TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「スリ」*ジョニー・トー

sparrow_dvd.jpg

SPARROW/文雀
監督:ジョニー・トー
脚本:チェン・キンチョン、フォン・チーチャン
撮影:チェン・チュウキョン、トー・フンモ
音楽:ザヴィエル・ジャモー、フレッド・アヴリル
出演:サイモン・ヤム、ケリー・リン、ラム・カートン、ラム・シュー、ロー・ホイパン、ロー・ウィンチョン、ケネス・チャン

☆☆☆★ 2008年/香港/87分

    ◇

 『スリ』という邦題からサスペンス・ドラマを期待すると見事に肩すかしを喰う。これは、ジョニー・トー監督のほかの作品のようなダークサイドなフィルム・ノワールではなく、スリグループの4人の男たちが謎の美女に魅せられていく大人のお伽噺である。


 香港の街をテリトリーにスリを働くケイ(サイモン・ヤム)、ボー(ラム・カートン)、サク(ロー・ウィンチョン)、マック(ケネス・チャン)の4人組の男たち。
 ある日ケイが街中の階段で趣味の写真を撮っていると、フレームの中に何かに追われているかのように走り去る美女が映り込んできた。
 同じように、ほかの3人の前にも謎の美女が現れる。惹かれる男たち。
 彼女の名はチュンレイ(ケリー・リン)。香港を牛耳る男フー(ロー・ホイパン)の情婦だが、まるで籠の中の鳥のように自由を奪われていた。
 チュンレイは、自由になるためにボスの首にぶら下がる鍵をスリ取って欲しいと依頼。しかし見事に失敗する。
 チュンレイに翻弄された男たちだったが騙されたことが判っても彼女を許し、もう一度チュンレイを自由にするために、そして、プライドを取り戻すためにフーと勝負する………。

    ◇

 お喋りな中国人にしては台詞が最小限にしかなく、古き良き時代を感じさせる香港の風景を、詩的に、美しく描いた映画だ。

 サイモン・ヤムが自転車で古い街中を優雅に走り、ローライフレックスの二眼レフで風景を撮るシーンは、「いつかなくなってしまう美しい香港の街並みを残しておきたい」と云うトー監督の思いにあふれたノスタルジックなシーンで、随所にフランス映画の香りを漂わしながら、遊び感覚にあふれた映像になっている。
 クロージングに映されるモノクロのスナップ集を見ていると、まさに香港の街が主役だったと思えるだろう。

 そのほかにも数々の映画へのオマージュが感じられるから楽しい。

 主人公が鳥を飼うのは、トー監督が大好きなJ・P・メルヴィル監督の『サムライ』('67)を踏襲。
 オープニング、釦付けをするケイの部屋に一羽の文雀が飛び込んでくる。そっと捕まえて窓の外に放してやるが、すぐに舞い戻り部屋の片隅に止まる文雀。軽快なオーケストラ曲が流れるだけのパントマイムな芝居にまずは惹き込まれる。
 原題の〈文雀〉は“スリ”を意味する隠語らしいが、もちろんこの飛び込んできた文雀は、これから登場する美女の化身を意味するものだ。
 
 ケイと仲間たちが集う食堂シーンは『レザボア・ドッグス』('92)のような空気感。 冒頭のスリを行うシーンは流麗なダンスの如くワンシーン・ワンカットで撮影され、ターゲット4名に対して4人の呼吸が見事に揃った手際の良さに息を飲む。

 古い街の坂の石畳にハイヒールを鳴らし、あるいは、跳ねるように街を駈けるチュンレイ。ケリー・リンの端正な美しさが映える。ただただ綺麗。
 ファムファタール的美女の捉え方は、お洒落感覚として『黄金の七人』('65)のよう。6人の男と1人の女の騙し騙されのエンタメ性がここにも感じられるし、『黄金の七人』の「ロッサナのテーマ」風スキャットと口笛が、ケイとチュンレイの官能的なドライヴシーンで効果を上げている。

 『めまい』('58)をイメージする俯瞰カメラで見せるアパートの三角階段も印象的。男を誘う入り口のようであり、美女に魅せられた男たちの滑稽さが覗かれる。

 そしてクライマックスは、約10分間の雨中のスリ・バトル。お得意のスローモーションは銃撃戦ではなく、幾本の傘と水しぶきによるダンシング。これは「当初は『シェルブールの雨傘』のようなミュージカルにしたかった」と語る監督の思いが凝縮された優雅な美。

 チュンレイをタクシーに乗せて逃がし、少年のようにはしゃぐ男たちの友情関係が微笑ましく、『明日に向って撃て!』('69)を連想する自転車乗り(それも4人乗り)が爽やかなエンディングになっている。
 
 




スポンサーサイト

Comment

ひまわり says... ""
またスリとは関係ないのですが9月20日発売のキネマ旬報に曽根中生監督のロングインタビューが載ります!必見ですね!!
2011.09.16 03:19 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
>ひまわりさん

>9月20日発売のキネマ旬報に曽根中生監督のロングインタビューが載ります!必見ですね!!

おお!!
素敵な情報をありがとうございました。
20日発売なら明日には店頭に並んでいるかもね。即、購入です!
2011.09.17 00:09 | URL | #- [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/762-17ef22af