TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「狼は天使の匂い」*ルネ・クレマン

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La Course du lievre a travers les champs
監督:ルネ・クレマン
原作:デビット・グッディス「暗い金曜日」
脚色:セバスチャン・ジャプリゾ
音楽:フランシス・レイ
出演:ロバート・ライアン、ジャン=ルイ・トランティニャン、レア・マッサリ、アルド・レイ、ティサ・ファロー、ジャン・ガバン、ナディーン・ナボコフ、アンドレ・ローレンス

☆☆☆☆ 1972年/フランス/135分

    ◇

 なんと詩的で浪漫ある邦題であろう。仏語原題は「ウサギは野を駆ける」。
 大好きなフランス映画の1本で、待望の初DVD化はオリジナルの仏語完全版でリリースされた。
 日本では1974年2月に公開されたのだが、当時観たものは英語版のうえ7分短縮されていた。

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AND HOPE TO DIE

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 『禁じられた遊び』('52)や『太陽がいっぱい』('60)で知られるルネ・クレマン監督の晩年作で、名優ロバート・ライアンにとっては最後の作品。『シンデレラの罠』('62)や『さらば友よ』('68)の原作者セバスチャン・ジャプリゾが脚本を手掛け、音楽はフランシス・レイ。
 ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を引用したギャング映画として、追われる男たちの孤独な戦いを静かに描いたフィルム・ノワールの終幕的作品である。

 パリから紅葉のモントリオールへ逃げて来たトニー(ジャン=ルイ・トランティニャン)。彼は、セスナ機の事故でジプシーの子供たちを殺し、裁判では無罪になったものの、ジプシーの掟によって執拗に命を狙われていた。逃げ込んだ万博会場のアメリカ館で、偶然にも殺人事件を目撃してしまい、男を追っていた仲間に捕らえられ、隠れ家となっている小島に連れてこられる。そこでは、年老いたチャーリー(ロバート・ライアン)をボスにした一味が、ギャングの大ボス相手に100万ドルを賭けた誘拐ゲームを計画しており、トニーもいつしかその計画に加わることになるのだが……。

    ◇

 リアリズム映画からスタイルを一変した『太陽がいっぱい』以後、スリラーやサスペンスを手掛けてきたクレマン監督は、『雨の訪問者』('69/チャールズ・ブロンソン主演 )『パリは霧にぬれて』('70/フェイ・ダナウェイ主演)で抒情性豊かなサスペンス・ドラマを撮り上げているが、それにつづく本作は少し趣が異なり、フィルム・ノワールを装おいながらもミステリーやサスペンスの度合いのない奇妙な心理劇風“大人のメルヘン”に仕上がっている。

 本屋の上階に越してきた幼い少年が、下町の子供にいじめられ、持っていたビー玉を入れた袋を切り裂かれ、階段から色とりどりのビー玉が転がるオープニング。映画は「僕たちは 眠るのをむずかる 年老いた少年にすぎない」というルイス・キャロルの引用句に導かれ、『不思議の国のアリス』の幻想感が漂う虚構の世界が意識的に構築されていく。
 ときおり映しだされる少年たちのエピソードと、疑似家族を形成するチャーリー一味と余所者トニーの体験は鏡像作用で示される。トニーを追うジプシーたちは一種の悪夢であり、トニーが逃げ込んだことになるチャーリーたちの世界も、少年の日の“○○ごっこ”に郷愁を求める大人たちの夢の中といえる。

 この作品の役名に“シュガー”(レア・マッサリ)と“ペッパー”(ティサ・ファロー)という遊び心もあれば、映画の中の大人たちはいつでもどこでも遊びに興じている。ラミーゲームやチェス、クロスワード。丸めた新聞紙をクズ篭に入れ合ってはゲラゲラ笑う。3本の両切り煙草を縦に積む遊びは、『さらば友よ』('68)で水を満たしたコップにコインを入れる遊びと同様に、ぼくを含めて当時の観客は一度はトライしたと思う。

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 1時間30分を過ぎたあたりから始まるギャング映画らしい流れも、リアリティのないゲームのひとつでしかない。
 オープニングの本屋のウインドウには大きなチェシャ猫のポスターが貼られ、トニーとチャーリーがビー玉を賭け射撃ごっこをする名ラストシーンは、大人たちの隠れ家だった宿の看板“チェシャ猫亭”を的にする。結局男の美学って、どれも“ごっこ”なのかもしれない。
 エドモン・リシャールの美しいカメラワークとリリカルなフランシス・レイの旋律が、その大人たちの“ごっこ”を素敵に彩っている。

 老いたボスを演じたロバート・ライアンは、既にがんにより余命1年の告知を受けており、本作を撮影終了後、この年に亡くなった愛妻を追うように63歳で生涯を閉じた。まさにこの作品は俳優としての花道。センチメンタリズムだけでは語れない存在感で、見るものたちに感銘を与えてくれたロバート・ライアンは、忘れられない素晴らしい俳優のひとりだ。

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★★★ 『狼は天使の匂い』
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