TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

名もなき女たち★ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う

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(C)2010「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」製作委員会

A NIGHT IN NUDE 2
監督:石井隆
脚本:石井隆
音楽:安川午朗
撮影:柳田裕男、寺田緑郎
テーマ曲:「I'm A Fool To Want You ~ 恋は愚かというけれど」
挿入歌:「絹の靴下」
出演:竹中直人、佐藤寛子、井上晴美、東風万智子、津田寛治、宍戸錠/大竹しのぶ

☆☆☆☆ 2010年/角川映画・クロックワークス・ファムファタル/127分

    ◇

  ◆以下、物語の細部に触れます。【その弐】

 刹那的に浮遊している紅次郎が“生”に辿り着くために、猛烈な3人の女たちが物語をリードする。

 保険金殺人を企む女たちのキィワードは“熟成”と“ドゥオーモ”。
 内縁関係にした高齢者をターゲットにして殺害し、自殺に見せかけるために富士山麓の青木ヶ原の樹海に放置して骨にすることを、彼女たちはワインの熟成に喩えて“熟成する”と呼び、その場所をキリスト教会の前広場を指す“ドゥオーモ”と呼んでいる。

 母娘3人“地獄の貴婦人”たち(大竹しのぶ、井上晴美、佐藤寛子)の死体解体シーンを映画の冒頭に据え、異様な空気で観客を惹き込む本作は、ヴァイオレンス&ホラーが肩書きにある石井作品とはいえ、オープニングからの血の惨劇には虚を衝かれた感じだ。
 石井監督お得意のローアングルで佐藤寛子に迫るジジィ役の飯島大介も強烈だが、水泳で鍛えた身体の井上晴美が包丁片手にドカっと体(たい)をあずけてくる迫力は、云うまでもなく『フリーズ・ミー』('00)出演時より軽やかに、「こいつのチ○ポを1年もしゃぶってあげたのに」と際どいセリフを吐く、がさつな女ぶりである。

 狭い浴室で血に塗れて死体を粉々にしている中で「殺しはドゥオーモの熟成に限るね。こんなんじゃ、手間ばっかり掛かって一銭にもなりゃしない」と、銜え煙草で悠然としている母親役の大竹しのぶは相変わらず存在感を見せつけ、クライマックスにおける豹変ぶりをはじめ“あゆみ”に憑衣した弾けっぷりで役を楽しんでいる。

 今作でヒロインに抜擢された佐藤寛子が想像以上に素晴らしく、芸能生活はもちろん歴代の石井映画主演女優の先輩ふたりに挟まれ堂々たるもの。
 怪演ぶりも鮮やかな大ヴェテラン宍戸錠や、今回も素晴らしい死に様を見せた津田寛治の芝居の中で、佐藤寛子は実にリアルに浮遊していた。

 “れん”の健気さはある目的のための仮の姿で、“名美”のような叙情性はなく悪辣なところがある。己の薄幸さを利用して男を惑わすのだからタチが悪い。
 紅次郎を共犯者にするための身の寄り添い方も居直り方も、これまでの石井作品には見られなかった孤独なヒロイン像となり、屈折した愛の姿を浮かび上がらせたのが“れん”という女だ。
 
 その名もなきヒロインの幻影を描くために、“ドゥオーモ”となる舞台として石切場が選ばれた。
 甘美な冷気と逆光あふれる中で繰り広げられる女優たちの芝居は鬼気迫り、全編が特異な濡れ具合で絶望の彩りに塗り込められるライティング。クレーンカメラが“天空からの眼”となり、主人公ふたりを見下げ、彼岸の先、異世界へ誘うクライマックスは観客を魅了する。

 この『ヌードの夜』シリーズ(石井監督のデビュー作「天使のはらわた 赤い眩暈」('88)をエピソード1として、あえて、そう呼ぼう)が、血みどろな惨殺現場からはじまり、登場する女たちがもの凄い猛者たちであろうとも、どこまでも、紅次郎の物語に終始したことで、石井隆監督の分身である村木哲郎の行方が定まったように思える。
 “村木”も初老の年齢に達しようとすれば、これまでのような名美探しの旅に立ち行きいかなくなっても納得いく。

 悪鬼のヒロイン“れん”と“狂気の女たち”に対抗するように、もうひとりヒロイン(東風万智子)を登場させた石井監督。過去の石井作品に何度か登場してきた悩ましき“ちひろ”という名の女が、紅次郎の再生に「生命力」の予感として描かれる。『ラブホテル』('85)において、村木の陰で甲斐甲斐しく世話をした良子の如く(“れん”と“ちひろ”が鉄階段ですれ違うシーンが一瞬ストップモーションに見えたのは、ぼくの幻影だったろうか)、彼女の存在が紅次郎への一方通行であろうと、いろいろな想いを錯綜させるラストシーンであり、観客ひとりひとりの心の中で、それぞれに熟成されるような終わりを見せた新しき石井ワールドに驚喜した。

 しかし、団欒をとる紅次郎とちひろと闖入者に、まだまだ迷宮を彷徨う予感は秘められている


★ヌードの夜★
★フリーズ・ミー★
★ラブホテル★

 
 

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Comment

shimizukiriko says... ""
鉄階段すれ違いには、ドッキとしました…。

役者陣はやりっきった感でしょうね!
2010.10.12 11:30 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
kirikoさん

良かったぁ、おんなじ思いでしたか………

あそこのシーンは、絶対に「おおっ」と思いますよね。

カン、カン、カンと、鉄階段を上り下りする音は、石井作品には実にお似合いなんです。
2010.10.12 16:28 | URL | #- [edit]

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