのは有名な話。しかし、これはこれで残酷だということで、ネフとキーズの男の友情を付け加えたエンディングにしたという。チャンドラーは反対したらしいが、男ふたりのラストシーンの方が味わい深いものだ。

 個人的には、ヒロインの悪女ぶりも驚愕のラストの余韻も『白いドレスの女』の方が断然好みなのだが………。

★白いドレスの女★
★郵便配達は二度ベルを鳴らす★





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Comment

ひまわり says... ""
こんばんは!僕も「白いドレスの女」です。近々ロバートアルトマンの「三人の女」と「クインテッド」が初DVD化らしいです!これも楽しみです。
2012.07.05 20:59 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
>ひまわりさん

『白いドレスの女』は、必ずマイ洋画オールタイムベスト10に入れますよ。

ロバート・アルトマンの作品、今年になってから『ナッシュビル』『プレタポルテ』が初DVD化されましたが(それも廉価版で!)、今度は『3人の女』の登場ですか……

やっぱり70年代の作品が好きですね。
『マッシュ』は衝撃でしたし、『ロング・グッドバイ』は過去にレヴューした通りMy Bestですし、続けざまの『ボウイ&キーチ』『ナッシュビル』も素晴らしかった。
80年代に入って偉大なる珍作『ポパイ』で低迷(?)、そして90年代になって『ザ・プレイヤー』『ショート・カッツ』『プレタポルテ』の群像大作で甦りましたね。
最後の作品『今宵、フィッツジェラルド劇場で』は、辛辣さが薄れていたし、力強さもなく、面白くなかったです……。

『クインテット』は初めて聞くタイトル………検索してみたら日本未公開のポール・ニューマン主演のSFスリラーですってね。ブリジット・フォッセー、ビットリオ・ガスマン、フェルナンド・レイらの名前もあって興味は湧きますが……………
2012.07.06 11:13 | URL | #- [edit]

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