TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

シネマの手帖、そして映画館の記憶



 この雑誌は、『暮しの手帖』の別冊で「DVDで楽しめる250本の名作ガイド[昭和篇]」と副題がついている。
 先に紹介した『オールタイム・ベスト 映画遺産200[日本映画篇]』とは趣がちがい、邦・洋画取り混ぜてのピックアップは懐かしい映画館の想い出までもを募らせるガイド本。
 「映画は映画館で見るべし」そんなこと基本なんだけど、最近はDVDで鑑賞することの方が多くなった。これは、DVD化されている作品のみの紹介だ。いつでも観られる、何度でも観られるいい作品が満遍なく掲載されている。
 ただし、DVD化されていない斉藤耕一監督の『約束』や神代辰巳監督の『青春の蹉跌』や西村潔監督の『白昼の襲撃』、アンジェイ・ワイダ監督の『灰とダイヤモンド』やアンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督の『悪魔のような女』のような、お勧めガイドには是非加えたい作品がまだまだあるので、早く手軽に見られるようにしてほしい。
 作品紹介には、その作品の記憶に残る名台詞が一言づつ載せられ、思い出への入り口になっている。

    ◇

 映画館の記憶……………
 映画は大きなスクリーンの大音響で見る醍醐味がある。映画館の帰り道に、いま見た映画の余韻に浸ることもできる。出かけた街の様子もどこかに記憶され、映画とともに思い出の一部になる。
 だから、映画館っていい。
 しかし今、記憶にある映画館ってのは昭和の時代のものでしかない。
 
 かつてシネラマ映画館というのがあった。“スーパー・シネラマ方式”で上映される映画館は、テアトル東京と大阪OS劇場、そして名古屋の中日シネラマ劇場の3ヶ所しか存在せず、中日シネラマ劇場は世界一のワイドスクリーンを誇っていた。
 子供の頃、毎年正月には家族で映画館に行く我が家の習慣で、『アラビアのロレンス』も『サウンド・オブ・ミュージック』も『マッケンナの黄金』もここで観た。
 子供の目からすると、いまのシネコンのような楽しさがあったのかもしれないが、この大きな劇場の使命も90年代にして終ってしまった。

 正月以外は、ほとんど映画館へはひとりで行くものだった。
 高校生のころ、学校をサボッて名画座で観たアニエス・ヴァルダ監督の『幸福』。その映画館で初めて男色痴漢にあった記憶。
 東京では渋谷の某館の2階が、薔薇族たちのたまり場と言われていた。出没するのが分っていても、あそこの劇場の2階の一番前はスクリーンが見やすかったな。
 一番たくさん映画を観ていた青春期に、憶えている映画館の匂いは煙草の匂い。
 名古屋東映の2階にあった東映パラスでは、松田優作の『遊戯シリーズ』や『ヨコハマBJブルース』がよく似合っていた。いつまでも修繕されない壊れた椅子の後ろが毎回の指定席だ。
 日活ロマン・ポルノの館内はいつもすえた香り、椅子が狭くて前の客の頭がジャマで、席をいろいろ変えてうろうろしたり。悪条件ばかりだから思い出は残っている。
 
 この本の巻頭カラーには、昭和からつづく映画館が紹介されている。愛知県西尾市にある西尾劇場。映画のセットではないかと見間違うような佇まい。御年63年の映画館である。遠くはないから、一度行ってみよう。
 東映系列で館内にはスターたちのポスターがいっぱい。菅原文太がいる。高倉健がいる。梅宮辰夫がいる。千葉真一がいる。女優なら佐久間良子、賀川雪絵らしい写真も見える。あの頃、どこの小さな町にもあった系列劇場は、一歩入れば各社銀幕スターたちの砦だった。

 シネコン・スタイルになって、映画館が綺麗になり気持ちよく映画鑑賞ができるし、満員で立ち見なんてこともないし、途中で入場してくる人もなく、ストレスがないってのは良いことに決まっているはずなのに、快適な環境になればなったで今度は映画館の記憶が残らない。

 シネコンって、なんであんなにポップコーンを食べる客が多いのだ。ぼくは嫌いだ。
 そしていまの映画館では、好きな映画を繰り返し観ることができなくなった。あの頃は一日中映画館の中に居られたのに。
 ……何度も何度も繰り返し同じ映画を見た記憶………

シネマの手帖[昭和篇]
   発行:暮しの手帖社 
   定価:1,400円(税込)

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