TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「帰郷」*ハル・アシュビー



COMING HOME
監督:ハル・アシュビー
原案:ナンシー・ダウド
脚本:ウォルド・ソルト、ロバート・C・ジョーンズ
撮影:ハスケル・ウェクスラー
出演:ジェーン・フォンダ、ジョン・ヴォイト、ブルース・ダーン、ロバート・キャラダイン、ペネロープ・ミルフォード

☆☆☆☆☆ 1978年/アメリカ/127分

    ◇

 ベトナム戦争の後遺症をメロドラマ的ストーリーで描いた秀作。

 海兵隊の夫を戦地に送りだした妻は、基地内の病院で帰還兵を看護するボランティアに参加。悲惨な光景の中で、下半身不髄になったハイスクール時代の同級生に再会。次第に彼に惹かれ、愛しあうようになるのだが、彼は反戦運動に没頭していく………。
 英雄として帰国した夫の脆さも含め、心のよりどころに彷徨う男女の痛ましさがある。



 1968年南カリフォルニア。国の正義を信じ、ベトナムの戦地に出征していく海兵隊大尉のボブ(ブルース・ダーン)。彼を見送る妻のサリー(ジェーン・フォンダ)は、やはり恋人を見送ったヴァイ(ペネロープ・ミルフォード)の勧めで、基地の付属病院でボランティアとして働きだす。
 そこには、ヴェトナムからたった2週間で戻ったヴァイの弟ビリー(ロバート・キャラダイン)が精神を病み入院していた。負傷兵たちは身体だけでなく、精神的にも深い傷を負っている者たちが多く、その悲惨な光景に現実を初めて見る思いになる。
 そんな中に、かつての高校時代の同級生ルーク(ジョン・ヴォイト)と再会した。彼は下半身不随の患者として入院しており、精神的にかたくなになり笑顔をなくした状態だったが、サリーの献身的な看護が続き、徐々に心を開くようになり、リハビリにも精を出すようになった。

 やがて車椅子で動き回ることができるようになったルークを、サリーは夕食に招いた。その夜ふたりは、深い充足感と愛情が芽生えて来たことに気がつく。
 ルークの退院が決まった。その日、ボブから休暇を香港で過ごそうと手紙が届き、サリーは出かけて行った。数ヶ月ぶりに再会したボブは、以前と違いどこか戦争の狂気に憑かれていた。

 そんな時、病院では精神的にすっかり憔悴しきったビリーが自殺した。ルークはやり場のない怒りと哀しみを覚え、その夜、基地の新兵募集センターのゲートに自分の身体をチェーンで縛り付け、ひとり反戦活動を展開した。TVで哀しみを訴えるルークの気持ちが痛いほど理解できるサリーは心を揺さぶられる。
 しかしこの事件がきっかけで、ルークの行動はFBIの監視下に置かれた。当然サリーとの関係も記録される。
 やがてボブが脚の怪我をして帰還してきた。夫を裏切ることは出来ないサリーはルークの許を去るが、ボブはFBIからサリーとルークの関係を知らされる。英雄として帰還したボブの価値観が、根底から崩れていった。

 数日後、ボブが勲章を授与された日、ルークはハイスクールで開かれたボランティアの集会で思いのたけをぶちまけた。
 「国のためだと言って、他国で人を殺した。でも、どんなことがあっても正当化はできない。こんな身体になっても悲しくはない。賢くなれたからだ。覚えておいてくれ。戦わない選択もあることを」
 近くの海岸では、気力の失せたボブが勲章と結婚指輪を外し、衣服も脱ぎ全裸になって沖へ向かって泳ぎ出していた。
 そして同じ頃、ショッピングセンターには夫のために買い物をするサリーの姿があった………。

    ◇


 アメリカン・ニューシネマ全盛の70年代に、“ベトナム戦争をテーマ”と“女性映画”といったブームがあった。

  それは70年代後半、それまでハリウッドのタブーとされてきたベトナム戦争と、その後の後遺症に対して見つめ直そうとした映画が何本も生まれた。その代表には、ベトナムの戦地を舞台に戦う者たちの狂気と悲惨さを描いた『ディア・ハンター』('78)や『地獄の黙示録』('79)があり、そして、戦わざる者たちの癒されぬ後遺症を静かに告発した『帰郷』が挙げられる。

 また“女性映画”とは、例えば、女性の自立を描いた『アリスの恋』('75)や、女性の友情を描いた『ジュリア』('77)など、それまで男性主人公が中心だったハリウッド映画に対して、女性にスポットを当てて製作された新しいタイプの映画を指すもので、名作が揃っている。ウーマンリヴ運動からなる女性の映画関係者たちの意識革命が成し得た波だったと思う。

 『帰郷』は、貞淑な人妻から帰還兵たちの日常の現実を目の当たりにしたことから、ひとりの人間として、そして女としての悦びに目覚めていくラヴストーリーとした女性映画でもあり、反戦とフェミニズムの両方のテーマを持った作品として異質ではあるが、戦争への憎しみが深く刻まれることでは『ディア・ハンター』や『地獄の黙示録』より強烈な後味を残す反戦映画であり、鋭く確かな批判の目を持った名作と言える1本である。
 78年度のアカデミー賞では、作品賞と監督賞を『ディア・ハンター』に譲りはしたが、主演女優賞と主演男優賞、そして脚本賞を獲得している。


 この映画は、映画界で反戦活動の旗手だったジェーン・フォンダが、5年がかりで完成させた作品。
 60年代のはじめに父ヘンリー・フォンダへの愛憎から渡仏し、プレイボーイのロジェ・バディム監督と結婚をしたジェーン・フォンダはセックス・シンボル的存在となったが、どこかお嬢様の気まぐれのような感じだった。それがベトナム戦争最中の1970年に初めて反戦運動に参加したことがきっかけで、1973年にロジェ・バディムと離婚。
 1973年は、ベトナム和平協定が正式に調印され、悪夢の戦争は終わった年。しかし、アメリカ国内は、ニクソンのウォーターゲイト事件などで政治への不信の時代に陥っていた。この年、反戦運動家のトム・ヘイドンと再婚したジェーンがこの映画の草案を作成し、若き女流ライターのナンシー・ダウドがストーリー化させたのがはじまりだ。
 その後『真夜中のカーボーイ』('69)のシナリオ・ライター、ウォルド・ソルトが本格的シナリオを書き上げた。当初は『真夜中のカーボーイ』のジョン・シュレシンジャー監督の予定だったが、英国人のジョンが「これはアメリカ人が撮るべきだ」と監督を降りたためにハル・アシュビーに代わった経緯がある。
 ジョン・ヴォイトもはじめはボブの役でオファーをされたが、ヴォイト自身が強引にルーク役を希望したために、シナリオは撮影に入ってどんどんと書き直されたと云う。
 
 映画の後半、ルークが反戦抗議を始めたことでFBIから目を付けられるが、実際にジョン・ヴォイトも、徴兵拒否運動の裁判所でトム・ヘイドンらと一緒にいたということで目をつけられ、FBIに盗聴や尾行をされた経験があるらしい。

 監督のハル・アシュビーは1988年に59歳で亡くなっている。
 ジャック・ニコルソンのヒューマン・ドラマ『さらば冬のかもめ』('71)や、ウォーレン・ビーティの内幕風刺ドラマ『シャンプー』('75)、ピーター・セラーズのコメディ『チャンス』('79)、そしてローリング・ストーンズの優れたミュージック・ドキュメンタリー『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』('83)など秀作・傑作を生み出してきた監督。
 遺作となったジェフ・ブリッジス主演の『800万の死にざま』('86)は、大好きな作家ローレンス・ブロックの“マット・スカダー・シリーズ”の映画化だっただけに少し物足りなさを覚えたが、ニューシネマ時代の好きな監督のひとりだ。

 音楽はロック・ミュージックが大好きなハル・アシュビー監督が、1968年当時のロックを『イージーライダー』('69)と同じように全編に流し、68年の世相をフラッシュバックさせることに成功している。ローリング・ストーンズの楽曲が多く使用されているが、これも監督がミック・ジャガーの大ファンだからだ。


★アリスの恋★

★真夜中のカーボーイ★


    ◆

[挿入曲と前後シーン]

 使用された曲は13アーティストの20曲。ほとんどが中学生の頃に聴き親しんだ楽曲ばかりなので、音楽によって映像がより印象的になった映画でもあり、1978年ダントツのベストワン作品であった。


●ローリング・ストーンズ「アウト・オブ・タイム」('66)
“お前は世間知らず 戻ってきても元の2人には戻れない お前は過去の存在 お前は何も判っちゃいない 身勝手なベイビー タイミングが悪いぜ”

映画のタイトルとクロージングに流れるこの曲、ストーンズ・ファンとしては曲のイントロでブルース・ダーンのジョギング・シーンを思い起こすに充分。

●サイモン&ガーファンクル「ブックエンド」('67)
“過ぎ去った日々 それは素晴らしい日々 それは無邪気な日々 自信に満ちあふれた日々………”

将校クラブで、ボブやサリーが大佐夫人に労われる。

●ビートルズ「ヘイ・ジュード」('68)
“悪く考えるな 気持ちひとつで明るくなれる 必要としているものを受け入れれば すべてが好転するだろう”

ボブの独りよがりのセックスにどこか虚しさを感じるサリーだが、ボブの出征を従順に見送る場面で流れる。
しかしこの曲、時系列的にはまだリリースされていないはずだが………。

●ローリング・ストーンズ「ノー・エクスペクテーションズ」('68)
“駅まで俺を連れて行き汽車に乗せてくれ もうここには二度と来ないよ”

ボランティアを希望しにサリーが病院を訪れ、自暴自棄のルークを見かける。

●ジェファーソン・エアプレイン「ホワイト・ラビット」('67)
サイケデリック・バンドの雄J・エアプレインが、「不思議の国のアリス」をモチーフにしてドラッグによる幻覚作用を歌ったヒット曲。

病院で、ベトナム戦地で精神を病んで戻ってきたヴァイの弟ビリーに会うサリー。

●ボブ・ディラン「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」('66)
反戦活動に積極的な歌手ジョーン・バエズのことを歌ったとされている。

国に命を捧げ負傷した帰還兵たちに無関心な将校クラブの夫人たちに幻滅するサリー。
日本も同じだが、60年代の中頃までのアメリカの女性は社会問題に関わることなんて皆無であり、献身的で従順な家庭の主婦が良きとされてきた時代である。
何かを決意するサリー。髪型をカーリーヘアにするのもひとつの意思表示だった。TVでは、ロバート・ケネディが兄(ジョン・F・ケネディ)の遺志を継ぐと語っている。

●ローリング・ストーンズ「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」('68)

車椅子に乗るようになったルーク。サリーからは夕食に誘われ、車椅子のフットボールでは大ハシャぎ。サリーによって何かが変わったルークの心情に、この曲はぴったり。

●リッチー・ヘブンス「フォロー」('68)

「人間の本当の姿を見抜くのは難しい」夕食後のサリーとルークの会話。そしてキス。

●ローリング・ストーンズ「マイ・ガール」('67)
オーティス・レディングのカバー曲。

ルークの退院が決まるが、サリーはボブの慰労休暇で香港に出向くことを告げる。

●ローリング・ストーンズ「ルビー・チューズデイ」('67)
“どうして自由を求めるのか聞いても無駄 それが私なのって言われるだけさ 何も得ることもなく、何も失うこともない人生 さよならルビー・チューズディ ぼくは君を恋しく想っているよ”

車を購入し、スーパーに買い物に行くルークの日常。ロバート・ケネディの暗殺が告げられる。

●ローリング・ストーンズ「悪魔と憐れむ歌」('68)
“自己紹介します わたしは裕福で贅沢な男です 長い間いろいろな経験をしています 多くの人間の魂と信仰を盗んできました”

香港に着いたサリー。数ヶ月ぶりに接する夫は、どこか戦争の狂気に取り憑かれていた。
そして病院では、ビリーが自らの命を絶つ。

●ステッペンウルフ「ワイルドで行こう」('68)
“ハイウェイに走り出せ 冒険を探そうぜ 俺たちの前にくるものは 愛で世界を手に入れるんだ”

ビリーの自殺により反戦意識が燻りだしたルークが、新兵募集センターで抗議活動をはじめる。

●ジミ・ヘンドリックス「マニック・デプレッション」('67)
“躁鬱が俺の精神に触れてくる 何が欲しいのか判っているのにわからない 音楽が 甘い音楽が 愛撫が いらだたしい混乱だ”

弟の死に混乱し傷心のヴァイとサリーが、GOGOクラブで強烈なロックに包み込まれている。

●アレサ・フランクリン「セイブ・ミー」('67)

行きずりの男たちの前で、モーテルのラジオから流れるこの曲に合わせて腰を振るヴァイだが、哀しさを癒すための無軌道な行動に醒め、泣き崩れる。
TVの中でリポーターに哀しみを訴えるルークを眺めるサリーとヴァイ。警察署から出てくるルークとサリーの後をFBIが尾行をはじめる。

●バッファロー・スプリングフィールド「エクスペクティング・トゥ・フライ」('67)
“君は羽の端っこに立った 飛び立つ予感………” ニール・ヤングが作った美しいバラードだ。

サリーとルークのベッドシーンに流れる。
下半身不随のルークだが、優しく愛撫されるサリーは初めて愛情のあるセックスを知り、オーガズムを感じる。
ジェーン・フォンダのアップによる官能シーンはとても美しい。

●ビートルズ「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」('67)

ふたりが結ばれた後の充足した気分と、サリーとルークとヴァイの3人が海岸で戯れる歓びを、見事にこの曲が盛り上げている。

●ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング Co.《featuring:J・ジョプリン》「コール・オン・ミー」('67)
“男と女は互いに支え合ってく この世の中に道を開いてく あなたが必要なの 優しい愛を奪わないで”
ジャニス・ジョプリンが有名になる前のホールディング Co.のファーストアルバムから、この美しいラヴソングが使われた。

ボブとのことで揺れるサリー
「長い間一緒にいたからボブの寂しさも判るわ。でも私は変わったの。今までの私とはちがうの」
ふたりが入る映画館は『2001年宇宙の旅』が上映されている。

●バッファロー・スプリングフィールド「フォー・ホワット・イッツ・ワース」('67)
“何か起きている よく分からないけど 銃を持った男が 僕に“気をつけろ”と……”
スティーヴン・スティルスが作ったこのヒット曲は、1965~66年にLAで起こった人種暴動を歌ったメッセージ・ソング。

ボランティアの集会でスピーチを依頼されるルーク。そして、ボブが脚を負傷して帰国してくる………。

●チェンバース・ブラザース「タイム・ハズ・カム・トゥデイ」('68)
ミシシッピ出身の黒人4人兄弟を中心にしたファンク・ロック・バンドのサイケデリック・サウンド。

帰国後のボブ。心に深い傷を負った惨めさと、FBIに妻の不貞を聞かされ怒りをフツフツと滾らせていく行動を、長尺のこの曲が不気味に促していく。見事な選曲。

●ティム・バックリー「ワンス・アイ・ウォズ」('67)
28歳の若さで他界した伝説的シンガー・ソング・ライターの2作目のアルバムからピックアップ。

ルークのスピーチと、ボブの覚悟と、サリーの笑顔。三人三様のラストが、静かに心に突き刺さる。


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