TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「疑惑」*野村芳太郎監督作品



監督:野村芳太郎
原作:松本清張
脚色:松本清張
撮影:川又 昂
出演:桃井かおり、岩下志麻、柄本明、鹿賀丈史、仲谷昇、真野響子、森田健作、北林谷栄、小沢栄太郎、三木のり平、伊藤孝雄、内藤武敏、松村達雄、丹波哲郎、山田五十鈴

☆☆☆☆ 1982年/松竹/127分

    ◇

 現実に九州で起こった三億円保険金事件を下敷きにした松本清張の原作(1982年発刊の短編)を、作者自身が脚色(撮影用台本は野村芳太郎と古田 求)したサスペンス映画。
 映画化にあたって国選弁護士を女性に変えることで、岩下志麻はニヒルスティックに、桃井かおりはエゴイスティックに大暴れする“悪女映画”として、女性同士の感情の葛藤がドラマチックに描かれた傑作となっている。

 ある雨の日の夜、富山県新港湾の埠頭で車の転落事故が発生し、地元財閥白河酒造の御曹司(仲谷昇)が亡くなった。同乗していた後妻の球磨子(桃井かおり)は自力で泳ぎ救出されたが、彼女には過去に幾多の犯罪歴があり、今回も夫にかけられた三億円の保険金目的の殺人ではないかと誰もが疑った。なかでも北陸日日新報の秋谷(柄本明)は、積極的に球磨子糾弾のキャンペーン報道を展開する。
 そしてついに、物的証拠のないままに球磨子は逮捕され、裁判がはじまる。
 心証は真っ黒で圧倒的に不利な状況に加え、球磨子の悪評に恐れをなした弁護士たちは次々に辞退していく中、国選弁護人として民事専門のエリート女弁護士・佐原律子(岩下志麻)が担当することになった…………。


    ◇

 鬼塚球磨子〈おにづか・くまこ〉って名前もマズイわよねぇ。
 これがさぁ、ン~と、
 たとえばさぁ、橘小夜子とかさぁ、早乙女静子なんて名前だったら、ずいぶん違うんだぁ。
 あんた、わたしが殺ったと思ってんでしょ?
 きらいだなぁ、わたしアンタの顔


 激情型の炎の女・通称“鬼クマ”を演じる桃井かおりと、知的で氷のような冷たさを持つ女弁護士に扮する岩下志麻が最初に接見室で対面するシーンは、このあと展開していくふたりの間の緊迫感を十二分に伝えている。
 ふたりの心理的葛藤、いがみ合い、駆け引きを、2大女優が火花を散らして対立する様はとにかく圧巻である。

 独特の台詞まわしと人を喰ったような眼差しで挑発する桃井かおり。原作では身長172cmの大柄グラマーの“鬼クマ”だが、体格以前にそのふてぶてしさと居直る姿で桃井かおりでしかない性悪女を見事に作り上げている。
 記者会見で突っかかる柄本明に対して「あなたねぇ、もう少し後ろに下がってくださるぅ?」と発するシーンは、桃井かおりの強烈な個性が成せる巧妙な台詞まわしでニンマリとさせられる。法廷での半狂乱ぶりも凄まじく迫力満点である。
 球磨子がどんなに反社会的な“毒婦”で世間から非難の目を向けられている女だとしても、今回の事件(事故)に関しては“無罪”であると、小さな謎をひとつひとつ解きながら毅然と法廷に立つ岩下志麻は、別れた夫に引き取らせた幼い娘を想う母親の心情や夫を奪った女性(真野響子)への冷ややかな感情など、自立し、仕事ひと筋に働く女が直面する意地と淋しさの両面が見え隠れする。弁護士を女性にしたことでの人間ドラマの深みが出ている。

 映画の3分の2は、回想を織り交ぜた法廷劇。
 1978年公開の『事件』で見事な法廷シーンを演出した野村芳太郎監督は、ここでも同様に緊迫感あるドラマを展開し、証人として登場する小沢栄太郎、山田五十鈴、三木のり平らベテラン俳優らは見せどころを競っている。特に、蓮っ葉でべらんめぇ言葉をまくしたてるクラブのママに扮した山田五十鈴は他を圧倒する。
 また、タチの悪い女に惑わされる仲谷昇の情けなさや、正義というペンを振り回す柄本明の傲慢ぶりや、球磨子とは腐れ縁の元情夫鹿賀丈史の軽妙さと卑屈さなども見応えある演技だ。

    ◇

  ◆以下、物語の結末に触れます。

  ☆     ☆









 裁判は、意外な事実が判明して球磨子が無罪を勝ち取る。

 祝杯を上げ、酒の肴に保険金を受け取り損なったことを弁護士のせいにしてはしゃぐ桃井かおり。それを、冷たく睨む岩下志麻。
 「あんたってサァ、ほんと、嫌な目つきしてるわねぇ」と桃井が絡むと「あなたみたいにエゴイストで、自分に甘ったれてる人間、大嫌いなの」と岩下志麻が返す。
 ふたりのプライドが一触即発を迎える。
 「あんたみたいな女、嫌いよぉ」ボトルの赤ワインをグラスにつぐように、岩下志麻の真っ白なスーツに垂らす桃井かおり。
 微動だしない岩下志麻は、何喰わぬ顔で吸っていた煙草を消し、勢い、持っていたグラスの中のワインを桃井に浴びせる。
 「わたしは今まで通りのわたしのやり方で生きていくわ。男たらして、しっかり生きてみせるわよぉ」
 「せいぜい頑張ってね。またしくじったら弁護してあげるわよ」
 女優ふたりの風格が漂う、映画史に残るシーンとなっている。

 プラットホームで多くのひとから好奇な目を浴びながら電車に乗り込む桃井かおりの、晴れ晴れと煙草を吸う顔が複雑に歪みながらも、しぶとく生きていく女の顔に変化して終るラストカットが印象的だ。



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Comment

ちゃーすけ says... "No title"
今でも覚えてます、桃井かおりさんと岩下志麻さんの壮絶バトル。
「あんたみたいな女さあ、みんな嫌いよ」
「せいぜい頑張ってね。またしくじったら弁護してあげるわよ」
「頼むわ」

ケンカにする方法というので、
・人が議論してくるのに対して、「どうでもいいけど、あんた近い、ちょっと離れて」と言う。
という提案がありましたが、「疑惑」を思い出しましたよ。

しかしこれは桃井さんじゃなきゃ、できませんでしたね。
全編、桃井節、桃井さんの個性があってこその球磨子でした。
もう、桃井かおり、最高!って言ってました。

「誘拐報道」と2本立て、映画の日に見に行ったんですが、いや~、濃かったです。
2010.01.26 10:52 | URL | #a2H6GHBU [edit]
mickmac says... "Re: No title"
ちゃーすけさん

>「頼むわ」

このラストの、投げやりなひと言が桃井かおりでいいよねぇ。

>人が議論してくるのに対して、「どうでもいいけど、あんた近い、ちょっと離れて」と言う。

なるほど………でもこれ、桃井かおりが先なんじゃない? ってくらい桃井流ですよね(笑)。

>桃井さんの個性があってこその球磨子でした。

リメイクができないくらいの“鬼クマ”でしたが、テレビで余さんが桃井カラーを払拭するくらいの悪女を演じて、これまた余さんの凄さを見せつけてくれましたよね。

>「誘拐報道」と2本立て、映画の日に見に行ったんですが、いや~、濃かったです。

いやぁ、たしかに濃いいっ!
ぼくはリアルタイムで「野獣刑事」「誘拐報道」の三連チャンでしたが。

2010.01.27 00:25 | URL | #- [edit]
ちゃーすけ says... "そうそう"
この映画の球磨子は桃井さんあってなんですが、余さんの球磨子も良かったですね。
桃井さんの球磨子の後に見事な球磨子を演じて、さすが余さんだなあと思いました。

最後にすっかりやつれた記者が真相を聞いたのに対して、嫣然と笑ったのがしびれる~。

「あなた球磨子に惹かれてるんじゃない!」
余さんの悪女は魅力的で困ります!

>「野獣刑事」「誘拐報道」の三連チャン

うわ~、濃いですね~!
2本だけでも濃かったのに、「野獣刑事」!
2010.01.27 10:03 | URL | #a2H6GHBU [edit]
mickmac says... "Re: そうそう"
ちゃーすけさん

余さんの“鬼クマ”は、けだるく掠れた声の魅力でイチコロでしたね(笑)。
幻のセーラー服姿も拝見できたしね(爆)。
桃井さんとは『噛む女』で共演しているし、どちらも悪女ぶりは天下一品だな。
2010.01.27 23:51 | URL | #- [edit]

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