TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「果しなき欲望」*今村昌平監督作品

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監督:今村昌平
原作:藤原審爾
脚本: 鈴木敏郎、今村昌平
撮影: 姫田真佐久
音楽: 黛敏郎
出演: 長門裕之、中原早苗、 殿山 泰司、西村晃、 渡辺美佐子、小沢昭一、加藤武、菅井一郎、高品格

☆☆☆★ 1958年/日活/100分/B&W

    ◇

 今村昌平監督のデビュー3作目。重厚ながら喜劇的な演出で人間の“欲”を描き出した傑作犯罪映画であり、欲まみれのコメディだ。

 敗戦時、ある軍医が数人の部下と病院の敷地内の防空壕に、時価6000万円もの大量のモルヒネを埋めた。十年後に掘り出すことを約束に、その日、とある駅に男たちが集まった。
 大阪でラーメン屋を営む大沼(殿山 泰司)、薬剤師の中田(西村晃)、やくざ者の山本(加藤武)だが、彼らの前に英語教師の沢井(小沢昭一)と名乗る男が現れる。軍医の計画に参画したのは3人のはずで、大沼たちに見覚えのない男だったが、目立たなかった自分も当時の仲間だと言い張る沢井。そこに、妖艶な女(渡辺美佐子)が近づいてきた。軍医の妹の志麻と名乗り、兄は1年前に死んだと告げる。
 人数が増えてくることに釈然としない男たちだったが、とにかく全員で目的地に向ったのだが、辺りは商店街になり肝心の防空壕の上には肉屋が建っていた。
 5人は、はす向かいの空き家を借り、そこから肉屋の地下までトンネルを掘ってドラム缶を取り出す計画を立てる。
 大沼と志麻が夫婦を偽り、大家である風呂屋の主人(菅井一郎)に不動産屋を営むと交渉するが、高い敷金を吹っかけられ、あげくに失業中の息子の悟(長門裕之)を社員にしろと条件を出してきた。
 仕方のない5人は、悟を外回りに出し家には近づけないようにして、穴堀りをはじめることにする。

 ドラム缶が埋まった肉屋の娘リュウ子(中原早苗)と、彼女に恋いこがれる真面目な純情男の悟。この純粋な若者たちが物語に絡まり、欲望に塗れた人間たちのドタバタ劇が進行する……。

    ◇
 
 強い女と弱い男の図式で、犯罪者たちの破滅が軽快に描かれていくのだが、登場人物のキャラクターがきちんと描き分けられ、曲者揃いの名バイプレイヤーたちが変幻自在に演じているのだから、面白くないわけがない。

 主犯格となり穴堀計画を仕切るラーメン屋のオヤジ大沼は、金にも女にも目がない好色爺。「欲張りやけど正直者や」と嘯くものの、小心者の姿を曝け出す殿山泰司の存在感はさすが。
 穴堀り計画が始まるってところで強盗・強姦容疑で捕まってしまう加藤武。あらら、損な役回りと思っていたら、中盤、脱走して戻ってきて荒くれる。加藤武の凶暴性が顛末の歯車になる仕組みだ。
 その山本に、何につけても難癖を吹っかけられる教師の沢井。クチャクチャと音をたててものを喰い、「し、し、し、し、しっ」と卑屈に笑う小沢昭一は絶品!
 いつでも沈着冷静な中田は、西村晃の冷徹な目に集約され、粋で妖しい渡辺美佐子はむさ苦しい男たちに混じり、勝気さと妖艶さを振りまき好演。暴風雨の中を浴衣姿の裸足で走り回り、橋から川に落ちる凄まじさ。凄いと思ったら、渡辺美佐子はこの『果しなき欲望』でブルーリボン賞助演女優賞を獲っていた。

 揃いも揃って全員が小市民的小悪党だが、強欲な大家の菅井一郎や「悪党が勝ちや」と抜け目のなさを見せる高品格に見られる市井の人々のヴァイタリティも見逃せない。

 目の前で犯罪が行われていることを何も知らずに、能天気に恋人の心配ばかりする優柔不断で純情男の長門裕之と、そんな彼を天秤にかけるしっかり者の中原早苗。
 そんな若いふたりを狂言回しとして、先が読めないストーリー展開は、5人のなかで軍医が集めたメンバーでなかった人間の意外性を詰め込んで、サスペンスはつづく。


 深作欣二監督夫人で今年5月に亡くなった中原早苗は、『修羅雪姫』('73)で梶芽衣子に胴体を真っ二つに斬られるようなヴァンプ のイメージが強かったが、日活時代はキュートで可愛らしく、それでも主役・脇役とどんな役でも器用にこなす女優で知られていた。
 「処女、少女、娘、おばさん、ばばぁ、となんでもね。だいたい女は女の役をやれるのよ」
 彼女をインタビューした『女優魂』(ワイズ出版)という本のなかでの名言だ。この『果しなき欲望』についても語っている。
 「クレジットは私と長門さんだけど、映画の主役はこいつら( 殿山 泰司、西村晃、 渡辺美佐子、小沢昭一、加藤武)よ」 
 「美佐子さんとは3つ違いなのに、わたしは娘役で美佐子さんは年増。でも美佐子さんはよく演ってるわ。男たちに混じって土砂まみれになって、雨でずぶぬれ、川に落ちる……私ならやらない」
 「でも映画は面白いわね。イマヘイ監督見直したわ」
 「実は私、今村昌平が大嫌い。『豚と軍艦』('61)で喧嘩したの…………」
 気が強く、素っ気ない言い方で語るこの本も面白い。

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