TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「行きずりの街」*阪本順治監督作品



STRANGERS IN THE CITY
監督:阪本順治
原作:志水辰夫
脚本:丸山昇一
撮影:仙元誠三
音楽:安川午朗
主題歌:「再愛~Love You Again~」meg
出演:仲村トオル、小西真奈美、窪塚洋介、南沢奈央、谷村美月、佐藤江梨子、菅田俊、うじきつよし、でんでん、宮下順子、ARATA、杉本哲太 / 石橋蓮司、江波杏子

☆☆☆☆ 2010年/東映・セントラルアーツ/123分

    ◇

 志水辰夫ファンとして、初の映画化作品が「行きずりの街」だったことには納得するとして、原作を大きく改変することを厭わない丸山昇一の脚本には少し不安があった。しかし、それはただの杞憂に終わった。
 『このミステリーがすごい!』第1位を獲ったとか、阪本順治監督と丸山昇一のシナリオということで硬派なハードボイルド・アクションを期待する観客には大きな肩すかしを喰らわせることだろうが、この原作は、以前にも書いたように、ハードボイルドの域を超えた大人の恋愛小説だということ。
 そして映画は、愛の復活劇という大人のラブストーリーを芳醇な香りで漂わせたプログラム・ピクチャーとして、もうひとつの「行きずりの街」を完成させている。


 郷里の丹波篠山で塾の講師をしている波多野(仲村トオル)は、音信不通になっているかつての教え子広瀬ゆかり(南沢奈央)の行方を追って、12年ぶりに東京へやって来た。
 かつて名門校・敬愛女学園の教師をしていた彼は、生徒の雅子(小西真奈美)との恋愛がスキャンダルとなり、教職の座を追われた過去を引きずっている。ゆかりが暮らしていたマンションを訪ねると部屋は荒らされ、マンションには中込(窪塚洋介)と名乗る男と怪しい男たちが張り込んでいた。失踪の裏に得体の知れない危険を感じる。
 ゆかりがアルバイトしていた六本木のクラブで、自分を追い出した敬愛女学園の理事・池辺(石橋蓮司)と出くわし、池辺のボディガード大森(菅田俊)に痛めつけられた波多野は、フラフラと雅子の経営するバー“彩”に辿り着く。長い歳月を経て再会をした二人。
 ゆかりの失踪に学園が関与していることを知った波多野は、さらに事件の渦中に巻き込まれていく……。

    ◇

 丸山昇一のシナリオは、原作の独特な台詞まわしを生かし、新たなオリジナルの台詞においてもシミタツ節を損なうことのないよう原作のイメージを保っている。主題を絞るために枝葉を刈り取り、原作にないプロローグをタイトルローグ前に付け加えたことで、より深く志水辰夫の世界が広がったように感じる。

 果たして“ハードボイルド”とは何か。
 北方謙三がひとつの定義を示している。それは“負けの美学”。
 男というものはセンチメンタルだ。カッコつけたところで、未練を断ち切ることのできないのが男。女は過去の恋を捨ててスクっと再生できるのに、女々しく過去の女を忘れられないのが男の本質である。しかしそんな男が、負け犬になろうが、罵声を浴びせられようが、生き方に誇りを持って愛する者を守るために立ち上がることが“ハードボイルドのルール”だと言う。
 その点で、この作品は十二分に“ハードボイルド映画”なのである。

 未練タラタラで自分の居場所を見つけることができず過去を引きずっている男の哀情と、 “待ちつづける女”という、一見健気でか弱わそうな女性の芯の強さが激情となってぶつかり合う。この映画の見どころである。

 波多野が初めて雅子のマンションを訪れ、一室で繰り広げられる男の嫉妬と懺悔と奮起、そして女の恋慕の深さと強さが交差する箇所は、原作の読み応えある箇所。
 映画はまず、雅子が波多野を部屋に招き入れる流れに説得力がある。それは、タイトル前の丹波篠山のシーンを付け加えたことで道理がいくようになっている。
 びしょ濡れになった波多野に着替えを一式用意するシーンも、原作の描写よりも映画の方がお互いの感情が自然と表れてくる。

 切ない再会が官能に変わっていく志水辰夫の巧みな文章。
 その場面のはじめを原作から引用してみると……
『わたしはコートを肩に引っかけて靴を履いた。振り返ると雅子が後ろの壁によりかかってわたしを見つめていた。目が異様に光っていた。唇をへの字に結んでいた。
「許すと言ってくれないか」
雅子は近づくなり、平手でわたしの頬を力いっぱいぶった。憎しみと、怒りと、悔しさのすべてを込めて。彼女は放心したみたいにどしんと壁にもたれかかり、横向きになって腕組みをした。肩が動いている。足元に落ちている影。わたしたちの影はここでもふたつ平行して並んでいた。雅子に一歩近寄ると、彼女は唇を噛み、激情の渦巻いた目を真っ向からさし向けてきた。それから目をしばたき、わずかに顔をゆがめた。手を差し延べるといやいやとばかりかぶりを振った。……………』

 映像が絶対的な素晴らしさを発揮するシーンでもある。
 小西真奈美の艶っぽい顔がたまらなくいい。この色気はなんだ。小西の震える横顔のアップに、仲村トオルの手がそっと添えられていくシーンの素晴らしさ。胸が震えた。
 仲村トオルが演じる男の孤独と絶望の深さが計り知れなく表現されており、小西真奈美も、仲村トオルも、巧い。

 そしてもうひとり、窪塚洋介の自然体。彼が演じる中込は原作では三分の二くらい過ぎた辺りからの登場だが、丸山昇一が窪塚を想定してアテ書きしたキャラクターは、原作通りのインテリぶりで好演。

 小説を読んでいるとき、往年の清川虹子をイメージしていた雅子の母親映子には、愛想は悪いが懐の深い感じが原作のイメージにぴったりな江波杏子。存在感はさすがだ。

 リリカルなテーマと、サキソフォンが奏でるジャジーなBGM。音楽は石井隆作品でお馴染みの安川午朗だ。エンディングの歌は不要。

 「その前にお髭を剃りなさい」

 小説の最後の言葉。どうってことない台詞だが、このニュアンスがラストシーンに欲しかったかなぁ。

    ◇

Book Review ★行きずりの街*志水辰夫★

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