TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「水のないプール」*若松孝二監督作品

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A POOL WITHOUT WATER
監督:若松孝二
脚本:内田栄一
音楽:大野克夫
出演:内田裕也、MIE、中村れい子、藤田弓子、紗貴めぐみ、浅岡朱美、殿山泰司、安岡力也、常田富士男、赤塚不二夫、黒田征太郎、タモリ、沢田研二、原田芳雄

☆☆☆★ 1982年/東映セントラルフィルム/103分

    ◇

 仙台で実際に起こったクロロホルム強姦事件を題材に内田裕也が企画し、ピンク映画の巨匠と云われていた若松孝二監督が初めて一般映画(R指定)として撮りあげた作品で、劇場では石井聰互監督の『爆裂都市』との併映だったが、パンクやニューウェーヴのVIOLENCE ROCKの喧噪より、Rock'n Roll 裕也のFUCK'N ROCKな犯罪性に共鳴した映画であった。

 男(内田裕也)は地下鉄の職員。切符切りや駅での決まりきった仕事で、毎日がつまらない。
 ある雨の夜、帰り道の公園の暗がりで暴漢に犯されそうになった少女じゅん(MIE)を助ける。
 家に帰ると太った女房(藤田弓子)は口うるさく、出勤すれば退屈な時間。そんなイライラのせいか、酒場でヤクザ(沢田研二)と喧嘩をして右手を傷めるが、公園の傍らにある“水のないプール”でシャボン玉遊びをしていた不思議な少女みく(浅岡朱美)に出会う。
 夏休みの一日、男は珍しく家族でピクニックに出かけた。息子が昆虫採集で集めた蝶などにクスリを注射して処理しているところを眺めながら,男はある事を思いつく。例えば、女を昆虫のようにクスリで眠らせ自由に扱ったら、今の退屈な気持ちが癒されるだろう。
 男は、遠い町で中学教師を装い薬局で大量のクロロホルムを購入し、真夜中、かねてから目を惹かれていた喫茶店のウェイトレスねりか(中村れい子)の部屋に、奇妙な防塵マスクで身を固め忍び込む。
 男は夢のような生活と輝きを取り戻す。それからというもの、男は何度もねりかの部屋に侵入しては美しい裸身を優しく犯す日々をつづける。男の優しさは、ねりかの下着を洗濯し、朝食の用意までする異常さだった。
 朝、目覚めると、ねりかは不思議な感覚にとらわれている。まるで夢。やがてねりかは、この侵入者の優しい存在に不思議な感覚を持つようになる。
 そして男は、随所で夢のような犯行を行っていく………


 男と女の自由への跳躍。
 日本がバブルに向けて疾走していた頃、現実社会に虚構を求め夢と並走した中年男と美女が、お互いの自分の夢の中を自由に浮遊し、こうしたいとか、こうされたいと願う“夢犯映画”とでも云おうか。
 性犯罪を大人のメルヘンなどと評することはできないが、大人の男の幻想を少年が昆虫を標本する心理と重ね合わせるあたりに、どこかウイリアム・ワイラーの名作『コレクター』('65)を想起することができる。


 夢はいつか覚める時が来る。
 その夜、意気揚々とねりかの部屋に侵入すると、そこはいつもと違って、ねりかは同僚の女性2人を泊まらせていた。男は“水のないプール”でシャボン玉を飛ばすみくのイメージに誘われ、マスクを外してシャボン玉遊びに興じ、自ら昏倒。そして、幻想を知らない女たちの通報により逮捕された。

 ねりかは告訴をしなかった。
 「わたし、被害者とは思っていないし……」
 「もう、誰も来てくれないじゃないの」
 「だって、あんまり素敵なことがつづいちゃったから」


 快楽を得るために安息と安定を捨て、男の生活が破綻しても“夢のつづき”の先にある、生き生きとした自由を男は得たのか。“水のないプール”で遊泳する男の贅沢さを、内田裕也が堕落と破滅の時代の空気を表出しながら闊歩している。
 最後に“水のないプール”で大の字になり、俗世間に舌を出すユーヤさんは、どこまでも“ロッケンローラー”である。

 映画のタイトルは内田裕也命名。船橋ヘルスセンターの“水のないプール”で寂しくロッケンロールを歌ったときの屈辱的な記憶と、その話を聞いたジョン・レノンが“水のないプール”でジョイント・コンサートを開こうと語った思いを、ユーヤさんは映画への情熱に転化したようだ。

 「イメージフォーラム」誌1982年2月号の製作ノートによると、MIEをキャスティングに推薦したユーヤさんの少女じゅんの扱いに対する不満などで、クランクアップ5日前になって若松監督と対立したとある。
 もちろん演出に関して若松監督は「裕也がロックバカ20年なら、俺もピンクで20年やっている」と譲らず、一時はユーヤさんが降りると発言するところまでいったが、翌日、冷静になったユーヤさんは俎板の鯉となり撮影はつづいたという。
 常に命がけで演っているというユーヤさんの心意気が、映画に反映されたのかどうかは当人でなければわからないところだが、いまだカルト映画として根強い人気を博している起因は、やはりユーヤさんの生き様が見え隠れするからだろう。

 本作が公開された1982年は『TATTOO〈刺青〉あり』の高橋惠子、『蒲田行進曲』の松坂慶子、『野獣刑事』のいしだあゆみ、『疑惑』の岩下志麻&桃井かおり、『さらば愛しき大地』の秋吉久美子&山口美也子、『ザ・レイプ』の田中裕子と、そうそうたる女優陣の顔ぶれが並んだなかで、前年の『嗚呼!おんなたち 猥歌』につづいて内田裕也と共演した中村れい子も麗しく、存在感を発揮していた好きな女優だ。
 この年は曽根中生監督の『悪魔の部屋』でジョニー大倉とも共演していて(年間MY BEST 10)、ともにRock'n Roller相手に美しく輝いていたのだった。




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