TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「ドラゴン・タトゥーの女」*デヴィッド・フィンチャー

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THE GIRL WITH THE DRAGON TATTOO
監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:スティーグ・ラーソン
脚色:スティーヴン・ザイリアン
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
タイトル曲:「Immigrant Song~移民の歌」カレン・O with トレント・レズナー
出演:ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、クリストファー・プラマー、ステラン・スカルスガルド、スティーヴン・バーコフ、ロビン・ライト、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン、ジョエリー・リチャードソン

☆☆☆☆ 2011年/アメリカ、スウェーデン、イギリス、ドイツ/158分

    ◇

 原作は全世界でベストセラーを更新しているスウェーデンのミステリー小説、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム」3部作の第1部を完全映像化したもので、本国スウェーデンでは既に3部作全てが映画化(未見)されているが、本作は、特異な映像感覚で観る者を魅了するデヴィッド・フィンチャー監督が手掛けたハリウッド製ミステリーだ。

 凍てつくようなスウェーデンの冬。ジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ)のもとに奇妙な依頼がくる。依頼主はかつてスウェーデン経済界に君臨していた大富豪ヘンリック・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー)。依頼内容は、40年前に忽然と姿を消した一族の兄の孫娘ハリエット事件の真相を究明して欲しいというものだった。ヘンリックは一族の中の誰かに殺されたのではないかと思い込んでおり、ミカエルの好奇心は動く。

 セキュリティ会社の調査員をしている23歳のリスベット・サランデル(ルーニー・マーラ)は天才的なハッカー。しかし彼女は、幼い頃から暴力に晒される人生を送り、精神異常の烙印をも押されていて後見人に管理されていた。
 権力や暴力を振るう男性を嫌悪し、深い憎しみを抱えているリスベットは、背中にドラゴンのタトゥーを入れ鼻と眉にピアスを付けたパンクな出で立ちで自分を包み、他人とのコンタクトを避けて生きている。

 ミカエルの調査は難航を極めるが、ハリエットが残した1枚のメモからハリエットの失踪は連続猟奇事件と関連していることを発見する。ミカエルは、情報収集能力に優れたリスベットを助手にして、40年前の陰惨な猟奇事件と向き合う………。

    ◇

 大画面で見るタイトル・シークエンスは、期待通りの映像美で見応えがあり、鳥肌ものだ。

 混乱、知性、パラフィリア、パラノイア、ヴァイオレンス、バイセクシャル、虐待、抑圧………、ヒロインであるリスベットの脳内イメージを粘着質の液体で絡みつかせ、トレント・レズナーとカレン・OがカヴァーしたLed Zeppelinの「Immigrant Song~移民の歌」が流される。久々に見るデヴィッド・フィンチャーのPVとしても最高の出来上がり。
 デヴィッド・フィンチャーの作家性が遺憾なく発揮されている。

 しかし、そんな箇所はこのシークエンスのみで、物語の作劇法としてはミステリーを重視した丹念な語り口でじっくりと見せてくれる。それは、横溝正史の「犬神家の一族」や「悪魔の手毬唄」「悪霊島」を連想したっていいだろう。ミステリーとしては新鮮味がないが、それはそれ。
 デヴィッド・フィンチャーだからといって『セブン』('95)のようなダークな世界観は薄い。しかし原作通りスウェーデンを舞台にしていることで、凍てつく森や大富豪の屋敷が色褪せた色彩で綺羅綺羅輝く様は、美しさを通り越し不気味な異形地を抱かせてくれる。素晴らしいカメラワークは映像派作家の面目躍如といったところだろう。

 スウェーデンという国の知識は少ない。王国であり、社会福祉国家で、その昔はフリーセックスの国と言われ、1971年に日本公開された『私は好奇心の強い女』('67)がポルノ映画のひとつとして目と耳に入ってきたのを覚えている。
 映画人としてはイングマール・ベルイマンとイングリッド・バーグマン、そしてグレタ・ガルボか。音楽はエレキ・ギターに夢中になったスプートニクスや、ヘビィメタルのイングヴェイ・マルムスティーンやハードロックバンド“ヨーロッパ”の日本人好みの哀愁に満ちたサウンドメロディは好きだ。
 そして、スウェーデン産のミステリーといえば「マルティン・ベック・シリーズ」。「87分署シリーズ」に並ぶ警察小説の古典で、幼児誘拐、麻薬犯罪、少年犯罪など、40数年前のスウェーデンの闇が描かれた社会派ミステリーは全10作ともに読み応えがあった。

 この原作「ミレニアム」3部作は、スウェーデン社会の暗部が背景になっている。
 それは、人種差別主義と国粋主義、ナチズムと反ユダヤ思想、そして、女性蔑視の差別と虐待といった、美しく輝く雪景色の裏側に潜むシリアスな暗黒。特に3部作ともに、女性への暴力が通底していることは問題だ。しかし、描かれる女性たちは孤独を抱えながら闘っているハードボイルドな姿である。
 
 地道に真相をあぶり出すふたり。原作者の分身でもあるミカエルが物語の恥部を曝け出すための道筋人ならば、精神を病んだ暴力的傾向のあるヒロインがこの作品のテーマを背負うもので、あらゆる不条理を体現しているこの少女こそ、こんな世界と闘うリスベットだからこそ、21世紀のニューヒロインとして賛辞されているのではないだろうか。

 事件解決後のリスベットのラヴシークエンスは原作通りのエンディングで、その切なさは心地よい着地点といえる。
 続編が決まったらしいので(デヴィッド・フィンチャーが監督するかは未定)、リスベットの壮絶な過去が明かされる第2部『火と戯れる女』が楽しみだ。


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Comment

ちゃーすけ says... "学生時代に"
同級生でスウェーデンが好きな子がいました。
その子はスウェーデンについて勉強した結果、高い福祉の国で女性の地位が高く、成熟した社会という一般のイメージだけど、やっぱりいろんな問題抱えてるんだと言ってました。
第二次世界大戦の時の態度で、周辺国との摩擦もあるんだよとか。
良く知らなかったスウェーデンと言う国について、多少なりともイメージと違うことを教えてくれました。
2012.02.19 12:07 | URL | #a2H6GHBU [edit]
mickmac says... "Re: 学生時代に"
>ちゃーすけさん

 何にでも、どこにでも、誰にでも、光と陰はあるもので、知っているものなどたかが知れているわけで、我々の前には知らない世界は無尽にあります。
 政治や現実の冷酷なことは、この国にしてもしかりですね。

 原作のなかで扱われる不当な事案は、原作者スティーグ・ラーソンがジャーナリストとして実際に取材して取り組んでいた問題なだけに、リスベットとミカエルが闘う見えない恐怖は深刻な脅威だと思います。

映画、面白いので是非ご覧ください。原作も虜になりますよ。
2012.02.20 00:22 | URL | #- [edit]

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