TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「インビジブルレイン」誉田哲也



 “姫川玲子シリーズ”の長編3作目にあたる本作は、姫川班チームらお馴染みの登場人物が活躍する警察小説というよりも、姫川個人に焦点を合わせ、玲子の“オンナ”としての切ない恋物語と“オトコ”が属するやくざ組織の跡目争いを、“謎の男”の暗い過去と絡ませ、この三者の視点を交差させながら進行する犯罪小説となっている。


 姫川玲子が新しく捜査本部に加わることになったのは、ひとりのチンピラの惨殺事件。
 東中野にあるマンション一室にて男の惨殺死体が発見された。被害者は指定暴力団の下部組織構成員・小林充29歳。
 組同士の抗争が疑われたが、決定的な証拠が出ず、捜査は膠着状態になる。
そんななか、石倉巡査部長が謎の女性から「小林殺しは柳井健斗」とタレ込み電話を受ける。
 9年前に起こった事件の被害女性・柳井千恵の弟が柳井健斗。事件の重要参考人だった父親の柳井篤司は、警察署内で警官から拳銃を奪って自殺。最終的に検察と警察が選んだのは、被疑者死亡により不起訴という幕引きだった。
 この事件では、当時の刑事部長を始め捜査責任者は全員更迭され、拳銃を奪われた巡査部長は勤務中に交番で首吊り自殺をしていた。そして、今回殺された小林充は千恵の元恋人だった。

 そして玲子たちは、上司である今泉警部から捜査線上に「柳井健斗」の名前が浮かんでも「決して追及してはならない」と指示を受ける。
 納得のいかない姫川は単独捜査をはじめ、その過程でマキタという男と出会う………。 

    ◇

 長編としての前作『ソウルケイジ』が姫川班とライバルの日下班との捜査の対比を軸に真相に近づいていったのに対し、本作はレギュラー陣の登場も少なく、姫川の単独捜査も地味な展開。なのに緊張感をもって読んでいけたのは、玲子の“危ない女”っぷりに一層惚れてしまえたからかもしれない。 
 警察上層部からの圧力、悪辣なキャリアの保身事に翻弄される姫川が、ある一線を踏み越える展開は面白く、シリーズとして異色な展開には驚愕する。


 ◆以下、一部ネタバレがあります。







 主題は姫川玲子の“禁断の恋”。 それも、指定暴力団に属する男が相手だ。
 悪を徹底に憎んで警察内部でのし上がってきた姫川が、たとえ昔気質の任侠道の男とはいえ犯罪者に惚れてしまう唐突さは免れられないが、玲子の心の揺れ動きなど心象描写はいつになくオンナっぽく、脳内キャストで竹内結子を思い浮かべれば次第に応援したくなるのも道理。因みに、相手のオトコは佐藤浩市をイメージした。

 もうひとりの主人公「柳井健斗」の悲劇的な生き様と背徳の極みも作品のトーンを暗く重いものにしており、不条理という見えない雨〈インビジブル レイン〉が心に降り注ぐ3人の行方が切ない。

 そして、まさかの姫川班解散という結末。
 但し、姫川玲子のタフネスさを感じさせるエンディングに、ここはとりあえず〈シリーズ1〉の終わりということだろう。
 小説としてはこの後、ガンテツや葉山巡査長、元刑事の倉田(「過ぎた正義」に登場)などを主人公にしたスピンオフ小説「感染遊戯」が刊行されたわけで、〈シリーズ2〉登場へのインターバルとなっている。


インビジブル レイン/誉田哲也
【光文社】
定価 1,700円(税別)

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