TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「父が来た道」*出目昌伸テレビドラマ作品

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。


監督:出目昌伸
原作:高村薫『地を這う虫』より
脚本:鎌田敏夫
出演:阿部寛、渡辺えり子、余貴美子、神山繁、、富士真奈美、前田吟、内藤武敏、立川三貴

初回放映:2005年11月28日 TBS「月曜ミステリー劇場」


 高村薫の短編集『地を這う虫』に収められた一編を、原作にはない代議士の女性秘書の献身的関係を追加し、主人公と彼に寄り添う年上の情婦との関係を描きながら、ドラマは政界の闇に迫るサスペンスというよりストイックな男の生きざまと「父親が生きて来た道」から逃れることのできないふたりの人間にスポットが当てられた。

 戸田慎一郎(阿部寛)は、政府与党の代議士・佐多 (神山繁)の運転手をしている。慎一郎と佐多の間には深い因縁があった。 慎一郎の父・信雄(内藤武敏)はかつて、佐多の選挙区で中堅の建設会社を営んでいた。信雄は後援会長として佐多に尽くしたが、選挙違反の罪を一身に背負って獄につながれ、すべてを失った。慎一郎も勤めていた警視庁をやめざるを得なかった。
 佐多は慎一郎にとって、親子二代の人生を台無しにした男だ。その佐多からの運転手にならないかという誘いを、慎一郎はなぜ受け入れたのか周囲の誰もが疑問に思っていた。しかし、慎一郎は何も語らず、日々の仕事を黙々とこなしていた。
 ある日、公安の刑事・久瀬(立川三貴)が接触し、佐多の政治生命を断つための情報提供を求めてきた。一方で佐多は、行方不明になった裏金の回収を慎一郎に依頼する。
 二重スパイ的行為から自分に有利なカードを手にする慎一郎だが、個人の意思 が何ともし難い世界のなかでは、自分が存在していること自体が無意味に思えてくることの非情さと虚しさを感じることになる。

 口数の少ない慎一郎とは逆に、佐多の第一秘書の服部千秋(渡辺えり子)はよく喋 る。
 しかし彼女も慎一郎と同じような孤独を抱えている。佐多に対して献身的な仕事を終えた彼女が、慎一郎の運転する車の後部座席で『津軽海峡冬景色』を熱唱し、そしてひとり高層マンションの部屋に帰ってくる姿には、美貌とは無縁の中年女性の悲哀と孤独感しかない。
 ドラマ後半、実は千秋が佐多の娘だと明かされ、それまでの千秋の佐多への献身が男女の危うい恋愛感情ではなく、父娘の恋慕だったと理解できる。非嫡出子で産まれた千秋の唯一の父親との思い出は、幼い頃に津軽で繋いだ手の温もり。
 この少女じみた慕情を渡辺えり子が演じると一層に哀しい。渡辺えり子の、笑っているようで笑えない微妙な表情の芝居が凄い。

 不器用で醒めた生き方しかできない孤独な慎一郎を、優しく包み込む年増女の清子(余貴美子)の存在は大事だ。その浮遊感が、慎一郎の「父が来た道」からの脱却に大きな影響を与えることになる。
 浮き草のような人生を体現している中年女性に余貴美子は見事に息を吹き込んでいる。男なら誰でも包まれたい思いにかられるひとつの女性像のあり方だろう。

 演出の出目昌伸は、映画『天国の駅』('84)において吉永小百合を汚れ役とし て起用し、女の情念を見事に描いて見せた監督。 阿部寛と余貴美子の40代の男女の恋愛表現は、今どきのテレビドラマの範疇ではギリギリと思えるほど息を飲む。
 土砂降りの公衆電話ボックスの中での抱擁は濃密で、冷たい夜気に曇る個室のなかの息づかいが艶かしくエロティックであり、大人の愛の表現がキスや愛撫とい った直接的表現だけではないことを魅せてくれる。余貴美子の目の配りかたや身のこなし方ひとつに艶のある演技が見られるのである。
 情事のあと慎一郎が清子の背中の汗を拭くシーンや、後ろから抱きすくめられたときの上気 した中年女性の愛らしさは、阿部寛くらいの恵まれた体躯が相手となると女性の姿が生々しさより可愛らしさに見えてくるようだ。

 佐多が死に、行き場を無くした裏金を千秋から受け取り母親に渡す慎一郎。認知症で老人ホームで過ごしている父親にかかる費用は、慎一郎が一番恨めしく思っていた佐多の金になる。それでもいい。復讐を果たす事なく「父が歩んだ道」から逃れ「愛する女と歩む道」を選んだ慎一郎には、微かな光しか灯っていなくても未来を拓いた。
 千秋は「孤独な道」のつづきと分かっていても「父が来た道」を守ることしかできない。佐多が病床の最期に、彼女の掌に書いた海という指文字の温もりを思い出として生きていくしかない哀しい女性だ。

 温もりを望む男・慎一郎と、温もりを与える女・清子。そして、温もりを守る女・千秋。三者の生き方に胸震える秀作ドラマだった。


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