TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「死と処女〈おとめ〉」*ロマン・ポランスキー



DEATH AND THE MAIDEN
監督:ロマン・ポランスキー
原作:アリエル・ドーフマン
脚本:ラファエル・イグレシアス、アリエル・ドーフマン
撮影:トリーノ・デリ・コリ
出演:シガニー・ウィーヴァー、ベン・キングズレー、スチュアート・ウィルソン

☆☆☆★ 1994年/アメリカ・フランス・イギリス/104分

    ◇

 “ポランスキー監督の屈折性が画面を支配する、真綿で首を絞めるような「拉致監禁」サスペンスの逸品!”

 アリエル・ドーフマンの戯曲を映画化したもので、登場人物の男女3人が激しい葛藤を繰り広げる心理サスペンスで、誰の主張が真実なのか最後まで判然としない息詰る密室劇である。


 現代。過酷で長い独裁政権が崩壊して間もない南米の某国。
 ある嵐の夜、岬に近い一軒家でポーリナ(シガニー・ウィーバー)は、停電になった部屋で蝋燭を灯し夫の帰りを待っていた。
 車のライトが近づいてきた。助手席から夫のジェラルド(スチュアート・ウィルソン)が降りてきた。車がパンクして通りがかりの車に送ってもらったと言う。
 深夜になり、先ほどジェラルドを送ってくれた医師ロベルト(ベン・キングスレー)がジェラルドのタイヤを届けに来た。
 恐縮するジェラルドに「僕はあなたのファンだ。帰り道ラジオで人権保護委員会を引き受けたというニュースを聞いて驚いた。」とロベルトが言う。ジェラルドは、暗黒時代の整理をするため大統領の人権保護委員会に招致された弁護士だった。
 ふたりの応対を聞いていたポーリナに戦慄が走っていた。「この男の声は………」

 ジェラルドとロベルトがウィスキーを酌み交わしている隙に、ポーリナはそっとベッドを抜け出すとピストルを手に外に出、ロベルトの車に乗り込むと発車させた。
 ロベルトが気づき慌てて追いかけるが無駄だった。
 「女のすることは分からん。ニーチェは言った。女の魂を完全に所有することは不可能だ」
 ふたりは再び飲み始める。

 ポーリナは車を断崖に止め、車の中を物色。そして、シューベルトの『死と乙女』のカセットテープを見つけ、車を断崖から突き落とした。

 家に戻ったポーリナは長椅子で泥酔して寝ているロベルトに近づき、ピストルを構えロベルトの体臭を嗅ぐ。眼を覚ましたロベルトをピストルの台座で殴り失神させ、彼の手足を電気のコードで縛り上げる。
 恐怖に目覚めたロベルトの口に、自分のパンティを脱いで猿ぐつわをするポリーナがニヤリと笑う。
「やっと本名が分かったわ、ロベルト・ミランダ博士。………これを見て昔の記憶が甦ったわ」
 手に持ったカセットテープをかけると、甘美な弦楽四重奏曲が静かに流れてくる。

 その音楽で起きてきたジェラルドに、ポリーナは衝撃の事実を語り始める。
 独裁政権下の当時、まだ恋人同士だったジェラルドとともに反政府運動に参加していたポリーナは秘密警察に拉致され監禁、『死と乙女』を流しながら残虐な拷問をしたドクターこそロベルトだと云うのだ。
 「彼よ、間違いないわ、この声、笑い方」 
 ポーリナは確信していた。この男はかって目隠しされたポーリナを、楽しみながら残虐な拷問とレイプを重ねた男であることを。顔は見ていないが、声と体臭は忌まわしい記憶に焼きついているのだ。

 必死に否定をするロベルトは、当時(1977年)は75年から78年の間バルセロナの病院にいたと主張し、電話で病院に問い合わせてくれと懇願する。しかし、電話は不通。

 ポーリナとジェラルドはベランダに出て話し合う。
 夫のジェラルドは、いまや新体制下の大統領直属の人権調査委員会のメンバーに選ばれ、軍事政権時代に行われた殺戮や人権侵害を調査し、この国の新しい未来への道を探そうという使命感に燃えている。
 「彼がやったことは全部告白させビデオに録画する。そうしたら解放するわ」「拒否したら?」「そのときは殺すわ」

 ジェラルドはロベルトに「告白すれば許すといってる」と告げる。
 「無実なのに何を告白する?」

 ジェラルドの情報を混ぜ、ビデオカメラの前で告白を始めるロベルトだが、嘘が含まれている事をポリーナは見抜く。突然、ロベルトがポーリナを襲った。
 「こんなゲームは真っ平だ!」 
 その時、家中の電気がつきラジオが大音響で鳴り響き、怯んだロベルトはポーリナに殴られ失神する。

 夜明け。波が打ち寄せる断崖の上に、手を縛られ目隠しをされたロベルトが立たされている。
 ジエラルドがようやくバルセロナの病院に電話をかけ、ロベルトが実際に勤務していたことを知らせに来る。
 「奴らは偽のアリバイを作り、ビザだって偽造するわ。15年も経って都合よく覚えているなんて……」
 ロベルトの目隠しを外しポーリナは冷たく言い放つ。
「私を覚えてるわね……レイプしたわね」
 沈黙のあと、ロベルトは頷き過去の事実を語り始める。

 ジェラルドは激しい怒りに駆られるが、ロベルトを崖から突き落とす事ができない。ポーリナは放心したようにロベルトのロープを切り、夫婦はその場を離れていった。
 崖に残され立ちすくんでいるロベルト。

 数ヶ月後のあるコンサート会場。シューベルトの『死と乙女』を聞いているジェラルドとポーリナ夫妻。ふと見上げると、二階席に家族と一緒のロベルトがこちらをじっと見ていた………。

    ◇

 映像的フラッシュバックを使わない三人三様にいくつにも解釈できる会話劇は、登場人物3人にとっての真実とそれに絡む駆け引きを解きほどいていくミステリーであり、人間の「暴力」「エロス」「サディズム」など心に潜む“悪魔”をあぶり出していくサスペンスとして盛り上がりを見せていく。

 何が正義で、何が真実なのか、徹底的にはっきりさせずにはおけないポリーナと、傷ついた人間に寄り添い理解につとめるジェラルドと、エリート特有の精神的余裕と素顔を隠すために仮面を被るロベルト。
 観客は3人の中の誰かに自分自身を対峙させ理解しようとするだろう。不穏な気持ちにさせられるラストは、人間の善悪の真意を問われるようだ。

 真犯人かどうかわからないがインテリジェンスとサディストの両面を不気味に演じる名優ベン・キングズレーの存在感が大きいのだが、「エイリアン」のリプリー以上に強すぎるシガニー・ウィーヴァーも、十分に狂気をはらんだ芝居を好演し魅せてくれる。

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Comment

根保孝栄・石塚邦男 says... "ボランスキー"
v-16新しい監督は時代の雰囲気をとらえて斬新な手法を試みます。

人物像もそうですね。
2014.06.24 02:16 | URL | #u3MRTyDc [edit]
mickmac says... "Re: ボランスキー"
>根保孝栄・石塚邦男さん

病理を抱えた人間の狂気を描くことに長けたポランスキーとして本作は中期の作品ですが、やはり初期の「反発」や「ローズマリーの赤ちゃん」そして「チャイナタウン」など、不完全な人間のインモラル性が面白いですね。
2014.06.24 14:37 | URL | #- [edit]

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