TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「パリは霧にぬれて」*ルネ・クレマン

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LE MAISON SOUS LES ARBRES
監督:ルネ・クレマン
原作:アーサー・カバノー「子供たちがいなくなった」
脚色:ダニエル・ブーランジェ、ルネ・クレマン
シナリオ:シドニー・ブックマン、エリナー・ペリー
台辞:ダニエル・ブーランジェ
撮影:アンドレア・ウィンディング
美術:ジャン・アンドレ
音楽:ジルベール・ベコー
衣装:イヴ・サン・ローラン
出演:フェイ・ダナウェイ、フランク・ランジェラ、バーバラ・パーキンス、カレン・ブランゲルノン、レーモン・ジェローム、モーリス・ロネ

☆☆☆☆ 1971年/フランス=イタリア/98分

    ◇

 『雨の訪問者』につづき発表されたルネ・クレマン監督の叙情サスペンスは、アメリカ人作家の原作とアメリカの俳優3人を主役におき、異国に暮らす夫婦の心の不安をサスペンスタッチで描いた作品である。


 霧深いセーヌの畔に住むアメリカ人夫婦ジル(フェイ・ダナウェイ)とフィリップ(フランク・ランジェラ)は、可愛いふたりの子供にも恵まれた一見幸せそうな家族。
 しかし、科学関係の著述家のフィリップは仕事に没頭し、夫婦も顔を合わせれば言い争うことが多くなっている。アメリカにいた時、フィリップが突然会社を辞め、すべての好条件をふりきり、逃げるようにフランスにやって来て2年だが、若い夫婦に訪れた倦怠期ともいえない、ふたりの間に何か隔たりができた毎日だった。
 ジルは記憶喪失の兆候があり、ときどき孤独の意識に彷徨いながら自分の殻に閉じこもってしまうノイローゼ状態。長女のキャシーは母の身体の具合を知ってか、家のことにはよく気を配る。息子のパトリックは4歳の悪戯好きだ。
 ジルが頼りにしているのは、アパートの階下に住むシンシア(バーバラ・パーキンス)。聡明で面倒見がいいアメリカ人だ。
 シンシアに借りた傘を無くしたり、同じドレスを2着も買ったり、主治医のクリニックの階数を間違えたり………どうして自分はヘマばかりするのだろう、と自信を失うジル。とうとう、子供たちを一緒に乗せたシトロエンを運転していて、トラックに追突しあやうく命を落としかねない事故すら起こしてしまった。
 そして、事件はクリスマスも近いある黄昏時。デパートの人形芝居を見た帰り、セーヌ河に架かる橋の上で、子供たちが忽然と消えてしまったのである………。

    ◇

 70年代のルネ・クレマン作品の中では評価が大きく分かれるところがあるのだが、フェイ・ダナウェイの美しさと映像のクォリティにおいて大好きな作品であり、今回ひさしぶりの再見も封切り時に感じた思いと何ら変わらなかった。
 ヒロインが感じる愛の孤独と哀しみ、ノイローゼに陥る不安と苦しみが、パリの知られざる風景のなかで静かに息づいて見え、フェイ・ダナウェイの退廃的な雰囲気としっかりマッチして胸に迫ってくる。

 本作は、フェイ・ダナウェイのための映画である。
 カラーのなかにモノクロームの世界観を映し出す美しいアンドレア・ウィンディングのカメラが、憩いを求める孤独という影で美しさを魅せるフェイ・ダナウェイを捉えている。 
 当時のそれまでのフェイ・ダナウェイは、『俺たちに明日はない』('67)「華麗なる賭け』('68)『小さな巨人』('70)と力強い女性を演じてきたが、本作では自己閉鎖的な女性の心の揺れを見事に体現し、特にサン・マルタン運河を船で下るオープニングシーンは、荒涼とした夕刻の下町の風景のなかに、彼女のいい知れぬ孤独が感じられる秀逸なシーンである。

 老夫婦が営む砂利運搬船に乗せてもらい、セーヌ河を入り、トンネルのようなところから水門を抜け、サン・ドニ辺りにたどり着くまでのなんと感傷的なこと。
 このサン・ドニは、フランス映画不朽の名作『北ホテル』('38/マルセル・カルネ監督)の舞台となったところ。うら寂れた下町の果てには、当時は外国人などあまり行かなかったところだろう。ファーストシーンとして、この先の映画の成り行きを暗示するには、ぴったりのムードある映像である。

 黄色いレインコートを着たパトリックが橋の上を黄色いフープを転がし走り回り、そのまま子供たちが消えていくシーンは、彩りのない冬のパリの街での色彩演出として、とても効果的な映像だ。
 
 前半は、日常を丁寧にそして静かに描いているので退屈に思えるところだが、後半、ルネ・クレマンの演出は鮮やかに転調する。
 ただし、サスペンス映画としては多くを語らない寡黙なシナリオで、特に後半の流れは、殺す者と殺される者たち、誘拐した組織の存在は稀薄であり、すべてを丁寧に説明などしてくれない。何から何まで語ってくれる映画に慣れた人たちには、不満が残る映画かもしれない。

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