TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

伝説の劇画作家・宮谷一彦の青春マンガ



 『レコード・コレクターズ』6月号で、「70年代のストーンズ伝説」を寄稿した鳥井賀句氏の文章に出てきた宮谷一彦。ぼくの世代以上はよく知っているだろう。70年代はじめ、自らを無政府主義者と呼び政治色の強い作品を発表したり、内省的な私小説マンガを連発した“伝説”の漫画家/劇画作家である。過激で荒々しい筆のタッチと、緻密な描写で近親相姦や男色を描いたり、果ては漫画誌に初めて女性生殖器(1970年『ヤングコミック』に掲載された「性蝕記」)を描いた作家でも知られる。

 宮谷一彦作品との最初の出会いは、中学生の時の愛読書で小学館から発刊されていた少年誌『ボーイズライフ』に掲載された「魂の歌」('67)だ。
 永島慎二のアシスタントから独り立ちした宮谷一彦は、まだこの頃は永島慎二のタッチが残る青春漫画の担い手と云われていたころである。

 原爆により白血病に冒されたテナー吹きが、ひとりの女性から希望をもらい、脚光を浴びることで生きることに目覚めていく青年を描いた「魂の歌」。たった14ページの短編のなかに、青春の鎮魂歌が流れる秀作だった。

 『俺たちの季節』『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』は、そんな珠玉の青春漫画を納めた初期の短編集で、この頃の作品が一番好きだ。
 
 単行本表題の「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」('71)は赤軍の活動家の幻想を扱った政治ドラマだが、F1やル・マン自動車レースの「柩は深紅の5リッター」('71)「逃亡者」('71)で克明に描かれたフェラーリや、映画『冒険者たち』を彷彿とさせる3億円事件の犯人をイメージした「俺とお前 重い夏の陽」('71)のヨットや、「ラストステージ」('69)の哀愁のジャズ・ミュージシャン、「夜明けよ急げ!」('69)に出てくるリッケンバッカーのギターなど、大人の趣味に憧れさせてくれる漫画だった。
 「不死鳥ジョー」('68)「75セントのブルース」('69)、そして処女作「眠りにつくとき」('67)も青春漫画の名作である。

 宮谷一彦の画は緻密だ。「75セントのブルース」の見開き2ページの新宿西口ターミナルの画にはじまり、独自のテクニックを見いだしている。いまでは当たり前な手法となる、スクリーントーンをこれでもかと重ね合わせて見せる立体感や写真のような細密描写は、この宮谷一彦の技法から始まったものだ。リアリズム劇画の先駆者と云える。 
 米軍基地問題を深刻に捉えた問題作「蠅たちの宴」('71)の、巻頭見開き2ページに描かれた数台のF4ファントム戦闘機の画は強烈だ。

 「真実です この作品群は 全部僕の真実です 真実 僕のウンコなのです」と扉に書かれた単行本『性蝕記』は、生と死、セックスと政治、狂気の私漫画集だった。

 1978年の「人魚伝説」を原作にした映画も必見だ。


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