TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「波の塔」*中村登監督作品

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監督:中村登
原作:松本清張
脚本:沢村勉
音楽:鏑木創
出演:有馬稲子、南原宏治、津川雅彦、桑野みゆき、峯京子、沢村貞子、二本柳寛、石浜朗、岸田今日子、西村晃、佐野浅夫、佐藤慶

☆☆ ☆ 1960年/松竹/98分

    ◇

 原作は週刊誌『女性自身』に連載された松本清張の長編ロマンで、人妻と青年検事の愛を描いたメロドラマである。

 高級官僚の一人娘田沢輪香子(桑野みゆき)は、旅先の上諏訪で考古学を趣味とするひとりの青年と出会う。帰郷後、友人と調布の深大寺に出かけたおりに美しい女性を連れ添ったこの青年・小野木(津川雅彦)と再会した。
 小野木は将来を嘱望された東京地検の新任検事。女性は結城頼子(有馬稲子)といい、自分のことは何も語らない謎多き女性だったが、小野木はある贈収賄事件の捜査で頼子の素性を知ることになる………。


    ◇

 映画は、男を堕落させる魔性のヒロインとして有馬稲子の魅力で貫かれている。
 宝塚歌劇団の娘役トップスターであっただけに、その屈指の美貌で、日常のルールを守るしとやかな妻の顔と、女のエロスを共有してくれる男を激しく求める女の顔といった、女の二面性を見事に演じきっている。和装と洋装を何度も着替えて登場する有馬稲子は、派手やかな顔立ちと、真っすぐに見つめる大きく煌めいた瞳が魅力であろう。

 頼子の夫となる結城康雄を演じる南原宏治も素晴らしい。悪に手を染めながらも、繊細な一面を持った男を重厚な芝居で見せてくれる。リアルタイムで観た映画やテレビのなかの南原宏治は既に個性的な悪役としての存在感であったが、この作品でもたしかに敵役ではあるのだが、実は妻を一番愛していた男であり、何より津川雅彦より断然イイ男なのである。
 反対に若干二十歳の津川雅彦の稚拙さが目立ってしまうのだが、これは意図したものだろう。現在、名優として名を馳せる津川雅彦の若き日の姿であったが、2006年のテレビドラマ化では頼子の夫役(人間関係の背景が変わってはいるが)でベテランたる芝居を見せていたようだ。

 小説では輪香子の父親と、政界の裏側で暗躍する政治ゴロの結城との汚職事件が、松本清張らしいサスペンスを導いていくのだが、映画ではこのサブストーリーは置き去りにされている感もあるが、あくまで主点は男と女の危うい関係。頼子と小野木の恋愛、康雄と頼子との恋愛、このふたつの情念の話として進んでいく。

 頼子と小野木はモスクワ芸術座の『どん底』を観劇していて知り合い、いつしか秘密の逢瀬を繰り返す仲になっていくが、この頼子という女性は、実はとてもしたたかな女といえる。はじめは偶然の出会いでも、次の出会いは女の方が誘っている。
 確かに、夫の生き方に幻滅と嫌悪を覚えしまった妻がその居場所を見失い、それでも家庭だけしかないという状況では、女の生き場所は外の世界へ急速に傾いていくのだろう。だから、頼子がこれまでにも何度か男を誘ってきたのであろうと想像できる。正義に燃え、まっすぐに生きてきた男を誘うのは何の手練もいらない。

「ぼくは、何もあなたの事を知らないんだ」
「わたしは結城頼子よ。あなたは私という女だけを見つめてくれればよろしいの。わたしの係累をいっさい知る必要がございませんわ。お会いする時は、わたしの方から連絡します」

 有閑マダム然と「わたしは結城頼子よ」の言い回しが絶品。
 
 その頼子が、小野木に対して本気の愛を捧げようとしていく。これまで本当の愛を感じないまま過ごしてきた偽りの日常への反動があったとしても、それは決して夫への復讐ではない。しかし頼子は、夫と小野木から真実の愛を見いだすことができないまま、自己完結を選んでしまう。
 女にだらしなくても魅力のあった夫に従属しながらの自己愛と、正義感に燃える一直線の男の社会的地位が閉ざされた未来を考えたときに捧げる究極的な愛が、本当は女の自己中心的な愛でしかなかったことに気づく。
 結局、誰も愛することができなかった女の不幸なのだ。迷宮を彷徨った末のラストシーンとなる。

 効果音に印象的なものがある。
 横浜公園内の頼子と小野木のキスシーンでは、頭上にヘリコプターの轟音を響き渡らせ二人の行く末を暗示させる。終盤の安旅館では、電車の連結音や蒸気の音が相まって、頼子の心の奥に横たわる諦めと決意の木霊として聴くことができる。

 その国鉄操作場近くの安旅館のシーンは映画のオリジナルで、ここでは絶世の美しさに魅せられる有馬稲子に息を呑む。哀しく、切ない表情は何度も観たくなるカットである。

 素晴らしい台詞もある。

 「どこにも行けない道ってあるのね。道があるからどこか行けるかと思ったのに」

 原作通りの台詞で、女の虚無感が実によく表れている。

    ◇

 尚この原作は、これまで幾度となくテレビドラマ化されている。
◎1961年/フジ:昼ドラ・シリーズ/池内淳子、井上孝雄
◎1964年/NET(現テレビ朝日)ポーラ名作劇場/村松英子、早川保、夏川大二郎◎1970年/TBS:昼ドラ・愛の劇場/桜町弘子、明石勤
◎1973年/NHK:銀河テレビ小説/加賀まりこ、浜畑賢吉、神山繁
◎1983年/NHK:土曜ドラマ/佐久間良子、鹿賀丈史、山崎努
◎1991年/フジ:金曜ドラマシアター/池上季実子、神田正輝、西岡徳馬
◎2006年/TBS:松本清張ドラマスペシャル/麻生祐未、小泉孝太郎、津川雅彦

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