TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「結婚しない女」*ポール・マザースキー



AN UNMARRIED WOMAN
監督:ポール・マザースキー
脚本:ポール・マザースキー
撮影:アーサー・オーニッツ
音楽:ビル・コンティ
出演:ジル・クレイバーグ、アラン・ベイツ、マイケル・マーフィ、クリフ・ゴーマン、ケリー・ビショップ、パット・クイン、リサ・ルーカス、リンダ・ミラー、ペネロープ・ラシアノフ、ポール・マザースキー

☆☆☆☆ 1978年/アメリカ/125分

    ◇

 アメリカン・ニューシネマ花盛りの1970年代は、“女性映画”の時代でもあった。『グリニッチ・ビレッジの青春』につづいてポール・マザースキー監督が発表した本作は、ニューヨーカーの生態を当時のリアルさで描いたヒロイン映画の傑作で、“女性映画”の代表格のひとつである。
 1974年、マーチン・スコセッシ監督の『アリスの恋』が女性の自立を描いた“女性映画”として先頭を切り、以後、ダイアン・キートンの『アニー・ホール』、シャーリー・マクレーンとアン・バンクロフトの『愛と喝采の日々』、ジェーン・フォンダの『ジュリア』『帰郷』、マーシャ・メイスンの『グッバイガール』など、時代に開いた女優たちが絢爛たる魅力で次々と傑作を生み出していた。
 原題「未婚の女」を「結婚しない女」といった主体性を持たせた邦題にしたことで、日本では女性の自立の代名詞のようになり、映画はヒットした。

 ニューヨークの高層マンションに暮らし、ソーホーの画廊に勤めるエリカ(ジル・クレイバーグ)は結婚して16年。毎朝、ウォール街の証券取引所で働く夫マーティン(マイケル・マーフィ)とイースト・リバー周辺をジョギングするのが日課。高校に通う15歳の娘パティ(リサ・ルーカス)に気兼ねなく、朝一番のセックスを楽しみ幸福感に満ちた生活を送っている。
 リビングからの風景で、アッパー・イーストの最上階の角部屋だと判るくらい、リッチな暮らしぶりのニューヨーカーである。

 エリカには、エレイン(ケリー・ビショップ)、スー(パット・クイン)、ジャネット(リンダ・ミラー)という親しい女友達がいて、時々行きつけのレストランやバーで落ち合い、若い男が出来た話やあけすけなセックスの話など、互いに打ち明け話をしている。
 女性の性的な“女”の部分を井戸端会議的に語る描写は、それまでのアメリカ映画にはなかったと思う。これ以後、日本では『金曜日の妻たちへ』や近年の『セックス&ザ・シティ』など、“現代”という時代に生きる女性たちの本音を、風俗描写のひとつとして映しとったドラマとして受け継がれているような気がする。

 外見的に幸福に見える夫婦だって、何が起こるか分らない。
 ある日エリカは、マーティンとランチを共にして街を歩いているとき、突然浮気の告白をされる。マーシャという女教師と1年前から関係があると云う。家を出て一緒に暮らすと、泣きながら話す夫。街を彷徨うエリカは、道端で嘔吐するくらいに打ちのめされる。
 
 マーティンと別れる決心をしたエリカは娘と二人暮しを始めるが、次第に募り出す寂しさと欲求不満に耐え切れなくなり、セラピストのターニア(ペネロープ・ラシアノフ)のもとに通う。ターニアには大いに遊べと勧められ、間もなくエリカは、好きでもない画廊のオーナーのチャーリー(クリフ・ゴーマン)と一夜限りの情事を楽しむ。

 アメリカ人は、特に、ニューヨーカーはセラピストがお好き。
 ヒロインの頭の中が良きにつけ悪きにつけセックスのことでいっぱいになって、それに対して積極的にあれと勧められて、心が解放されるエリカ。

 エリカに扮するジル・クレイバーグは当時34歳。脚線美が目に焼き付く。
 女の心と肉体の微妙なバランス加減を巧く表現し、孤独感を滲ませ苦悩する姿や、夫がいなくなった空虚感を男に求めるときの女の可愛らしさと弱さにセックス・アピールが感じられる。

 舞台女優だったジル・クレイバーグは無名時代の約5年間、やはり無名だったアル・パチーノと同棲していて彼を経済的に援助していたのは有名な話で、この年『ミスター・グッドバーを探して』のダイアン・キートン、『グッバイガール』のマーシャ・メイスンに並んで花開き、見事本作でカンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞している。
 残念ながら、20数年闘ってきた白血病により2010年10月に66歳で亡くなってしまった。


 女友達らがエリカのマンションに集まり、女性の自尊心から映画女優の話をするところが面白い。
 「ベティ・デイビスやキャサリン・ヘップバーンのような、映画界のイイ女たちはどこへ消えたの? ジェーン・フォンダやバーブラ・ストライサンドなんて比べものにならない…………」

 「遅れてるわ。今はバイセクシャルの時代よ」「ミック・ジャガーやデビッド・ボウイとか?」
 母親らの会話に口を挟む娘パティの意見も、当時の全く異なる世代感だ。 

 70年代を象徴するジェーン・フォンダとバーブラ・ストライサンド。ジル・クレイバーグをはじめ新進女優らに貶させるところが少し意地悪ではあるが、これが、舞台・映画界で俳優や裏方を経験してきたマザースキー監督の女優論なんだろうな。既に“スター女優”の時代は終わったと云うことか。
 俳優出身のマザースキー監督は、エレインのセフレ役で出演している。


 やがて中年の抽象画家ソール(アラン・ベイツ)と出会ったエリカは、情事を重ねて恋人としての関係を築きあげ、ようやく心が満たされるようになっていくのだが、それでも、彼との再婚になかなか踏み切ることが出来ないエリカは、自分に正直に生きていくことを選んだ。
 街を出るソールは、同行の誘いを断ったエリカに背丈以上もある大きな抽象画をプレゼントする。

 マザースキー監督は、女性が誰かに従属することを辞め、自らの意思で“愛”を探求していくことを讃える。だから、両手いっぱいにカンバスを抱え、フラフラと風に遊ばれ、困惑の表情を浮かべ雑踏の中に立つエリカの姿が美しいのだ。

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 アッパー・イーストの高級住宅街、クイーンズボロ橋、ロックフェラーセンターのスケートリンク、ソーホーのスプリングSt.辺り……ニューヨークの街に心地よく流れる、ビル・コンティの軽快で都会的なスコアも素晴らしい。

 この作品は、80年代になって何度もNYを訪れるようになった時に、街の散策の参考にさせてもらった映画でもあり、『グッバイガール』('78)『マンハッタン』('79)と共にMy Best New Yorkシネマの1本だった。


★グリニッチ・ビレッジの青春★
★アリスの恋★
★帰郷★

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