TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「女の中の二つの顔」*中原俊テレビドラマ作品

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

監督:中原 俊
原作:エドワード・アタイヤ「細い線」
脚本:西岡琢也
出演:余貴美子、村上弘明、本田博太郎、岸田今日子、洞口依子、杉本彩、甲本雅裕、でんでん

初回放映:2004年8月25日 テレビ東京「女と愛とミステリー」


 友人の妻と不倫をし誤ってその女性を死なせてしまった男の苦悩と、妻としての女性の業を描いたドラマで、原作はエドワード・アタイヤのミステリー「細い線」。
 この原作は、1966年成瀬巳喜男監督晩年の作品として、新珠三千代と小林桂樹主演で『女の中にいる他人』というタイトルで映画化されたものが有名だ。


「姉さん、アヤノが変なこと言い出すんだ。どうしても姉さんに会いたいって……」

 6年前、滝川絵美子(余貴美子)の弟・孝介は、不可解な言葉を残したまま車の転落事故で死亡。その時の同乗者で、当時孝介の婚約者だった佐島彩乃(杉本彩)だけが生き残った。
 絵美子の頭から、事故直前の孝介の言葉が今も離れないでいる。

 それから6年。絵美子が手伝う姑・富美(岸田今日子)の江戸組紐教室に、地元でも有名な資産家の娘である彩乃が今でも出入りしている。
 自由奔放に暮らしている彩乃は、絵美子の子供たちが通う小学校で教師をしている雅夫(村上弘明)を婿養子にしていたが、最近ふたりの仲は不穏な空気になっていた。

 その雅夫は、絵美子に青山の雑貨卸の店を紹介したり、絵美子のふたりの子どもたちに慕われたりと親密な付き合いをしている。

 ある朝、南青山のマンションで彩乃の絞殺死体が発見された。
 「南青山……」その言葉を聞いて急に不安になる絵美子。実は、彩乃が殺害された時刻と同じ頃、彩乃のマンション近くで夫の誠一郎(本田博太郎)を見かけたからだ。

 「あなたは佐島彩乃さんを恨んでいましたね」
 彩乃の葬儀の帰り、絵美子は雑誌記者に問われる。弟の七回忌の席で、絵美子と彩乃が言い争っていたことを、なぜか記者が知っていた。
 さらに、彩乃殺害現場に絵美子が編んだ組紐が落ちていたことが判明する。その頃から、絵美子にとって、分の悪い話ばかりが出回り始める。

 ある日の夜、絵美子は誠一郎から、自分が彩乃を殺したと打ち明けられる。
 彩乃とは秘められた関係で結ばれていて、首を絞める行為と締められることによって官能を得る一種SM的倒錯を楽しんでいた中での突然死だった。その事実を聞いた絵美子は愕然とするが、警察に自首するという誠一郎を、自分や子どもたちのために必死に止め、真相を闇に葬ることにする。

 一方、彩乃が殺された日に誠一郎が南青山にいたという情報が何者かに警察に流される。一気に誠一郎へ疑いが向けられる中、日々の重責に耐えられず、精神的に衰弱していく誠一郎。
 姑から、夫と彩乃との関係は結婚前から周知の事だったと知らされる絵美子。また、ある女からは誠一郎が愛人から借金をしていると聞かされる。

 とうとう誠一郎が重圧に耐えられず警察に自首をする決心をしたある晩、最期に乾杯したワインで服毒死をした。

 実は、それまでに起きたいろいろな事柄は雅夫が仕組んだことだった。
 子供たちが懐き、家族ぐるみで親交のあった雅夫がなぜ?
 絵美子は孝介の遺品から、ある重大な事実を発見した。
 雅夫の旧姓は早野雅夫。幼かった頃の孝介の同級生で、6年前の電話での「アヤノ」は「ハヤノ」だったのだ。両親のいなかった雅夫と、幸福な家庭で育った絵美子と孝介の姉弟。この事件の核は何だったのか………。

    ◇

 人間の欲望は、自分自身の防衛と相手への攻撃に支配される。

 どんな人間にも二つの顔があり、意識的に押さえ付けている片方もあれば、無意識に隠されている顔もあり、どちらの場合も些細なきっかけで簡単に表の顔と入れ替 わってしまう。
 自由奔放な一人の女性の死によって、三人の登場人物の隠された別の顔は連鎖しながらエゴが表出する。
 誠一郎の姿は自己に目覚め贖罪を求める人間の苦悩であり、絵美子は家庭を守るために夫が犯した罪の重さを共用しようとする貞淑な妻の姿。一見夫婦愛に満ちたふたりだが、実はお互いに自己中心的な欲望をはらんでいるのだ。

 殺人を告白された絵美子が平凡な日常から逸脱する道を選び、自己犠牲という手段で家庭を守ろうと覚悟をしたのに対し、誠一郎は贖罪という自由をひとりだけで得ようとする。
 誠一郎は愛人との性行為でサディズムをみせていたが、殺人を告白するという行為でマゾヒズムに転換している。

 家庭劇の終幕という幕引きは、絵美子の心中に大きな変化を植え付ける。
 家庭を守るという建て前で夫に毒を盛り、女であり続けることと、妻のプライドを守る絵美子の決意は女のエゴであり、サディズムだ。

 柔らかく穏やかな表情の余貴美子の瞳が、次第に苦悩の色から人生を見据えた覚悟の眼差しに変わっていく様は、見ている者まで重苦しく悩める気持ちにさせられる。

 30数年前の絵美子姉弟への憧れと恋慕が奇妙にねじ曲がった末での雅夫の復讐は、誠一郎を精神的に追い詰め、絵美子をも疑惑の存在に貶めることだったのだが、少し説得力に欠けるところがある。彼に操られる絵美子と誠一郎ふたりの哀れさが見事なだけに、惜しい。

 誠一郎を殺すことで夫の罪と同一化した絵美子は、それまで以上に強い女になって雅夫と対決する。

 刑事「ご主人、自殺ですって? おかしいなぁ。彩乃殺しのこと、何か聞いてません?」
 絵美子「いいえ。私が死んだら天国で主人に聞いてまいります」  
 刑事「地獄でしょ?」
 絵美子「(地獄って)わたしも?」  
 刑事「さ、どうだか」

 誠一郎の墓参りの帰り道、執拗に追う刑事(でんでん)と絵美子との対峙は緊張感ある会話が絶妙で、終幕のこのシーンから村上弘明との対決まで、悪女の香りを漂わせる余貴美子の妖艶さは素晴らしい。
 深紅のドレスに黒いロングコート姿で凛と立つ余貴美子の貫禄。
 氷の微笑をたたえるファムファタールそのものである。

 オープンカーのブレーキに細工をする絵美子。最期を迎える雅夫に自嘲気味な笑みが浮かぶ。それは、恋慕する絵美子の手にかかるマゾヒズムの思いだろうか。

 男たちから開放された絵美子に穏やかな日々が訪れるエンディングのあと、刑事たちの姿で終わる。


 この原作のTVドラマ化は他にもあり、1972年の三田佳子主演『ホーム・スイート・ホーム』、1981年には大原麗子主演『女の中にいる他人』が製作されている。

 ドラマ演出した中原俊監督は、『櫻の園』や三谷幸喜脚本『12人の優しい日本人』が有名だが、日活ロマン・ポルノ当時の、淫夢な世界を彷徨う男の哀しさを描いた石井隆原作・脚本の『縄姉妹・奇妙な果実』('84)も傑作だった。

スポンサーサイト

Comment

マル子ラーメン says... "中原俊監督"
『縄姉妹・奇妙な果実』…!
よくぞ、最後に記してくれて…ホットした僕です!

『志水季里子』さん大ファンの僕ですが…
80年代前半活躍された
『美野真琴』さんの代表作ですねぇ!
興味深い監督は沢山いますが…
中原監督作品について勉強したいと考えています!!
『メイク・アップ』
烏丸せつこ、尾美としのり…!
この作品が今一番、観てみたいのです!!
『ボクの女に手を出すな』…小泉今日子
『DV』…遠藤憲一この2本は好みでした。

話しは元に戻りますが
『美野真琴』さんを含め…日活ロマン作品、ピンク映画で70・80年代に活躍され……あの人は今!?
と言う
近況を知りたい『女優』さん…
沢山いますねぇ~!!

2011.07.08 17:23 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: 中原俊監督"
>マル子ラーメンさん

>『美野真琴』さんの代表作ですねぇ!

美野真琴さんの作品はあんまり観たことがないと思っていたのですが、たしか志水季里子さんとの共演がありましたね。

>日活ロマン作品、ピンク映画で70・80年代に活躍され……あの人は今!? と言う 近況を知りたい『女優』さん… 沢山いますねぇ~!!

赤坂麗さん、朝比奈順子さん、三崎奈美さん、たった1本(神代作品)しか残していない吉村彩子さんの鋭い目つきは今でも印象深いですね。
赤坂麗さんも志水季里子さんとの共演作がよかった!

>中原監督作品
『メイク・アップ』 烏丸せつこ、尾美としのり…!
『ボクの女に手を出すな』…小泉今日子
『DV』…遠藤憲一

『ボクの女に手を出すな』って中原監督作品でしたっけ……てっきり和田誠作品と………大いなる記憶違いをしていました。
エンケンさんはこの時期、石井隆監督の『花と蛇』2作にもご出演で気を吐いていましたね。

2011.07.09 00:05 | URL | #- [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/747-87b1c1a2