TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「地下室のメロディー」*アンリ・ヴェルヌイユ

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MELODIE EN SOUS-SOL
監督:アンリ・ヴェルヌイユ
脚色:ミッシェル・オーディアール、アルベール・シナモン、アンリ・ヴェルヌイユ
撮影:ルイ・パージュ
音楽:ミッシェル・マーニュ
出演:ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、ヴィヴィアーヌ・エオマンス、モーリス・ビロー、カルラ・マルリエ

☆☆☆☆ 1963年/フランス/121分/B&W

    ◇

 フランス映画界の2大スター、ジャン・ギャバンとアラン・ドロンが初めて顔を合わせたフィルム・ノワールで、犯罪映画史のなかで最も美しくフォトジェニックなラストシーンをもった作品であろう。
 人生の哀歓を滲ませた“負の美学”こそがフィルム・ノワールの魅力で、苦労して遂行し終えた犯罪が思わぬことで破綻に至るまでのスリルとサスペンスは一級品である。

 初見は1970年頃。既に結末を知っていての鑑賞だったが、モダン・ジャズのテーマとラストの映像が耳と目に焼き付いており、何度でも面白く観られる作品だ。



 21世紀になっても変わらぬ荘厳な佇まいを見せる1960年代のパリ北駅。
 5年の刑を終えシャバに戻ってきた老ギャングのシャルル(ジャン・ギャバン)が乗る電車には、夏のヴァカンスで話が盛り上がる乗客でいっぱい。ローンで休暇をた楽しんだ庶民の話に、シャルルのモノローグが被さる。
 「安月給の自由など俺にはいらん」

 我が家がある郊外の駅で降りたシャルルが目にするのは、都市開発で森が消え、高層マンションが立ち並ぶ街の様変わりだ。
 「まるでニューヨークだ」と呟くシャルル。

 タイトルロールには、一度聴いたら忘れることのできないミッシェル・マーニュ作曲のモダン・ジャズのテーマ。管楽器のリズムに合わせ、カメラが高層マンションを仰ぎ見る映像に上から一本のラインが伸び、左右に「MELODIE EN 」と「SOUS-SOL」と並ぶ活字体。スタイリッシュなタイトルバック。

 映画音楽が持っているドラマ性に、モダン・ジャズを効果的に使用したのがフランス・ヌーベルヴァーグの作品の数々だろう。(アメリカ映画でのモダン・ジャズ使用は、1955年の『黄金の腕』が最も古い) MJQを起用したロジェ・ヴァディム監督の『大運河』('57)以降、『死刑台のエレベーター』や『危険な関係』『ピアニストを撃て』など、モダン・ジャズがスリリングに、クールな心象風景を観客に残すようになった。

 「随分早く戻ったわね」
 シャルルが我が家に帰り着くと、恋女房ジャネット(ヴィヴィアーヌ・エオマンス)がさりげなく声をかける。
 「俺は早いとは思えんが」
 「時間のことよ」
 「刑務所の出所時間は朝の7時と決まってる」
 「そう……………コーヒー飲む?」

 今、自分が中年を過ぎて見直してみると、このジャン・ギャバンとヴィヴィアーヌ・エオマンスの絶妙な間と会話がつづく前半部、老年夫婦の腐れ縁的関係の心情にはじんわりくるものがある。
 男が抱えるダンディズムと女の持つキャパシティの風情はいいものだ。

 ジャネットの「今度逮捕されたら死ぬまで刑務所を出られないわ」と云う心配を他所に、「確実なヤマがある。それを成功させたら引退する」と最後の大仕事を企てるシャルル。それは、カンヌのパルム・ビーチにあるカジノの売上10億フランを強奪するというもの。
 シャルルが相棒に選んだのは、刑務所で目をつけた若者フランシス(アラン・ドロン)だ。彼の敏捷な運動能力を見込み、カジノの楽屋の屋根裏から通風口を通り、地下金庫に降りるエレベーターの上に乗り、金庫室に入って現金をいただく計画だ。
 シャルルはまずフランシスに、高級ホテルに泊まりカジノのショーガールに近づき、楽屋に自由に出入りできるよう命じる。

 アラン・ドロンの美貌は、卑しさと危なさを持った色気だろうか。虚無を秘めた眼差しと退廃的なムードに勝るものはない。この映画の最初の登場は冴えない格好のチンピラ。
 シャルルが、高級仕立てのスーツで金持ちのお坊ちゃんに変えてやると計画に誘うビリヤード場では、アラン・ドロンは吸っている煙草をテーブルのエプロンに置いてプレイするところが印象的だ。くわえ煙草のプレイはマナー違反だ。
 紫煙が立ち上るキャロム(ワンショットで手球を2つの球に当てるゲーム)の最中、アウトローとして年季が入っているシャルルとチンピラのフランシスの立場が見えてくる。

 いよいよカンヌに乗り込んでからは、断然アラン・ドロンのひとり舞台である。
 楽屋に潜り込むためにショーガールをナンパするプールのシーンは色男の独断場。

 決行はシーズン最後の夜。計画通りに10億フランの札束を手に入れ、ふたつの鞄に入れて秘密の場所に隠した。別々のホテルに泊まるふたりの完全犯罪は成功したかに見えたが………。


 俳優・女優を真正面に据えながら、対面する俳優の表情を見せるために鏡を多用する演出が印象に残るが、やはり、ラストシークエンスの映像的興奮。
 警察関係者が立ち回るプールのデッキチェアに座るジャン・ギャバンと、プールの周りをうろつくアラン・ドロン。ルイ・パージュのカメラワークと「地下室のメロディのテーマ」をオーケストラにアレンジしたスコアが犯罪者の心理にリンクするふたりの台詞のない10分間は、まさに極上のサスペンス。プールいち面を埋め尽くすモノクロームの札束の美しさは、“これぞ映画”である。


★以下、カラーヴァージョンのファイナル・シーン

 アメリカ劇場公開版は103分に編集されたものだったが、それにデジタル処理で着色したのがこのカラー・ヴァージョンで、レンタル版はほとんどがこれらしい。
 モノクロで見慣れているぼくには抵抗感が強く観たことはないのだが、こうしてラストシーンだけだが、初めてみた感じは悪くないかな。



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