TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「瞳の奥の秘密」*フォン・ホセ・カンパネラ



EL SECRETO DE SUS OJOS
監督:フォン・ホセ・カンパネラ
原作:エドゥアルド・サチェリ「瞳の問いかけ」
脚本:エドゥアルド・サチェリ、フォン・ホセ・カンパネラ
音楽:フェデリコ・フシド
出演:リカルド・ダリン、ソレダ・ビジャミル、パブロ・ラゴ、ハビエル・ゴディーノ、ギレルモ・フランチェラ

☆☆☆☆ 2009年/スペイン=アルゼンチン/129分

    ◇

 2009年に本国アルゼンチンで大ヒットし、2010年のアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した文学性豊かなミステリーである。

 刑事裁判所を定年で退官した元書記官ベンハミン・エスポシト(リカルド・ダリン)は、家族も兄弟もなく有り余る孤独の時間のなかで、過去の忘れられない殺人事件を小説に書くことを決意し、かつての上司イレーネ・メネンデス・ヘイスティングス検事(ソレダ・ビジャミル)を訪ねた。
 小説の題材は、銀行員リカルド・モラレス(パブロ・ラゴ)の最愛の妻が暴行され殺害された事件。担当したベンハミンは、夫リカルドの妻に対する深い愛に心揺さぶられていた。捜査は暗礁に乗り上げたまま一年を過ぎたのだが、容疑者発見に執念を燃やすリカルドの姿に突き動かされ、犯人を割り出し、逮捕することができた。しかし、当時のアルゼンチンの政権悪化状況により、政治的駆け引きによって犯人は釈放されてしまい、それによって、事件に関わった者たちの人生が変わっていく………。

    ◇

 優雅な音楽と、スローモーションとフィルター処理をした美しいオープニングで始まる映画は、ベンハミンが25年間ぶりにイレーネに会いに来た“現在”(1999年)と、小説を書くためにベンハミンが思い起こす“過去”(1974年)を行き来する構成だ。
 過去に向き合うベンハミンの心のなかにはイレーネに対する想いが甦り、また、新妻を殺されたリカルドの“失われた愛”に耐える姿が思い起こされたりして、自身の“秘めたる愛”の決着と事件解決への思いを強くする。
 そして、ふたつの真相を知ったとき、それが愛の残酷さだと示される。

 「結末は誰も想像できない」と映画評論家のおすぎが絶賛していた本作だが、ドラマに魅入られているうちにそんな事は忘れてしまう。そして、その時、誰もが言葉を失う衝撃を味わうのは確かだ。

 しかし、この映画の本質はミステリーではない。
 イレーネに対するベンハミンの報われない愛と、リカルドの亡き妻への不変の愛。“究極の愛の物語”が、“衝撃的なミステリー”と“崇高なラヴストーリー”として交差しながら、深い余韻を残す人間ドラマとして心揺さぶられるはずだ。

 タイトルの「瞳」は一体“誰”の瞳なのか………。眼差しがいろんな意味を持つことになるので、このタイトルの暗示するところは興味深い。
 日本語は、男とか女とか複数や単数など“誰”を特定しないでも意味をもつ言葉になるので、その曖昧さが邦題として上手く嵌っている。これは原題のスペイン語も同じらしい。ちなみに英語タイトルは「The Secret of Their Eye」となり、これでは仕掛けも何もなくストレート過ぎないかい。


 サッカーチームや選手の名前が謎解きのひとつに使われるのは、サッカー王国であるアルゼンチンらしいアイテムだろうが、その後の容疑者追跡はハリウッド映画さながらのダイナミズムがある。
 夜間の上空から、超満員のサッカー・スタジアムを俯瞰カメラがぐんぐんと近づき、そのままカメラが群衆のなかに傾れ込み、容疑者確保までをワンショットで収めるスリルは、ヒッチコックやデ・パルマを彷彿とさせる。もし、このシーンの大群衆がCG処理されていたとしても、映画でしか味わえない醍醐味とインパクトで上級のサスペンスを味わうことができる。

 遺族となるリカルドが「死刑には反対だ。犯人には長生きしてもらいたい。この空虚な日々を同じように味わせたい」と吐露するシーンがある。お国柄の違いで、苦しみや憎しみを捉える意味が随分と異なる。
 
 日本のこととなると、2010年8月27日に法務省が死刑を執行する東京拘置所の「刑場」を初めて報道機関に公開し、新聞では「死刑制度存廃」の記事を読んだばかりだ。
 死刑制度の存置を望む遺族らの「死んで償ってほしい」気持ちや「執行ボタンを押させてほしい」という思いは、どれも「加害者が生きていることが許せない」という感情の上に成り立っているようで、それは確かに理解できることなのだが、「死刑を受け入れる代わりに反省の心を捨てた」と記した死刑囚がいたというほどに、殺人者が何の反省もないままに死刑を執行され、それも、被害者遺族には知らされないままに葬られてしまう虚しさはどうしたらいいのだろう。

 このリカルドの言葉は映画を観ている間ずっと頭に残るのだが、最終的にこんなにも力強く心に響き、そして、男の深い愛への感動としてずっしりと残るとは思わなかった。

 キーが壊れて“A”を打てないベンハミンのタイプライターと、彼が夜中に「怖い」と走り書きした文字の言葉遊びが、粋なサインを導きだすラストとなり心が癒され、最後のイレーネのひと言に新たな展開を想像するのだった。

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