TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「恐怖の報酬」*アンリ=ジョルジュ・クルーゾー



LE SALAIRE DE LA PEUR
監督・脚本:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
原作:ジョルジュ・オルノー
主演:イヴ・モンタン、シャルル・ヴァネル、ペーター・ヴァン・アイク、
   フォルコ・ルリ

☆☆☆☆☆  1953年/フランス/149分/B&W

    ◇

 フランスのヒチコックとも呼ばれているアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が創りだしたこの傑作は、サスペンス映画の古典とも原点とも云われている。
 ストーリーはいたってシンプル。
 4人の男たちが高額な報酬のために危険なニトログリセリンを目的地まで運ぶ話だ。そのニトログリセリンがいつ爆発するか判らないという恐怖が、サスペンスとスリリングさを生み出し観客に緊迫感をもたらす。
 人物造形もしっかりと描かれ、ありがちなサスペンスだけの薄っぺらなドラマになっていないのは、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したことで証明されている。

 この映画を最初に知ったのは小学6年の時だった。クラス担任のK先生は無類の映画好きで、ホームルームの時間には気に入った映画の話をよく語っていたのだが、一番記憶に残ったのがこの昔の映画の話だった。K先生の語り方が上手だったと思うのだが、本編を見ることなく語りだけでゾクゾクしてしまった。それは、何年か経ってから実際に映画を見ても、何ら変わらないスリリングさだったのだから驚く。

 中南米のある町。吹きだまりにいる何十人もの男たちは、故郷を遠く離れた流れ者たち。仕事もなく、気怠い生活を送るだけの彼らには、郷愁があるだけで帰郷する金もない。暑くイライラする日常の倦怠と、彼らの閉塞感がじっくりと描かれるこの前半の1時間がとても重要だ。

 ★ここからは人物設定や見せ場などのネタバレがあります。ただし、ラストはバラしません。 





 コルシカ生まれでパリにも住んだことのあるマリオ(イヴ・モンタン)は、メトロのピガール駅の切符を宝物にしている若者。この切符ひとつでマリオの人物像がわかる。ピガールはパリの下町の歓楽街。東京新宿歌舞伎町のような猥雑で危険な街。チンピラのマリオが、夢か一獲千金を狙ってこの土地に流れ着いたということだ。
 新しくやってきた年長者ジョー(シャルル・ヴァネル)はパリではかなりの顔役で、マリオは当然ジョーを慕う。ジョーの大物ぶりが随所に見られ、ここでのマリオとの上下関係が後半の大きな展開へと繋がる。
 陽気なイタリア人のルイジ(フォルコ・ルリ)は、真面目に働いていたのに肺の病気で余命がない。早く故郷で優雅な生活を送りたいと願う。
 クールなビンバ(ペーター・ヴァン・アイク)は父親をナチスに殺害されたドイツ人。いつも冷静沈着だ。

 ある日、男たちにとってここから逃げ出す大きなチャンスが来た。アメリカの石油会社の油田で大爆発が起こり、その火災を爆風で消すために必要な大量なニトログリセリンをトラックで山奥まで運ぶ仕事だった。報酬は故郷に帰るに十分な大金だ。
 4人の男が選ばれ、真夜中に2台のトラックは“死”を乗せて走り出す。
 前半の男たちの心情や動機づけの静かな画面から一転、いよいよ緊張の時間がはじまる。

 難所として「なまこ板」と呼ばれる道を一気に駆け抜けるシーンや、崖っぷちでの切り返しシーンが続くなかで、徐々に4人の人間性が露になってくる。
 恐怖で何もしなくなったジョーの姿を目の当たりにしたマリオは、すっかりジョーを軽蔑するのだが、「報酬は運転だけじゃない、俺は恐怖で報酬を得るのだ。」とか「歳をとればお前にもわかるさ。」というジョーの言葉は実に強烈だ。シャルル・ヴァネルはこの映画で、カンヌ国際映画祭男優賞を獲得している。

 寡黙なビンバは最も危険な箇所で腹の据わったところを見せる。道を塞いだ岩石を積み荷のニトロで爆破しようとするのだが、ここでのカメラワークが素晴らしい。マッチ箱を弾く指や葉巻を噛み潰す口元など、このクローズアップによる緊張感の表現方法はサスペンスの手本だ。
 そして同じクローズアップでも、この一難去った後のジョーの巻き煙草のアップには感心する。

 そして最も印象的な原油の池を渡るシーンから、トラックはパリの想い出を乗せて一気にラストまで駆け走る。

 

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