TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「帰らざる日々」*藤田敏八監督作品



監督:藤田敏八
原作:中岡京平「夏の栄光」
脚本:藤田敏八、中岡京平
撮影:前田米造
音楽:アリス
主題歌:「帰らざる日々」アリス
出演:江藤潤、永島敏行、浅野真弓、竹田かほり、根岸とし江、朝丘雪路、中村敦夫、吉行和子、加山麗子、中尾彬、小松方正、草薙幸二郎、丹波義隆

☆☆☆☆ 1978年/日活/99分

    ◇

 1977年の第3回城戸賞で初の入選作となった中岡京平のオリジナル・シナリオ「夏の栄光」を、藤田敏八監督は72年の夏の部分に焦点をあて、信州の山の夏の、若々しく力強い日々を瑞々しく描いた秀作。


 1978年夏、東京、早朝の新宿駅。
 キャバレーのボーイをしながら作家を目指している野崎辰雄(永島敏行)は、父の突然の死を告げる電報を受け取り、同棲中のホステス蛍子(根岸とし江)に訳も言わずに長野県飯田市に向かう電車に飛び乗った。

 甲府を過ぎたころ、車内で高校時代の級長・田岡(丹波義隆)と婚約者(加山麗子)に会い、彼が防衛庁(当時)に入り間もなく結婚することを聞かされる。同級生の婚約者を見ているうちに、辰雄には6年の歳月の記憶が甦ってきた。
 電車の進行に合わせて辰雄の回想が始まる。

 1972年夏、飯田市。
 辰雄は、若い女をつくった父(草薙幸二郎)と別居しバーを経営している母・加代(朝丘雪路)とふたり暮らし。高校3年の辰雄は、仲間たちとのたまり場になっている喫茶店でウエイトレスをしている年上の真紀子(浅野真弓)に密かな想いを寄せていた。
 そんな辰雄の前に、真紀子に金の無心をする同じ高校の工業科に通う隆三(江藤潤)が現れた。
 辰雄の真紀子への気持ちを知った隆三は、彼をからかい、二人は喧嘩となるが、隆三と真紀子がいとこ同士と知らずにムキになって挑んでくる辰雄に好意を持ち始め、ふたりの仲を取り持とうとする。
 高校卒業後は東京に出ようと考える辰雄と、高校を辞めて競輪選手になるために競輪学校に入る夢を持つ隆三。ふたりの間には、他人には踏み込めない友情が芽生えてくる。

 母親のバーで知り合った侠客・戸田(中村敦夫)に連れらた小料理屋(吉行和子)で、辰雄に好意を寄せていた中学の同級生・由美(竹田かほり)に再会。そして初体験。

 夏休みはいろんな出来事があった。

 辰雄は隆三に誘われ天竜峡で舟運びのアルバイトを始め、力仕事のなかでふたりの絆は強まり、全てが順調な日々が続いていたのだが、夏祭りの夜ふたりは、真紀子が一年も前から妻子のある男・中林(中尾彬)と付き合っていたこと、そして、妊娠をしていることを知る。
 翌日、二日酔いのままふたりは炎天下で舟運びの仕事をしていた。突然、吊り上げられた舟が落下し、辰雄を助けようとした隆三は、舟の下に脚を挟んでしまう。

  …………………

 電車が飯田駅に到着。こっそり電車に乗り込んでいた蛍子とともに母親に迎えられた辰雄は、父親を死なせた車を運転していたのが隆三で、彼もまた意識不明の重体だと知らされた。

 「お前、どこまでドジなんだ…………俺を助けようとしたことがドジの始まりで………いや、そうじゃない そもそも俺と出会ったことが間違いだったんだ…………そう、俺が、お前のいとこに惚れなければ……………………」      

 父親の死には涙も見せなかった辰雄は、昏睡状態の隆三の前で6年前の苦い想いを噛み締め、涙をためて声をかける。病室の隅には、使い古された義足が立て掛けられている。

 父親の葬儀の晩、同級生から真紀子は北海道に渡ったと聞かされた。
 そして、隆三が死んだことを告げられる。

 翌朝、かつて隆三と競い合いながら走った山道を、歯を食いしばりながら走る辰雄と、その後ろを自転車で追う蛍子の姿があった………。

    ◇

 1978年《現在》と1972年《回想》のふたつの夏を交錯させながら描く青春の日々。
 70年代の藤田敏八監督の青春映画のなかでは、とても好きな作品だ。

 『八月の濡れた砂』は一つ上の世代への憧れのようなところがあったし、『十八歳、海へ』と『もっとしなやかに、もっとしたたかに』はシラケ世代と崩壊する家族の映画だったし、青春フォーク3部作と云われる『赤ちょうちん』や『妹』はヒロイン映画で、『バージン・ブルース』は80年代の『スローなブギにしてくれ』『ダイヤモンドは傷つかない』と同様の中年の郷愁映画だった。

 この作品には、当時主人公が同い年と云うことや、高校3年の時に年上の短大生とつき合っていた経験や、20代の時に友人を亡くした哀しみが、自分自身の青春像とだぶらせることができ、心打たれたのは当然だった。
 東京の侘しいアパート暮らしの辛い現実と、ひと夏の淡く切ない想い出が、《あの頃》という普遍的な青春のキイワードとして、誰のこころにも小さな痛みを感じさせる映画であろう。
 
 タイトルバックとクロージングに流れるアリスの1976年発売の同名ヒット曲は、荒木一郎が1975年に発表した『君に捧げるほろ苦いブルース』の歌詞とメロディを引用したとして騒動にもなった。
 ひどく直接過ぎて感傷的な谷村新司の歌詞よりも、亡くなった愛猫のために書かれた荒木一郎の歌詞の方が断然好きなのだが、この映画に関しては「Bye Bye Bye 私のこころ Bye Bye Bye 私のいのち Bye Bye Bye Bye My Love」のフレーズが、悔しいけれど涙なしではいられなかった。

 本作の併映は浅野温子のデビュー作『高校大パニック』。宣伝的に『高校大パニック』の方に力が入っていたような気がするが、上映はロマンポルノが掛かる劇場だったので客足はイマイチだった。
 ちなみに、マドンナの浅野真弓は柳ジョージと、竹田かほりは甲斐よしひろと、共に80年代前半に結婚し引退している。


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Comment

ロビン says... ""
僕が中学生の頃まだ映画の事なんて何にもわかってなかった頃「帰らざる日々」を見て、深夜にエロ目的で「ダブルベッド」を見た時に何故か同じ人が作ったんじゃないかと作品に引き込まれてクレジットを見た時の衝撃を思い出します。その後「祭りの準備」「17歳の地図」や長谷川和彦作品相米真治作品等を見まくったのを思い出します。藤田監督の「リボルバー」を見て大興奮し新作を待ちわびてたのですが見れなかったのが残念でした。長々と失礼しました。
2011.04.20 20:52 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
 ロビンさん 

 70年代の青春映画は空気感がどの時代より濃厚なので、『祭りの準備』にしろ『十九歳の地図』にしろ、とにかく暗いですね(笑)
 それが魅力なのですが。

 藤田敏八監督の遺作『リボルバー』は、群像劇的な面白さでグイグイと魅せてくれる快作でした。
2011.04.21 13:10 | URL | #- [edit]
ロビン says... ""
19歳の地図でした(^^;本間優二や蟹江敬三など素晴らしかったです!この頃の映画は定期的に見ちゃいます!最近見直して改めて凄さを実感したのが小栗康平監督の「泥の河」「死の棘」「眠る男」でした。これもまた暗いですが^_^;
2011.04.21 16:17 | URL | #- [edit]
和歌山マル子ラーメン says... "待ってましたぁ~!!"
『帰らざる日々』
邦画…私的ベスト3に入る作品!
『藤田敏八』監督
日本映画で一番かなぁ~?!…好きな監督さん!
順位付け難く藤田監督の好きな…作品!
『非行少年若者の砦』
『八月の濡れた砂』
『赤ちょうちん』
『帰らざる日々』
上記、70年代の日活作品(ダイニチも有)の映像美が素晴らしい~!!
どうも他社での作品になると僕的に、しっくりこない!?

同じく『神代辰巳』監督作品にも通じる…!?
が、しかし…日活がロマンポルノ路線になってからの
『八月はエロスの匂い』
『エロスは甘き香り』
なんか…僕の感性では理解不可能!?
成人映画となると
『神代辰巳監督』作品
の方が(僕的)に好みですねぇ~!!

大ファンと言ってながら観ていない作品~
『横須賀男狩り 少女悦楽』
『実録不良少女 姦』
上記2作品~興味深いです!

藤田監督作品の中で人にオススメ!して『クレーム』の来ないのが!…
『帰らざる日々』
だと確信します。

お邪魔しました!


2011.04.21 19:46 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
 ロビンさん 

 『十九歳の地図』は作品レヴューしています。

 『泥の河』も自分と置き換えて観ていた映画でした。
 昭和30年代は貧富の差も差別も公然と存在していたので、映画と同じように親から遊んではダメと云われた子が近所にいました。
 映画の舞台は大阪でしたが、ロケはここ名古屋の中川運河だったので、余計に身に沁みる映画でした。今観ても、多分、泣くと思います。

 『眠る男』は、途中で寝てしまった映画です(汗・笑)
2011.04.22 13:43 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: 待ってましたぁ~!!"
 和歌山マル子ラーメンさん

 好きな映画を気まぐれに書きなぐっているだけですので、統一感に欠けるかもしれないし偏りもかなりあると思いますが、お好みの作品で同感して頂ければ嬉しいです。

 ぼくが藤田敏八監督作品のファンになったのは、梶芽衣子さん~桃井かおり嬢~秋吉久美子と続いた系譜がドンピシャだったので、和歌山マル子ラーメンさんの挙げた作品以外では
  『赤い鳥逃げた?』(作品紹介しています)
  『野良猫ロック/暴走集団'71』
  『修羅雪姫』
  『もっとしなやかに、もっとしたたかに』
  が好きです。
  『天使を誘惑』も案外いけたかな(笑)。

 
 神代作品が反権力を強くした作品が多いのに対して、藤田敏八作品は気怠く内向的で、フーテン、ヒッピー、シラケ世代と、時代の空気を取り入れた映画の感がします。
 だから『エロスは甘き香り』などは、桃井かおり嬢&伊佐山ひろ子嬢のヌードシーンがあってもロマンポルノではないですものね。
 『実録不良少女~』は、ロマンポルノ初出演の内田裕也氏(ユーヤさんはどの映画でも存在感があり過ぎ)と岸部一徳氏に見るとこあったかな……って作品(☆☆★)だったと記憶します。

 男女の生き方の濃厚さでは神代作品の方がウ~ンと好みですね。

2011.04.22 15:19 | URL | #- [edit]
蟷螂の斧 says... ""
所詮は隆三を超える事ができない辰雄。
辰雄を助ける為にあんな目に遭った隆三。
辰雄の父親の事故死。はねたのは何と隆三。だけど父親よりも隆三の死に涙を流す辰雄。切なかったです・・・・。
2012.12.21 20:58 | URL | #0HaN3Fys [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
>蟷螂の斧さん  ドーモです。

記事文中にも書きましたが、当時、主人公やその周りの人物が自分と重ね合わせるところが多く、感情移入する映画でした。
江藤潤と永島敏行はこの時期、一番旬な俳優でしたね。
2012.12.22 18:43 | URL | #- [edit]
蟷螂の斧 says... "天使を誘惑"
あの映画も好きです。
いかにも昭和の時代の若者。同棲。
百恵さんが健気でした。

江藤潤。最近見ないですね。
2012.12.24 04:13 | URL | #uMmXBXpU [edit]
mickmac says... "Re: 天使を誘惑"
>蟷螂の斧さん 

「天使を誘惑」は1980年のお正月映画でしたね。
キャスティングが良かった覚えと、藤田敏八監督の長回しに緊張感があったかな。
山口百恵の映画の中では好きな1本です。
2012.12.25 18:09 | URL | #- [edit]
巽正太郎 says... "無題"
いやー青春映画の大傑作でしたね。いくつかのシーンで登場する眼鏡のフツーの同級生の存在感がリアルで印象深かった記憶もあります。これを観た後のある夏、飯田を訪れたことも。
なお文中キャスト紹介、中村敦夫ではなく中尾彬です。

2013.01.21 16:15 | URL | #4vq5S4iA [edit]
mickmac says... "Re: 無題"
巽正太郎さん  はじめまして

本作が青春映画の金字塔と称されるのも、普遍のテーマでありリアルな登場人物にあるのでしょうね。
これからもよろしくお願いします。

>なお文中キャスト紹介、中村敦夫ではなく中尾彬です。

侠客の役で中村敦夫氏が登場致しますよ。
2013.01.21 23:40 | URL | #- [edit]
巽正太郎 says... "失礼しました!"
あ、そーか、そーでしたね、
いや失礼いたしました。
こんなに感動的な巡り合いをした映画においてをや、記憶が欠けて行くわけですね、
いやはや年齢に免じてご寛恕のほど・・・。
2013.01.22 11:58 | URL | #4vq5S4iA [edit]
mickmac says... "Re: 失礼しました!"

> いや失礼いたしました。こんなに感動的な巡り合いをした映画においてをや、記憶が欠けて行くわけですね、 いやはや年齢に免じてご寛恕のほど・・・。

いやいや、全然構いません。わたしの記事も、時々あやふやな記憶だけで書く時がありますので、何かありました遠慮なくご指摘ください。
2013.01.22 12:41 | URL | #- [edit]

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