TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「悪魔のような女」*アンリ=ジョルジュ・クルーゾー



LES DIABOLIQUES
監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
原作:ピエール・ボワロー&トマス・ナルスジャック
脚色:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー、ジェローム・ジェロミニ
撮影:アルマン・ティラール、ロベール・ジュイヤール
音楽:ジョルジュ・ヴァン・パリス
出演:シモーヌ・シニョレ、ヴェラ・クルーゾー、ポール・ムーリッス、シャルル・ヴァネル

☆☆☆★ 1955年/フランス/116分/B&W

    ◇

 「この映画の結末は、絶対にひとには話さないでください」
 暗転したスクリーンにこの文言を映した最初の映画として、あらゆるスリラー映画のバイブルとなった映画である。ヒチコックはこの作品に嫉妬し、そして徹底的に研究・分析をして『サイコ』('60)を撮りあげたという。


 パリ郊外で寄宿学校を経営しながら教鞭を執る資産家のクリスティーナ(ヴェラ・クルーゾー)は、夫で校長のミシェル(ポール・ムーリッス)の横暴さに悩まされていた。
 ミシェルの愛人でクリスティーナの同僚教師ニコル(シモーヌ・シニョレ)も、ミシェルに暴力を振るわれ憎悪を覚えている。
 歪んだ三角関係が存在するなか、あまりにも利己的で乱暴なミシェルに我慢ができなくなったふたりの女は、共謀してミシェルの殺害を計画する。
 週末、田舎にあるニコルの持ち家にミシェルをおびき出し、睡眠薬で眠らせたあと浴槽でミシェルを溺死させる。翌日、ふたりは死体を寄宿学校のプールに沈め、ミシェルが誤ってプールに落ちて水死したように工作した。
 なかなか死体が浮かんでこないことにイラつくニコルとクリスティーナだったが、プールからミシェルのライターが発見されたことから用務員にプールの水を抜かせる。しかし、空になったプールからは死体が忽然と消えていた。
 行方不明になったミシェルの話題を聞きつけ元刑事(シャルル・ヴァネル)が動きだす一方、ふたりの前には数々の不可解な出来事が起きる……。

    ◇

 クルーゾー監督の前作『恐怖の報酬』('53)は、ジワジワと連鎖していく恐怖がスリリングだった。次から次へと起こる不測の展開に、友情というスパイスを絡めることでサスペンス度を高め、感情移入できる共犯関係による恐怖を味わうことができた。

 本作は、劇中音楽が一切使わずに効果音だけで陰鬱な世界が描かれる。
 常に曇に覆われた空と淀んだプールの水面、水道管から漏れる不快な排水音、部屋に響くタイプライターの規則音、革手袋の擦れる音と影のなかを歩く靴音…………

 病弱なクリスティーナの視点で語られる不安と恐怖が観る者への感情移入となり、光が生み出す暗黒が戦慄を生む演出はモノクロームだからこその恐怖。それはクライマックスにクリスティーナが追いつめられていくシーンで増幅される。

 初見は、とにかく怖かった。ボリス・カーロフの『フランケンシュタイン』やクリストファー・リーの『吸血鬼ドラキュラ』のような恐怖映画をTVで観ていた少年期。ジョージ・A・ロメロもまだいない本格ホラーのない時代に、この映画のラスト数分間は恐怖以外の何ものでもなかった。

 ただしインパクトのある結末も、既に半世紀以上も経つと手垢の付いたトリックとなりミステリーとしての衝撃度は薄い。致し方ないことだが「どんでん返し」を想定して観るにはヌルイかもしれない。この作品は名作と讃えられるが、個人的にはスリラーの古典としての傑作くらいの感じである。それでも、結末を知っていても大胆なカット割で観客にショックを与える『サイコ』と同じように、ショッキングなラストは何度観ても怖い。

 真相が明らかになったあと、いたずら少年モネの言葉にスリラーの衝撃性があり、これこそホラーである。
 真実はなに………。

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   ◆以下、原作の結末に触れます。

    

    
 原作は、夫と愛人が妻を殺す展開である。そして、妻の亡霊に怯えて夫は自殺。妻と愛人の結託が、邦題通りの“悪魔のような女”たちとなる。
 原題の「DIABOLIQUES』は“悪魔のようなもの”と直訳でき、この曖昧さが真相を隠しているのだが、映画は原作の結末を逆手に取ってひと捻りしている。だから、邦題の“悪魔のような女”では微妙にネタバレしているのだ。

 主演女優ふたりと出演者の顔や姿を見せない予告編や、映画館の途中入場禁止キャンペーンなどプロモーション展開が上手い。

 さて、1996年にシャロン・ストーンとイザベル・アジャーニでリメイクされた“悪魔のような女”は、また違った結末を迎える。そして、シャルル・ヴァネルの役を演じた名女優キャシー・ベイツが場をさらっていくのである。

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