TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「白夜行」*深川栄洋監督作品



監督:深川栄洋
原作:東野圭吾
脚本:深川栄洋、入江信吾、山本あかり
撮影:石井浩一
美術:岩城南海子
音楽:平井真美子
主題歌:「夜想曲」珠妃
出演:堀北真希、高良健吾、姜暢雄、緑友利恵、粟田麗、今井悠貴、福本史織、斎藤歩、中村久美、山下容莉枝、宮川一郎太、小池彩夢、篠田三郎、黒部進、田中哲司、戸田恵子、船越英一郎

☆☆☆☆ 2011年/日本・ギャガ/149分

    ◇

 原作は1999年の発刊時、一気に読んだ記憶がある。
 「偽りの昼に太陽はない。さすらう魂の大叙事詩。」という単行本の帯惹句に惹かれ、最初に触れた東野圭吾の小説だったが、たしかに切ない物語として読み応えのある傑作だった。
 映画では散漫になりがちな多くのエピソードと登場人物をすっきりと刈り込んことで、孤独と悲哀の豊潤な香りが漂う純度の高いミステリーに仕上がっている。
 力強く重厚な映画の魅力にあふれた傑作と呼んでいいだろう。

 昭和55年、小学生たちの遊び場となっていた廃ビルの中で質屋の店主が死体で見つかった。店主の妻・桐原弥生子(戸田恵子)と従業員で愛人の松浦勇(田中哲司)に嫌疑がかかるが、所轄の担当刑事・笹垣(船越英一郎)の訪問に10歳になる息子の亮司(今井悠貴)が母親のアリバイを証言する。
 遅々として進展しない捜査の日々が続く中、ある日、被害者が事件の直前に西本文代(山下容莉枝)という女の家を訪ねたことが判明する。笹垣はそこで雪穂(福本史織)という少女と出会う。
 その後、文代の若い恋人に質屋殺しの決定的証拠が発見されるも男は事故死、嫌疑のままの文代はガス中毒で死亡し捜査は終了したものの、笹垣は被害者の息子・亮司と容疑者の娘・雪穂の存在が気にかかる。やがて、成長する雪穂の周辺で奇妙な事件が起こりはじめる………。

    ◇

 川向こうという別世界は昭和のリアリティ。
 戦後の佇まいを残すスラム街は、傾いたバラック屋根の住まいの隙間から下卑た好奇な目が光る。
 時代設定を原作の昭和48年(1973年)から昭和55年(1980年)に変えられてはいるが、小説世界の不穏な時代が見事に具現化される。

 公衆電話でボソボソと喋る船越英一郎の背中が夜気に包まれ、土砂降りの雨が躯の芯までじっとりと染み込んでくるような鬱陶しい風景に、重く響くコントラバスの音色が不安を煽る。
 全編、ハイライトを強調したザラついた画質とモノクロームに近い色調が、雪穂と亮司の過酷な運命を映しだすのに相応しく、ぐいぐいと惹きつけられる。

 小説は質屋殺しを序章に第2章以降、雪穂と亮司のエピソードが各チャプターごとに交互に描かれ、ふたりの主観を完全に排した記述で貫かれる。特に、雪穂の心の内はまったく描かれないし、雪穂と亮司が同時に存在する箇所もほとんどない。ふたりの結びつきは語られず、読者の想像力に委ねられる。
 映画でもその作術は変わらず、ふたりの間に立ち語り部として登場する元刑事の笹垣が19年に及ぶ物語を綴っていく。
 執拗に真実を求める笹垣を演じる船越英一郎は、テレビドラマで見せる軽妙な姿ではない。原作にはない笹垣の家庭環境を序盤に数箇所インサートすることで、丸めた背中に父性を妖気のように漂わせた存在感が生まれ、その様相に圧倒させられる。

 原作を読んだ者には読んだ人だけのイメージがあり、ふたりの心情を勝手に想像しながら読んだはず。映像化されれば、そこに映る役者の表情がイメージを決定してしまうため、どうしてもそこにギャップを感じてしまうだろうし、原作を未読の観客にはふたりの心情がまったく見えてこないために、戸惑い以上に理解不能に陥るのかもしれないが、陽の中の闇を歩む雪穂と、決して陽の当たる場所を歩めない亮司の悲劇的関係が明かされたあと、劣悪な家庭環境と鬼畜による壮絶な過去を背負ったふたりに、同情や共感さえ寄せつけないふたりの絆が見えてくる。

 原作より孤独がジワジワと迫ってくる亮司役の高良健吾は、ずっしりと心に重い決意を秘めた静かな演技に注目。そして、ピュアな面影と虚無を抱え表情の変化を少なく微笑む冷たいヒロイン堀北真希も、その美しさが光る。

 他に、亮司の母親役の戸田恵子は淫靡な雰囲気のやさぐれ感を放っていたし、亮司の同棲相手に扮した粟田麗には哀切感が充満し、典子という寂しい女の最期を迫真のリアリティで演じていた。

    ◇

 映画『白夜行』の連動企画として、WOWOWで昨年末から1月にかけて姉妹編『幻夜』がドラマ放送された。ヒロイン美冬役は深田恭子。ずっと『白夜行』映像化の際のイメージが深田恭子だったが、この狂気に満ちた“美冬”役もまさに最適。
 雪穂のその後の姿が美冬とも云われるこの両作品。美冬に『風と共に去りぬ』を語らせたり、『幻夜』最終話には死期が近い病床の笹垣=船越栄一郎をゲスト出演させたりと、『白夜行』のテイストを入れ込んだドラマになっていた。



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