TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「殺意の夏」*ジャン・ベッケル

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L'Été meurtrier
One Deadly Summer
監督:ジャン・ベッケル
原作:セバスチャン・ジャプリゾ
脚色:セバスチャン・ジャプリゾ
撮影:エチエンヌ・ベッケル
音楽:ジョルジュ・ドルリュー
出演:イザベル・アジャーニ、アラン・スーション、シュザンヌ・フロン、ジャン・ガヴァン、マリア・マチャド

☆☆☆☆ 1983年/フランス/134分

    ◇

 1983年のカンヌ国際映画祭に上映され、セザール賞でイザベル・アジャーニの主演女優賞をはじめ助演女優賞・脚色賞・編集賞を獲得したジャン・ベッケル監督のサスペンス・ドラマだ。
 原作は『さらば友よ』(原作・脚色)『雨の訪問者』(脚本)『狼は天使の匂い』(脚色)のセバスチャン・ジャプリゾの同名小説で、1977年にドゥ・マゴ賞を受賞したこの原作をジャプリゾ自身が脚色している。


 オープニング・タイトルは自動ピアノを台車に乗せて、山道、雪道を歩き、田舎町を廻る男。自動ピアノの音色に合わせて村人たちが踊る、閑村の唯一の娯楽だったろう。

 「私は裁判官にして陪審員……
  事件全体を調べ“お前を死刑に処す”と、狡いフュリーは言う」
              ルイス・キャロル〈不思議の国のアリス〉
 
 『雨の訪問者』『狼は天使の匂い』と同じように、ジャプリゾはここでもルイス・キャロルの詞を引用している。この裁判官と陪審員の意味が映画全体を覆うことになる。


 フランス南部の小さな町に、ドイツ人の母ポーラ(マリア・マチャド)と身体が不自由で車椅子の父ガブリエルとともに、エリアーヌ(イザベル・アジャーニ)という美しい娘が引っ越してきた。
 通称エルと呼ばれる19歳の彼女は、いつも露出的な服と派手な行動で注目を集めていた。そんなセクシーなエルの姿に、自動車修理工で消防夫のフロルモン(アラン・スーション)はすぐに惹かれた。パン・ポンとアダ名される彼は、スポーツマンのミッキー(フランソワ・クリュゼ)と頭のいいブブ(マニュエル・ジェラン)の二人の弟、母親(ジェニー・クレーヴ)と空襲で耳が遠くなった叔母コニャーク(シュザンヌ・フロン)の5人で暮らしていた。
 ある日エルは、パン・ポンの家の納屋にあった古い自動ピアノを見て、心の奥に秘めたある決意を呼び起こすのだった……。

    ◇

 映画は、パン・ポン、エル、ポーラ、コニャークのモノローグで綴られていく構成で、ミステリアスでサスペンスフルに展開していくのだが、実質謎解きは主題ではなく、エルが抱える心の問題を綴っていくものだ。そして、10代の少女に惚れ込んだ30男の悲劇を生みだしてしまう。
 論理的説明のつかないところもあるが、オープニングの意味やモノローグ多用の仕掛けは楽しめる。

 気難しい女優で知られるイザベル・アジャーニが、この映画ではふんだんにオールヌードで出てくるのだが、スターというより演技者としてそのスキャンダル性を吹き飛ばすくらいの魅力で、見事にサスペンスフルなストーリーのなかで女優魂を見せている。まさに、天使と悪魔を併せ持った女優だ。
 ゲルマン民族とアラブ民族の血が混じった美しさとまばゆいくらい可愛らしい童顔が麗しく、キュートな顔と冷たい顔でセクシーに振る舞う姿は、27歳(役柄は19歳)とは思えないあどけなさだ。

 私生活のアジャーニのようにエルも周囲から奇異な目で見られるが、尻軽女に見えるエルが、実は仕組んでそのような振る舞いをしていることが、それぞれのモノローグによって徐々に判ってくる。
 本当は心優しいエルが、情緒不安定な精神を抱える元凶が自分の出生に関わることであり、自分のトラウマを克服するために“殺意”を持った不幸。
 最後の10分、悲劇への疾走と、ラストのスローモーション映像は衝撃だ。

 ◆以下、思いっきりネタバレしています。原作未読・映画未見の方は十分にご注意ください。








 1955年11月エルの母ポーラは、2人のフランス人とイタリア人の男たち3人にレイプされた。朦朧とするポーラの耳に聞こえたのは、彼らが乗ってきたトラックから流れる自動ピアノの音色だった。
 ポーラは夫ガブリエルに、警察にも誰にも話さないでと懇願する。それは彼女がドイツ人であり、小さな村で生活していくには何事もなかったことにするしか仕方がなかった。
 そして、エルが生まれた。ガブリエルは自分の子供の如く愛情を注ぎ、可愛がった。エルも、9歳の頃に父親と過ごしたときが今でも一番素敵な思い出だった。
 思春期になり、エルがガブリエルの子ではないと知り、母親のことを知り、男はみんな不潔なものだと感じるようになったある日、父親をスコップで殴り倒してしまう。そのため、ガブリエルは背骨を傷め半身不随になっていた。
 この辺りの描写はエルの断片的な想い出として映されるだけで、細かな説明はない。観客の考えるところでしかない。

 エルはいまでも育ての父が好きだ。でも、父親の方が一切エルと口をきくこともなく、部屋に閉じこもるだけだった。このわだかまりを解消するには、母親をレイプした本当の父親たちを殺すことだと、エルは固く信じ込むのだった。
  
 パン・ポンはエルと結婚するつもりで自分の家に連れてくる。奔放なエルに冷たい態度を示すパン・ポンの母親だが、叔母のコニャークはエルの良き理解者だった。エルの本当の姿を見抜いてもいた。叔母は、あの夜ピアノを運んできたのは製材所のルバレック(ジャン・ガヴァン)と彼の義弟で、パン・ポンの父親と一緒に酒を飲んでいたとエルに語る。

 初夏、パン・ポンはエルと結婚式を挙げた。しかし、祝宴の最中にエルが消えた。エルは、復讐をするための準備を敢行していたのだ。
 エルのレスビアン相手のかつての女教師に、自分がルバレックたちにレイプされたと嘘の告白をして、何かあったときにはパン・ポンに知らせるようにと、罠を仕掛けた。

 ミッキーがサイクリングレースに優勝した日、エルはルバレックから、あの日、トラックを使用したのは別の男たちだったと聞かされる。パン・ポンの家に自動ピアノを運んだのはもっと夜遅くのことで、そのことはエルの父親にも話したと云うのだ。
 それを確かめるために実家に駆けつけたエルは、父親から10年前に3人の男たちは自分が殺したと告白される。
 エルは、あまりのショックで精神に混乱をきたし、9歳の頃に精神退行してしまい精神病院に収容させられることになる。
 イザベル・アジャーニの、狂気を見せる顔から精神退化した幼子の優しい顔に変わるまでの様子には、儚く脆い硝子細工のようなエルそのものが宿っている。あらためて彼女の演技力の素晴らしさに感嘆するばかり。

 このあと、エルの暗い過去や復讐の行動など何一つ知らないパン・ポンは、エルが敷いた罠のとおりに行動し救いのない結末が待っているのだが、エルがどんなに奔放でも、何があっても、エルを守りつづけ、愛しつづけたパン・ポンの一途さと哀しみだけが胸に残っていく。

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★さらば友よ★
★雨の訪問者★
★狼は天使の匂い★

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