TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「死刑台のエレベーター」*ルイ・マル

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ASCENSEUR POUR L'ECHAFAUD
監督:ルイ・マル
原作:ノエル・カレフ
脚色:ルイ・マル、ロジェ・ニミエ
台詞:ロジェ・ニミエ
撮影:アンリ・ドカエ
美術:リノ・モンデッリーニ、ジャン・マンダルー
音楽:マイルス・デイヴィス
出演:ジャンヌ・モロー、モーリス・ロネ、ジョルジュ・プージュリ、ヨリ・ベルダン、ジャン・ヴァル、リノ・ヴァンチュラ

☆☆☆☆★ 1957年/フランス/92分/B&W

    ◇

 名匠ルイ・マル監督が25歳の時に、ノエル・カレフの犯罪小説を映像化したデビュー作で、ヌーヴェル・バーグの先駆的作品として注目を浴びた。

 勤務先の軍需品製造会社の社長夫人フロランス・カララ(ジャンヌ・モロー)と密通しているアルジェリア戦争帰りの青年ジュリアン・タヴェルニエ(モーリス・ロネ)は、邪魔になった社長のシモン(ジャン・ヴァル)を殺害すべく、フロランスと共謀して完全犯罪を実行する。
 会社の最上階にある社長室に侵入し、自殺に見せかけ社長を射殺したジュリアンは、証拠を隠すためにエレベーターを利用するが、土曜日の就業時間が終わった警備員がエレベーターの電源を落としたために、エレベーターの中に閉じ込められてしまう。焦るジュリアンだが、月曜の朝までエレベーターは動かない。
 この間、向かいの花屋に勤める少女ヴェロニク(ヨリ・ベルダン)と不良少年の恋人ルイ(ジョルジュ・プージュリ)がジュリアンの車を盗み、彼の名前を騙ってモーテルに宿泊。そこで知り合ったドイツ人夫妻を殺してしまう。
 一方、約束の時間になっても現れないジュリアンに、フロランスは疑心暗鬼になりながら街を彷徨う。
 翌朝、エレベーターから脱出したジュリアンだったが、ドイツ人殺しで逮捕されてしまう。アリバイを証明できないジュリアンを助けようと、フロランスは花屋の少女が殺人事件に絡んでいることを突き止め、警察に通報する。
 しかし、ふたりの完全犯罪は思わぬことで破綻する………。

    ◇1957_ShikeidainoEV_ps.jpg

 完全犯罪を目指す男と女にしてはあまりにズサンな計画だし、ミステリーの演出にしては不可解な箇所があったりするのだが、映画の主題は完全犯罪ではなく“倦怠からの脱出”と言えよう。

 台詞はあくまで簡素。ロジェ・ニミエの説明台詞を削ぎ落としたダイアローグと、ジャンヌ・モローのニヒルなモノローグと、そして名手アンリ・ドカエの硬質なモノクローム映像と、マイルス・デイヴィスのクールなインプロヴィゼーションによって、フロランスの心理描写をスタイリッシュな映像とモダン・ジャズで組み立てた、これぞ奇跡の一作と云える。
 都会を浮遊する孤独な男女のけだるい関係が鮮烈に浮きあがってくる。
  
 「ジュ テーム………だからやるのよ あなただけ待っている ジュテーム……」

 ジャンヌ・モローの、目と唇のクローズアップ。
 その存在だけで、もの言う女優。口角が少し下がり気味のジャンヌ・モローは、いつも何かしら不機嫌な顔に見えるのだが、それが、女の冷酷な美しさに見えるからいい。
 電話ボックスで愛の言葉を発していても、それは情熱と云うよりもどこまでもクール。最初から最後まで画面に漂っているのは、ジャンヌ・モローの空虚な美しさである。

 ジュリアンが閉じ込められたエレベーターの中は、男の焦燥感を象徴するかのようにライターの仄かな灯りが揺れ、火をつけられたジタンの空箱がエレベータからくるくると奈落に落ちていく様子が、まさに“死刑台”のイメージに繋がっている。

 もうひと組の若い男と女の様子は、冷たい夜気の中、常夜灯に照らされた高速道路を、暗闇目指して一直線に追いつめられていく。

 冷酷な愛の言葉のプロローグから、焦りと不安のモノローグで夜のパリ市街を彷徨ったフロランス。締めくくりは感傷的なモノローグだ。

 「10年……20年……。無意味な年月がつづく。眼をさます。ひとりで。10年……20年……。わたしは冷酷だったわ。でも、愛してた。あなただけを。わたしは年老いてゆく。でも、ふたりは一緒。どこかで結ばれている。誰もわたしたちを離せないわ」

 モノクロームの色彩のなかに、フロランスの心理を鮮烈に浮かび出してきた光と影の効果は、ラストにおいて最大の威力を発揮する。

 定着液に浸かった印画紙から、フロランスとジュリアンふたりの仲睦まじい姿が現れてくる瞬間の、白と黒のコントラスト。ジュリアンに抱かれるフロランスの表情には、この映画のなかで唯一の笑みが浮かんでいる。
 

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Comment

ちゃーすけ says... ""
マイルス・デイヴィスの音楽も良かったですね。
ふくれっつらのジャンヌ・モローは、男を破滅させる女性といったイメージです。
今見ても、色褪せない名作。
ルイ・マル監督の才能に、驚きます。
2010.09.08 23:15 | URL | #a2H6GHBU [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
ちゃーすけさん

>マイルス・デイヴィスの音楽も良かったですね。

この即興演奏なくして、この作品を語れないです。
名演奏あっての不朽の名作ですよね。
ジャズを聴くきっかけにもなった作品です。
ミステリーとして少しくらい辻褄の合わない箇所があったって、女優と映像と音楽の力で魅せてくれるますからね。

来月、初のリメイク作品が公開されますが、予告編を見る限りかなりのリスペクトを感じますが、一番気になるのが音楽。
同じカットが見られても、ぼくらの頭の中にはマイルスが流れてきますから、渡辺香津美氏のギター演奏もいいけど、如何に………。
2010.09.09 00:06 | URL | #- [edit]
根保孝栄・石塚邦男 says... "街をさまようモローの魅力"
この映画でジャンヌ・モローの魅力のとりこになった。
2014.06.09 17:58 | URL | #u3MRTyDc [edit]
mickmac says... "Re: 街をさまようモローの魅力"
>根保孝栄・石塚邦男さん
はじめまして

ジャンヌ・モローをリアルタイムで観たのは「黒衣の花嫁」でしたが、これは正直少し無理があるかなと思ったのですが、年代を遡って観ていくたびに彼女の魅力の虜になりますね。
そしてこの作品…余すことなくすべてにおいて名作です。
2014.06.13 00:32 | URL | #- [edit]

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