TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「雨やどり 新宿馬鹿物語 1」半村 良



 何度も読みかえす小説が誰にも一冊二冊はあると思う。
 ぼくで言えば、切ない気持ちに飢えるのだろうか、鷺沢萠の中・短編集『さいはての二人』の秀逸な人情噺を何度も読み返してはグッときている。

 そしてもうひとり、この半村良の連作短編集『雨やどり』も、1975年に単行本を購入してから幾度となく読み直している一冊だ。装丁の滝田ゆうのイラストもイイんだな、これが。
 
 半村良は「伝奇ロマン」なるジャンルを確立したSF作家であるが、実はSF作品は一冊も読んだことがなく『戦国自衛隊』でさえ映画でしか知らない。この“新宿馬鹿シリーズ”や『下町探偵局』『おんな舞台』『晴れた空』など、人情噺の小説だけに魅せられている半端な読者ということになるかな。


 舞台は新宿裏通りのバー街。
 バー〈ルヰ〉のマスターでバーテンダーの仙田を主人公に、彼のまわりに棲みつくホステスや客たちの人間模様は、男と女の昭和歌謡が聴こえてくるような世界感であり哀感あふれる。
 大半に不思議な女たちの生態が描かれるのだが、作家になる前には実際に新宿でバーテンダーを生業にしていた半村良だから、時代とともに変わりつつある新宿の街を舞台に、心根のやさしい夜の街の男と女の情景が温かく描写されている。
 

おさせ伝説
 常連客の室谷がホステスの多可子と結婚するという。しかし彼女は、誰から口説かれてもイヤとは言えず寝る女だった。そのうえ多可子の正体は……。

ふたり
 「まだ二十八」「もう二十八よ」おっとりした純日本美人の芳江と、何事にもドライな洋風美人の京子。バー〈ふたり〉の、二人のママの前に現れたひとりの男………。

新宿の名人
 仙田のバー〈ルヰ〉の開店祝いに尽力した中年紳士は、新宿のことならホステスや店の善し悪しに関して何でも判る“名人”と一目置かれている。その彼が〈ふたり〉の京子を引き抜いて店を出すという……。

新宿の男
 時代に合わない古くさい小さなバーを経営する周平が、過激派に追われる男を匿っていた。男は、かつて夜の街の住人たちから慕われた小さな食堂の女将の息子だった。聞きつけた仲間たちは周平の店に集まって………。

かえり唄
 バー〈ルヰ〉のピアニストは、かつてはヒット曲を書いた作曲家。彼の曲で一度は売れっ子になった元歌手と、彼のファンだという女の行く末は……。

雨やどり
 突然の雨に仙田のマンションに雨やどりしたホステスの邦子。仙田と親しい関係になり、仲間内でも公認となったふたりだったが、実は邦子はワケありの女だった……。

昔ごっこ(初出時『新宿西部劇』を改題)
 関西の金満家の資本が新宿に乗り込んできた。老舗キャバレー〈ゴールデン・ベア〉の土地を目当てに同業店を隣にオープンするが、新宿の古き良き時代を知る昔の仲間たちは悠然と受けて立つ……。

愚者の街
 我が身の愚かさを愛おしみ、人の愚行に同情する“莫迦たち”。作者が投影された男に愛しさを込めて語らせる“馬鹿物語”には、人生の真理が垣間見られる。

 1975年直木賞受賞の表題作「雨やどり」を含む8編の人情噺は、1977年に『新宿馬鹿物語』として続編が上梓されている。
 同じ1977年にその『新宿馬鹿物語』をタイトルして『雨やどり』は映画化され、主演の仙田役には愛川欽也。艶っぽい邦子には太地喜和子、おさせの多可子役は朝丘雪路が出演。脚本は神代辰巳で、中年男の哀感あふれる作品だったと記憶する。

    ◇

雨やどり/半村 良
【河出書房新社】
定価 780円(絶版)
1975年2月初版


amayadori_bunko.jpg【集英社文庫】
定価 600円
1990年8月


★晴れた空★

スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/758-46f7862c