TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「涙を、獅子のたて髪に」*篠田正浩督作品

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監督:篠田正浩
脚本:寺山修司、水沼一郎、篠田正浩
音楽:武満徹、八木正生
撮影:小杉正雄
劇中歌:「私を捨ててしまってくれ」「地獄の恋人」
    作詞:寺山修司/作曲:八木正生/歌:藤木孝
出演:藤木孝、加賀まりこ、南原宏治、岸田今日子、早川保、山村聰、小池朝雄、浜村純、神山繁、丹波哲郎(特別出演)

☆☆☆★ 1962年/松竹/92分/B&W

    ◇

 加賀まりこのデビュー作品で知られる本作は、ロカビリー歌手だった藤木孝の俳優転向後唯一の主演作品でもあり、虫ケラのように扱われる青年の凄惨な姿が描かれる青春物語である。

 通称サブこと水上三郎(藤木孝)は、横浜の海運会社「松平埠頭」の支配人・木谷(南原宏治)の手先となって、港湾労働者からピンはねをしている街のチンピラだ。サブは戦災孤児で、空襲時の火災から自分を助けるために片足が不自由になった木谷を恩人と慕い、木谷の命令には絶対服従だった。
 ある日サブは、“かもめ”というレストランでウエイトレスをしているユキ(加賀まりこ)と知り合い、お互いが恋におちる。
 その頃、仲仕の労働者たちは賃金搾取に対する不満から組合結成の機運が高まっていた。グループのリーダー中島を黙らせるために、木谷はサブと弟分のトミィに中島を痛めつけるよう命令をする。その日は、サブの二十歳の誕生日。ユキがサブの部屋でライスカレーを作って待ちわびている時分、サブたちは誤って中島を殺してしまった。
 木谷の指示で中島の通夜に出席したサブは、そこで、中島がユキの父親だったことを知り、愕然とする。
 その日以来サブはユキから遠ざかり、ある日、木谷の情婦の玲子(岸田今日子)に誘われ、肉体関係を持つようになった。
 朝、玲子から木谷の足の怪我はニューギニア戦線で負傷したものだと聞き、木谷の本性を知らされたサブは信じられない気持ちだったが、ふたりの関係を知った木谷がすぐさま玲子の部屋にやって来てサブを罵倒したことから、ついに屈辱感を爆発したサブは木谷を殴り殺してしまう。
 狂ったようにユキを探し求め、街を走るサブ。埠頭には、サブの父親殺しを知らされたユキたちが居た。
 「ごめんよ。殺すつもりはなかったんだ。でも、木谷を殺してきたよ。これでやっと自由になったんだ」と叫ぶサブの腕に手錠が掛けられる。サブを乗せたパトカーを、泣きながら追いかけるユキ。陽が暮れる埠頭には、ひとり、少女が立っているだけだった。

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 どっか 走ってく 汽車の 75セント分の切符をください 
 どっか 走ってく 汽車の 75セント分の切符をください ってんだ
 どこへ行くかなんて 知っちゃいねぇ 
 ただもう ここから 離れてくんだ

 ラングストン・ヒューズの詩「75セントのブルース』の一節が使われている。
 この寺山修司がお気に入りの詩を、ユキとの海岸辺のデートシーンでサブが大声で朗読する。
 ユキが「誰の詩〈うた〉?」と聞くと、すかさず「オレの詩〈うた〉さ」と云うサブ。虐げられる者の心の鎮魂歌を示している。このシーン、いかにも演劇的ではあるが、黒人労働者のブルーズとも云えるこの詩が、作品全体を形作っている大事な言葉と云える。
 作品は、ブルジョアジーとプロレタリアートを対比する描き方の中に、イデオロギーではなく一種ニヒリズムで貫いているところが寺山修司らしいのだろう。

 70年代以降の藤木孝は、悪役・怪優のイメージが強い俳優だ。『野良猫ロック 暴走集団'71』('71)ではコミカルな悪役だったが、『女囚さそり けもの部屋』('73)においては、梶芽衣子の策略で真山知子に熱湯を浴びせられ悶え死ぬという強烈な役で印象深い。
 この作品では、粋がってはいるが心優しい純情な青年を演じており、篠田監督のかなり感情移入した演出ではあるが、なかなかいい感じである。

 加賀まりこ18歳。加賀の父親(大映プロデューサー)を見知っていた篠田監督と寺山修司から「一度だけでいいから出てくれないか」と誘われて本作で映画デビュー。それまでの日本人女性にはないフィーリングを感じるし、藤木とのふたりだけのシーンは、どれも愛らしくいじらしい。

 未来に向けて無心で走り続ける藤木と加賀に対して、南原宏治と岸田今日子の事情は暗い心の闇の中を彷徨っている腐れ縁の関係だ。
 「あなたなんて大嫌い。一度も好きになったことなんてないわ」
 「俺もお前に好かれようなんて思っちゃいねぇ」
 かつては木谷と恋人同士で社長秘書だった玲子は、社長の松平(山村聰)と結婚をして裕福な生活を選んだが、すべてにおいて満足を得ることが出来ず、木谷と愛人関係を続けながら、名前を偽っては見知らぬ男たち(カメオ出演の丹波哲郎がワンシーンだけ登場)と放蕩している。
 木谷も、今でこそ会社の総支配人の立場で上流階級の世界に出入りをしているが、復員上がりという闇を抱えた男だ。
 「地獄めぐりだよ。こんなカラっぽな世の中。地獄めぐりの他に、何があるんだ」
 
 誤って人を殺してしまったサブが木谷に泣きつくと
 「泣くな。ひとり殺したくらいで泣くな。俺はな、アメリカ兵を何人も殺したんだ。生きていくことは戦いなんだ」と諭す木谷。帰り際「今日は、おれの、誕生日だったんです」と、サブがポツリとつぶやくシーンが切ない。

 映画の劇中メロディーであり何度も藤木孝が歌う《私を捨ててしまってくれ》は、八木正生の重く暗いスコアと寺山の詩が耳に残る哀愁ある傑作だ。

  年老いたカモメよ 哀しみを こころあるなら どうか私を捨ててしまってくれ
  ずっと遠くの 陽の沈む沖よりも 
  ずっと遠くの海に 私を捨ててしまってくれ
  カモメ カモメ 昔の愛を 
  カモメ カモメ 汚れちまった私の夢に 海のうねりが高すぎる

 夜のレストランを前に、加賀と藤木と早川を配置し真正面からロングショットで撮らえたカットが、まるでエドワード・ホッパーの絵を見るような、孤独な者たちの心の影を写し出していた。
 そのレストラン《かもめ》の店内には、ミケランジェロ・アントニオーニの『情事』の大きなポスターが貼られていた。外観には《THE HOFBRAU》の文字を読むことができるのだが、これは、現在でも山下町にある洋食レストラン&バー《THE HOFBRAU》の初期の姿なのだろうか。



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Comment

さすらい日乗 says... "貴重な映像資料ですね"
加賀まり子が勤めている店ホフブロウは、あの頃ははあそこにありました、内部はセットですが。
ビルの中に移転したのは1980年代だったと思う。

ヨットクラブも、戦前から新山下にありましたが、オリンピックのために江ノ島等に移転しました。
子安の漁組の様子もまったく変わっており、その意味でも貴重な映像ばかりです。当時とほとんど同じなのは、野毛山動物園でしょうか。

武満徹の音楽と小杉正雄のカメラが素晴らしいですね。
2013.04.11 08:52 | URL | #o/PXu/q6 [edit]
mickmac says... "Re: 貴重な映像資料ですね"
さすらい日乗さん 
はじめまして

古き良き時代と懐かしむわけではなくても、あの時代の横浜の、アメリカの匂いを漂わす景観が好きです。
《THE HOFBRAU》の外観がモノクロで浮かび上がるカットは秀逸ですね。
八木正生の「私を捨ててしまってくれ」を武満徹の荘厳なオーケストラで奏でるタイトルバックや、本編でもヨーロッパ映画を思わせ音楽は本当に素晴らしかったです。

2013.04.12 00:10 | URL | #- [edit]

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