TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「八日目の蝉」*成島 出監督作品

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監督:成島 出
原作:角田光代
脚本:奥寺佐渡子
音楽:安川午朗
主題歌:「Dear」中島美嘉
挿入歌:「ドーターズ」ジョン・メイヤー
出演:井上真央、永作博美、小池栄子、森口瑤子、田中哲司、渡邊このみ、市川実和子、平田満、余貴美子、風吹ジュン、劇団ひとり、田中泯

☆☆☆☆ 2011年/日本・松竹/147分

    ◇

 中央公論文芸賞を受賞した角田光代のベストセラー小説の映像化で、既に2010年春にNHKで壇れいと北乃きいでドラマ化されたものを見ている。原作は未読。

 「犯罪の陰に女あり」と言う常套句があるが、女の犯罪には“男”の陰はどのくらいあるだろう。女性が罪を犯すとき、起因は“男”であっても、突き動かすものは“愛の渇望”ではないだろうか。
 人は“愛”がなければ生きていけない。“愛を求める”ために彷徨い、“愛を取り戻す”ために行動する。女性の場合“愛”は“母性”に変化することで核となり、より生きていくための絶対的なものとなるような気がする。


 不実な男の生後六ヶ月の赤ちゃんを誘拐し、薫と名付けて4年間各地を転々と逃亡し続けた野々宮希和子(永作博美)が裁判にかけられた。
 冒頭、裁判の最終弁論で希和子は「薫を育てることが出来て感謝している」と告げ、恵津子や世間に対して反省の弁を一切口にしないことで、希和子の“母性”が絶対的なものだったことが示され、物語は現在と過去を交錯させながら進行していく。

 希和子が誘拐したのは、会社の上司で愛人関係にあった秋山丈博(田中哲司)の子どもだった。希和子は丈博の子どもを身籠ったが、丈博に懇願され堕胎。同じ時期、丈博の妻・恵津子(森口瑤子)が妊娠し、その後、恵津子から別れ話と「あなたはがらんどう」と罵られ心身共に崩壊する希和子だった。
 恵津子に恵理菜(薫)が産まれる。
 ある土砂降りの雨の日、ひと目赤ちゃんを見ようと希和子は丈博夫妻が留守の間に家を訪れるが、それまで泣いていた赤ちゃんが希和子の顔を見るなり笑顔になり、その瞬間、希和子は赤ちゃんを抱きかかえ走り出していた。

 愛する人に裏切られ、堕胎することで子どもを二度と産めない身体になり、何もかも失った希和子が、血の繋がりはないとはいえ一度は愛した男の赤ちゃんの笑顔を見たときに、生きていくために必要な光を見たと思う。もちろん、それは希和子の自分勝手な行動であるし倫理的に許されることではないけれど、希和子が瞬間、ふいに“愛を育てたい”衝動に駆られたのには理解ができる。

 実の両親の元に戻った薫は、実母である恵津子に懐かず、恵津子からも疎ましく思われ成長、21歳になっていた。一人暮らしをする秋山恵理菜(井上真央)は、妻子ある岸田(劇団ひとり)の子を妊娠する。自分を誘拐した女と同じ道を辿るのかと戸惑う恵理菜は、誘拐事件について取材をしたいと現われたルポライター安藤千草(小池栄子)とともに、過去の逃亡生活を辿る旅に出る…………。 


 主人公となる井上真央は、現在放映中のNHK連続テレビ小説『おひさま』が象徴するような元気印のイメージだが、思えば、連ドラ初レギュラーとも言える『ホームドラマ!』('04)で、バス事故の被災者たちが集まる疑似家族の一員として、トラウマを抱えた少女を好演していたっけ。
 本作は、一切笑顔を見せない無表情な演技で、自分の居場所を探す孤独な少女に説得力を持たせている。
 
 血の繋がっていない“親子”から、見返りを求めない“母親”になっていく女性の強さを繊細に演じる永作博美は、その表情の豊かさに感涙。

 ヒロインのふたり以上に目を見張ったのが小池栄子。

 「自信がないなら一緒に母親やってあげるよ。ダメ母でも、ふたりなら少しはマシでしょ」

 これまでシャキッとした女性のイメージだった小池栄子が、猫背で上目遣いのおずおずとした姿で存在感を焼きつけ、千里自身が一緒に一歩踏み出したい心情を吐露するこのシーンでは迫真の演技を見せてくれる。本編で唯一、目頭が熱くなった。 

 森口瑤子は、少ない出番ながら女のイヤな部分を曝け出し熱演。

 登場人物の4人の女性、希和子、恵理菜、千草、恵津子の心の機微がしっかり描かれているので、倫理や法律的な問題は別にしてどの女性にも感情移入ができるようになっていると、男性としては思うのだが………。

 主人公を恵理菜にしたことで、原作(NHKドラマ)と違うラストが用意された。
 恵理菜と名乗るようになってから一番憎んでいたひとが、自分を全身全霊で愛してくれたひとだと理解する写真館のエピソードといい、未来への再生の扉が開かれる最後の恵理菜の台詞といい、余韻ある結末が心に残る。

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Comment

すずみ says... "初めまして"
mickmacさま
初めまして。すずみと申します。

ちょうど「八日目の蝉」を観てきましたので、コメントさせて頂きました。

個人的に凄く良い映画で、日本映画の中ではかなり上位な作品になりました。

mickmacさんのサイトでは60年代、70年代の作品も多く記事にしていて、映画に対して凄く造詣が深いなと感心してしまいました。
2011.05.12 04:00 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: 初めまして"
すずみさん
はじめまして

>「八日目の蝉」個人的に凄く良い映画で、日本映画の中ではかなり上位な作品になりました。

小池栄子さんは他を圧倒するくらいの存在感で、必ずや各賞の助演女優賞にノミネートされるもでしょう。
男たちの存在が希薄なのも良し。小豆島の風景が、哀しい女性たちに寄り添うように美しく映し出されていたのも印象のいい作品でした。

>60年代、70年代の作品も多く記事にしていて、映画に対して凄く造詣が深いなと感心してしまいました。

ありがとうございます。
最新作などの映画レヴューは雨後の筍ように溢れているので、その辺りは他に任せるとして、どうしても古い作品を多く取り上げたくなるのです。
B級作品でも、ロマンポルノでも、アクション映画でも、メロドラマでも、名作と縁のない映画でも琴線に触れるような作品が面白いと思っていますので、これからもよろしくお願いします。

すずみさんのシネマレヴュー、拝見させていただきました。
面白い映画!と思った作品だけを紹介するコンセプトには同感しますよ。
2011.05.12 13:34 | URL | #- [edit]
すずみ says... "返事頂きありがとうございます。"
小池栄子さんの存在感は印象的でしたね。小池栄子さんはお笑い番組とかで見かけるぐらいだったので、映画であんなの存在感の出せる人だとは知りませんでした。

なるほど。確かに新作のレビューは溢れていますもんね。それより厳選した好きな映画を紹介するほうがいいですよね。これからもよろしくお願いします。

そこで良ければなんですが、まだ始めたばかりでレビューしている作品も少ないですが、相互リンクして頂くことは可能でしょうか?
2011.05.13 05:52 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: 返事頂きありがとうございます。"
すずみさん

>まだ始めたばかりでレビューしている作品も少ないですが、相互リンクして頂くことは可能でしょうか?

まったく問題のないことです。
こちらこそ宜しくお願いします。
2011.05.13 11:58 | URL | #- [edit]

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