TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「チャイナタウン」*ロマン・ポランスキー



CHINATOWN
監督:ロマン・ポランスキー
脚本:ロバート・タウン
衣装:アンシア・シルバート
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
出演:ジャック・ニコルソン、フェイ・ダナウェイ、ジョン・ヒューストン、ペリー・ロペス、ベリンダ・パーマー、バート・ヤング、ジョー・マンテル

☆☆☆☆★ 1974年/アメリカ/130分

    ◇

 「Forget it, Jake. It's Chinatown」

 ロマン・ポランスキー監督の最高傑作と言えるフィルム・ノワール。
 開発途上の1930年代のロサンジェルスが舞台だが、ハリウッド製ハードボイルド映画全盛だった1940~50年代のいかがわしさと妖しさに満ちたムードとストーリーで、1970年代の作品にしてフィルム・ノワールの古典ともなった映画である。


 ロス警察のチャイナタウン管轄に勤務していた元警官のジェイク・J・ギテス(ジャック・ニコルソン)は警察に失望して退職し、今は浮気調査専門の私立探偵をしている。 
 ある日、ミセス・モーレイと名乗るダム建設技師の妻から夫の浮気調査を依頼され、ギテスは捜査活動をはじめる。
 モーレイ技師のことで判ったことは、地盤が弱くて危険だという理由で町をあげてのダム建設に反対し、枯れかけたロサンジェルス川に異常な関心を示していたこと。そして肝心の浮気の調査は、確かに若い娘とデートをしていてアパートに出入りしているところを写真に収めることができた。
 ところが、モーレイの浮気がゴシップ新聞に漏れ記事になったことで、モーレイ夫人が弁護士同伴で名誉毀損で訴えるべくオフィスに乗り込んできた。それも、やって来たのは最初に仕事を依頼した女とは違い、イヴリン(フェイ・ダナウェイ)と名乗る美しい貴婦人だった。
 その後、貯水池でモーレイの水死体が上がる。

 ギテスの第六感が、仕事抜きでこの不可解な事案を確かめるべく行動をさせるが、深夜の貯水池でふたりの男に襲われ、小男(ロマン・ポランスキー)に鼻をナイフで切られるにいたっては、もはや後には引けないギテス。 
 次第にイヴリンに惹かれながらも、不可解な行動をするイヴリンと謎の愛人の存在。ついに、LA開発の利権に絡む汚職と近親相姦というおぞましい秘密を知ったギテスの前に、イヴリンの父親で町を牛耳る実力者ノア・クロス(ジョン・ヒューストン)が立ちはだかる。
 そして夜の帳のチャイナタウンに、病める人間たちが集まり、幕は下ろされる………。

    ◇

 しがない浮気調査などケチな仕事ばかりの探偵ジャック・ニコルソンのダンディな装いとクールな振る舞いが実にセクシーだが、ハードボイルドのタフガイににありがちな自己陶酔的美学の格好良さがまるでなく、それどころか、まったくカッコ悪い探偵像であり、挫折した警官時代の心の傷を引きずりながら、またも悲劇に突き進む男の無力感を漂わす人間臭いところがニコルソンの味わい。

 ノワールもので肝心なのが主人公を虜にするファムファタール。退廃的で、絶えず妖しさを漂わすフェイ・ダナウェイの、屈折した内面を病的に演じる芝居が素晴らしく、1930年代のファッションに身を包み、キャサリン・ヘップバーンやディートリッヒ、グレタ・ガルボに比肩する存在感で魅せてくれる。
 何事にも妥協しないダナウェイは、ギテスがイヴリンから娘の真実を聞き出すクライマックスシーンにおいて、ニコルソンに本気でぶつよう要求したかと思えば、ロマンポランスキー監督とは役柄について衝突し、ついには監督の頬を平手打ちをした逸話も残っている。

 そして、強欲で冷酷な悪役クロスを演じる巨匠ジョン・ヒューストン監督の風格がこの作品の要であろう。
 古典的ハードボイルドの名作『マルタの鷹』('41)からはじまり、ハンフリー・ボガードとのコンビで“タフだが人情に弱い”主人公を何人も形成してきた監督が、ここでは、映画史上最も悪辣な男を演じているのが興味深い。

 脇の役者もいい。70年代ジェームズ・カーンとの共演が多かったバート・ヤングは、ずんぐりムックリした冴えないルックスでいつも特異な雰囲気を漂わせてくれるが、オープニングでギテスから妻の浮気を知らされるだけの彼と思いきや、ラスト近くにはもうひとつ出番が設けられている。

 ヒッチコックばりに自身の映画にチョイと出てくるロマン・ポランスキー監督の殺し屋が、ニコルソンの鼻を切る不気味な場面。その後、主人公の顔に大きな絆創膏を貼ったままの奇妙な姿に、不穏な物語のムードを常に意識させられるアイデアだ。眼光をギラギラさせるニコルソンが凄い。

 音楽は名匠ジェリー・ゴールドスミス。忘れがたいメロディ・メーカーであり、オープニングとクロージングに流れるテーマは、物語全体を包む悲しみをノスタルジックに、切なく、30年代の退廃ムードを醸し出すジャジーな旋律で魅了させてくれる。
 本作以前では『野のユリ』('63)『猿の惑星』('68)『パピヨン』('73)、本作以後は『オーメン』('76)『エイリアン』('79)『ランボー』('82)『氷の微笑』('92)『L.A. コンフィデンシャル』('97)等々、幅広いジャンルに多し。
 

 「忘れろ、ジェイク。ここはチャイナタウンだ」

 夜のチャイナタウンに銃声と悲鳴が響くなか、立ち尽くすギテスに同僚のウォルシュ(ジョー・マンテル)が、ここは“見て見ぬフリをする街” と告げる衝撃的な終幕。この台詞がAFI選出のアメリカ映画名台詞100選に選ばれているのも納得できるほど、感慨深いラストシーンになっている。

 レイモンド・チャンドラーやダシール・ハメットなどの探偵小説にオマージュが捧げられたロバート・タウンのオリジナル脚本(1974年度アカデミー賞オリジナル脚本賞受賞)では、ジョン・ヒューストンが死ぬラストが用意されていたのだが、ポランスキー監督はハリウッド映画の常識を無視して、非情な結末に変更したのだった。

 過酷で無力な人生、絶望の渕を歩んできたポランスキー監督の「現実の世界には正義などない。陰険であくどい者たちがのさばるだけだ」とでも言いたげな、絶望感が集約されたラストなのである。

1975-12_チャイナタウン


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Comment

ひまわり says... ""
ロマン・ポランスキーとは、全く関係ないのですが、曽根中生さんが湯布院映画祭にゲスト出演したとの記事と写真がありました!!ご健在で本当に良かったです!
2011.08.27 15:19 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
>ひまわりさん  情報ありがとうございました。

早速記事を探し、インタビューを読みました。
黒いウワサが真しやかに伝説下されていた監督だけに、お元気そうでホント良かったです。
2011.08.28 00:44 | URL | #- [edit]

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