TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「大鹿村騒動記」*阪本順治監督作品



監督:阪本順治
原案:延江浩
脚本:荒井晴彦、阪本順治
音楽:安川午朗
主題歌:「太陽の当たる場所」忌野清志郎
出演:原田芳雄,大楠道代、岸部一徳、佐藤浩市、松たか子、冨浦智嗣、瑛太、石橋蓮司、小倉一郎、でんでん、加藤虎ノ介、小野武彦、三國連太郎

☆☆☆★ 2011年/日本・東映/93分

    ◇

 原田芳雄自らが「芸の原点としてどうしても演らねば」との思いで企画した本作は、最後まで役者でありつづけた稀代の俳優・原田芳雄の遺作になってしまったが、女と男の情念(『赫い髪の女』『身も心も』)の荒井晴彦と、ハードボイルド(『どついたるねん』『行きずりの街』)の阪本順治といった因縁ある『KT』コンビにより、大いなる喜劇を作り上げた。
 コメディではない。 
 長野県大鹿村に300年以上も引き継がれている「大鹿歌舞伎」を題材に、“地芝居”に関わる人々の悲喜こもごもな人間模様がユーモラスに描かれる、素敵な人間ドラマだ。



 雄大な南アルプスの麓にある長野県大鹿村。そこでシカ料理店「ディア・イーター」を営む風祭善(原田芳雄)は、300年以上の歴史を持つ村歌舞伎の花形役者だ。だが実生活では女房に逃げられ、あわれ独り身をかこっていた。

 「バッカじゃないの」
 「馬鹿じゃない。鹿だ」

 サングラスにテンガロンハットで現われる原田芳雄と「ディア・イーター」の看板。スタッフ、キャストらの映画的記憶の遊び心が伝わる導入部は、都会からアルバイトに応募しにきたワケありの青年・雷音(冨浦智嗣)とのやりとりがオヤジギャグであろうと、つい笑ってしまう。

 やはりサングラスを掛け顔を隠した男女がバスから降りてくる。
 18年前に駆け落ちをして村を離れた善の女房・貴子(大楠道代)と幼なじみの治(岸部一徳)の、怪しい登場も可笑しい。

 公演を5日後に控えたその日、村役場の会議室ではリニア新幹線誘致の話で村民同士がモメていた。賛成派の土建屋・権三(石橋蓮司)に反論する白菜農家の満(小倉一郎)をなだめる商店主の玄一郎(でんでん)らも、村歌舞伎の役者だ。
 恋人が東京に行ったきりでストレス気味の役場職員の美江(松たか子)と、彼女を気にする女形のバスの運転手の一平(佐藤浩市)もいる。
 低予算・撮影期間2週間・上映時間90分あまりのプログラムピクチャー志向といえどもなんとも贅沢なキャスティングは、ほかにも旅館主の小野武彦、大楠道代の父親役「大鹿歌舞伎保存会会長」に三國連太郎。当て書きされたかのような俳優陣らの力を抜いた演技が楽しめる。

 村歌舞伎の演目『六千両後日文章 重忠館の段』は、平家方の武将・悪七兵衛景清景が源頼朝相手に大暴れする「平家滅亡の後日談」で、この“敗残のヒーロー”こそ善の十八番。
 その稽古中に治と貴子が姿を現した。
 唖然とする善は、一度舞台の幕を引き、も一度幕を上げる。この芝居がかった仕草をはじめ、台詞のいろんな箇所にも、三角関係の男女の心情と大鹿歌舞伎の話がドラマに繋がる趣向で人間関係の機微が巧く描かれていく。
 
 「ごめん………返す」と詫びる治。
 認知症を患い、18年前の駆け落ちしたことさえ忘れてしまった妻をいきなり返され、途方に暮れる善。
 逃げた女房と奪った男は憎いが、その女房が惚れ抜いた女であれば、その男が幼なじみであれば、そんな憎い思いもすんなり受け入れてしまう男の優しさに人生の苦みが滲んでくる。取り戻したい記憶と忘れたい過去に揺れる男の立場を、原田芳雄と岸部一徳の軽妙な掛け合いと独特の“間”で感じさせてくれる。ふたりがノって演じる様が実に滑稽で面白い。
 そして、記憶が戻っているのかどうか判然としない大楠道代の、卓越した演技も素晴らしい。

 強がりながらも善の心は乱れ、ついには芝居を投げ出してしまう。仲間や村人たちが固唾を呑んで見守る中、刻々と近づく公演日。
 そこに大型台風までやってくる。駆け落ちした日と同じ暴風雨の中、すべての記憶があやふやな貴子の口から出たのは、かつて善と一緒に演じた道柴の台詞。
 小さな村を巻き込んだ大騒動の行方は………である。

 リニア誘致問題や性同一性障害の若者、過疎化問題と出稼ぎ中国人までも盛り込んだ騒動記は、役者の緩さでカントリー・ムーヴィーの心地よい空気が流れている。

 故・忌野清志郎の1999年のアルバム『RUFFY TUFFY』に収録されている「太陽の当たる場所」を主題歌に使用したのにも好感。

 「俺が風祭善だぁ」と叫ぶラストには、『祭りの準備』で江藤潤をホームでバンザイと見送る原田芳雄がダブるかのように、原田芳雄の映画人生における魂の言霊を聞いた思いである。

 原田芳雄、バンザイ!
 素敵な映画たちを、ありがとう!


★祭りの準備★
★スリ★
★われに撃つ用意あり★
★浪人街 RONINGAI★
★赤い鳥逃げた?★
★友よ、静かに瞑れ★
★ニワトリはハダシだ★
★オリヲン座からの招待状★
★美しい夏キリシマ★
★原田芳雄 ライブ★

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