TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「誘拐報道」*伊藤俊也監督作品

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監督:伊藤俊也
原作:読売新聞大阪本社社会部
脚本:松田寛夫
撮影:姫田真左久
主題歌:「風が息をしている」作詞:谷川俊太郎、作曲:菊池俊輔
出演:萩原健一、小柳ルミ子、秋吉久美子、藤谷美和子、高沢順子、池波志乃、伊東四朗、高橋かおり(子役)、和田求由(子役)、岡本富士太、三波伸介、大和田伸也、中尾彬、平幹二朗、菅原文太、丹波哲郎

☆☆☆★ 1982年/東映/136分

    ◇

 モントリオール世界映画祭審査員賞を受賞したこの映画は、1980年に実際に起こった小学生男児誘拐事件を、“報道協定”という枷をかけられながら取材活動してきた新聞記者たちのドキュメントが原作となっている。事件からたった2年。事件の渦中をリアルに描いた作品である。

 実際の事件の概要は、1980年1月、宝塚市に住む歯科医の長男で小学1年生の男児が学校帰りに誘拐され、身代金3000万円を要求する脅迫電話が掛かってきた。翌日、両親は犯人から指定された場所に数回出かけたが、犯人は現れず。二日後の午後、西宮市で不審車両の職務質問を受けた男の車のトランクから、シートカバーに包まれた男児を保護。男はその場で逮捕された。元喫茶店経営の男の娘が、誘拐した男児と同級生だったという顛末だった………。

    ◇

 伊藤俊也監督のデビュー作“さそりシリーズ”を共に作り上げた松田寛夫の脚本は、捜査する警察陣とスクープを狙う報道記者たちの攻防よりも、萩原健一扮する犯人と犯罪者の家族(小柳ルミ子と高橋かおり)の心情に力点が置かれている。ショーケンの過剰過ぎるくらいの演技が、外連たっぷりな演出をする伊藤俊也監督らしさで、全体にはサスペンス豊かに、叙情感をたっぷり感じさせるものがある。

 私立小学校に通う三田村英之(和田求由)と古谷香織(高橋かおり)の何気ない日常がスケッチされ、下校途中、ガード下トンネルを出た英之の上に布団袋がスローモーションで落ちてくる。

 読売新聞社(実名)の記者たちの集まりから事件発生の警察の対応。“報道協定”が敷かれ、そして“協定解除”に備えての情報合戦などの描写。若い記者(宅麻伸)と恋人(藤谷美和子)とのエピソードを交えながら、犯人からの電話を待つ被害者の三田村宅(秋吉久美子と岡本富士太)と張り込みの刑事たち(伊東四朗)の姿がつづく。

 犯人は喫茶店を詐取され借金に追われる古谷数男(萩原健一)。雪積もる奥丹後の冬景色の中に、アウディに乗って登場するのは映画が始まって30分くらいのところ。故郷へ向けて車を走らせながら、岸壁に近い駐車場に車を止めて三田村家へ電話を入れる。
 荒波にうねる日本海をバックに、公衆電話ボックスのなかのショーケンを撮らえるカットは、姫田真左久の望遠キャメラが凄い緊張感を盛り上げている。素晴らしい画面である。

 子供を入れた布団袋を崖から海に投げ入れようとするが、ダイバーの姿で躊躇する数男。シュノーケルの音と風の声が犯人の怯えを増幅し印象的だ。
 袋を担ぎ墓地のなかを移動しているときに、突然、袋のなかから「おしっこ」の声。厳寒ロケのなかで、子役の小便をガマンさせて本気で云わせたセリフだという。
 犯人にとって子供は金に代わる“物”であったはずなのに、ここから命あるモノに変わっていく。子供が発する「おしっこ」や「お星さま」や「ジャムパン」という言葉が、生命の尊さを漲らせるキーワードとなり、卑劣な犯人が、人間らしい振る舞いを見せていくのである。
 母親を訪ね、その姿と日常性に触れ気弱さがでてくる数男には、小心者の姿しかない。その不安な情景を、ショーケンは内面からの表情と行動で悩ましく演技する。

 宝塚市に戻った数男は、身代金の受け渡しにことごとく失敗する。緊張の糸が切れる寸前の秋吉久美子と岡本富士太の絶望感。伊東四朗の刑事に「取引現場に来ないで欲しい」と哀願するシーンは何とも悲痛。犯人逮捕に躍起になる警察陣の被害者への対応や、スクープ至上主義のマスコミなど、その行動はどちらもとても 非情だ。

 スリリングさが盛り上がったところで最後の電話。財布を無くしたショーケンが、「10円玉が無いんじゃ!」「子供をもてあましとるんじゃ!」と叫ぶシーンは圧巻。

 半端ない役作りをするショーケンは、シナリオを手にしたときから現場などのロケハンを自ら行い、リアルさを突き詰めたという。2ヶ月で10kgの減量、その飢えた狂気の様を画面からビシバシと放射している。追い詰められていく焦りや、恐怖といった犯罪者の心理を見事に伝えている。
 公開当時、評判の悪い犯人と実家近くに住んでいたいしだあゆみの母から犯人役を猛反対されていたというエピソードが出てきたくらい(萩原健一の著書『ショーケン』でも自ら語っている。)、ショーケンがこの映画と本気で格闘し、見事に浸ってきたことが伺え知れる。
 圧倒的にこの映画は、ショーケンの作品と云える。

 ついに最後の受け渡し現場でも張り込む刑事たちの姿を見て、絶望する数男。陽の昇る頃、車のなかで呆然自失でいる数男に警察官が職務質問。犯人のその後は描かれない。
 そして“協定解除”によるメディア・スクラムが始まるのだが、提携する読売新聞と日本テレビに配慮してか、これも詳しく描かれない。
 夜逃げをする小柳ルミ子と高橋かおりを待ち伏せてフラッシュをたく宅麻伸が、「うち………お父ちゃん好きや!」の言葉にスクープ写真をボツにするのも、何だか甘い終り方ではある。

 終盤、菅原文太がヘリコプターの操縦士役で特別出演してくるのも、大いなる蛇足と云えないか。

    ◇

  さて、1982年度のマイベストテンを並べてみて気がつくのは、7作品が犯罪映画だった。

 さらば愛しき大地
 野獣刑事
 TATTO0〈刺青〉あり
 蒲田行進曲
 水のないプール
 疑惑
 悪魔の部屋
 生きている小平次
 キッドナップ・ブルース
 誘拐報道

 そのどれもが、多種多彩で強烈な個性が光る傑作といえるものばかりで、面白いのは、主人公や犯罪者となるキーマンたちにミュージシャンが多いことだ。
 『TATTO0〈刺青〉あり』の宇崎竜童、『野獣刑事』の泉谷しげる、『水のないプール』の内田裕也、『悪魔の部屋』のジョニー大倉、そしてこの『誘拐報道』の萩原健一。
 揃いも揃ってみんな悪たれ小僧ばかりのメンツ。役づくりのひとつにクリエイティヴさを求めるとしたら、ライブで見せるヴォーカリストの表現方法や、ステージ上で全ての実権を握るお山の大将だからこそ放たれる唯一無二の強烈な存在感こそ、重要なファクターとして働き作品のなかで燦然と輝くのだろう。

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Comment

なるときよし says... "この頃"
誘拐報道の感想はブログに書いたとおりです。

疑惑、映画館に見に行きました!
「良心のない女」くまこ。
ケビンコスナーの「No Way Out」と私の中で2大どんでん返しだったような。

余さんのくまこが原作イメージに近いですね。
2009.07.20 10:53 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: この頃"
>なるときよしさん

ぼくは当時、いしだあゆみ、緒形拳&泉谷しげるを観た翌日にコレを観たので、少々評価低かったのです(笑)。

『疑惑』は、女同士の葛藤に力点が置かれ、原作を離れて見事な人間ドラマになっていたし、野村芳太郎監督だからこその裁判劇は見応えありました。
最後の桃井かおりの居直り方といい、岩下志麻のクールな佇まいだが鼻もちならない女っぷりが、お見事!

TV版、余さんの鬼クマも最高でしたが、佐藤浩市のフケメイクが何とも……ね(笑)。
今年1月の沢口靖子版も、思っていた以上に良かったですよ。

「追いつめられて No Way Out」は、最高に気分のいいドンデン返しでぼくも見事に引っかかりました!
トリックがわかって2度目を観ても楽しめる作品で、ぼくも好きだなぁ。

2009.07.21 00:16 | URL | #- [edit]
ちゃーすけ says... ""
誘拐報道、これ「疑惑」と2本立てで観ました。
「疑惑」が最初で、「誘拐報道」が後。
後で良かった。

「疑惑」は最後の球磨子のニヤリで文字通りの「疑惑」でした。
ワインの掛け合いはすごかった。

余さんも平成の球磨子は余さんしかいない!で、私は球磨子に関しては、とっても満足でした。
沢口さんの哀しい球磨子は賛否両論でしたが、現在はああするしかないのかもと思いましたし、あれはあれで沢口さんの球磨子になってましたね。

この年は「野獣刑事」「TATTO0〈刺青〉あり」「蒲田行進曲」「水のないプール」「疑惑」「誘拐報道」と日本映画を良く観ました。

「誘拐報道」に関しては拙ブログでも延々と語ってしまいましたが、このショーケンは本当にすごいですね。
ぜひDVDにして残して欲しいですが…、やっぱり実際の事件ということで無理なのでしょうか。
惜しいです。
2009.07.22 15:34 | URL | #a2H6GHBU [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
ちゃーすけさん

>誘拐報道、これ「疑惑」と2本立てで観ました。

松竹と東映の併映ですか! こりゃあ、またぁ………。
「疑惑」の後番組が「蒲田行進曲」だったんじゃなかったかなぁ。

>「誘拐報道」に関しては拙ブログでも延々と語ってしまいましたが、このショーケンは本当にすごいですね。

ちゃーすけさんの3回連続の長文レヴューは、感心して読ませてもらいましたよ。実は同じ頃ビデオを観ていたので、こうして時間を空けて書くことにしたのです(笑)。
このショーケンは、ファンの皆さんが感じるとおり、その鋭利な芝居が狂気そのもので凄すぎます。
だから余計に、新聞記者たちとの部分に調和がとれていなかったように感じるのですが、それを差し引いても、観る価値はある作品ですね。DVD化は難しいですが、いろいろ賞を獲った作品なんだから、やはり残しておいて欲しい作品です、絶対に。


余さんの「疑惑」以後、儚くも悪に染まっていく役(「黒い画集~紐」「女の中の二つの顔」など)はあっても、本格的な悪女(?)っていうのがなく、少し淋しい想いです(笑)。

そうそう、1982年最後に観た映画が「汚れた英雄」でした。
2009.07.23 00:50 | URL | #- [edit]
ちゃーすけ says... ""
>「疑惑」の後番組が「蒲田行進曲」だったんじゃなかったかなぁ。

そうですね、そんな記憶があります。
松坂慶子さんも絶好調でした。

>ちゃーすけさんの3回連続の長文レヴューは、感心して読ませてもらいましたよ。

ありがとうございます。

>実は同じ頃ビデオを観ていたので、こうして時間を空けて書くことにしたのです(笑)。

重ねて、ありがとうございます。

>新聞記者たちとの部分に調和がとれていなかったように感じるのですが、

ショーケンの場面から新聞記者の場面になると、違和感がありました。
新聞記者のシーンからショーケンの場面になったら、後はもう、ショーケン独壇場みたいな感じだったので。
ショーケンがすごかったから食っちゃったのかなあ、と思ったぐらいです。

余さんの本格的な悪女、私も見たいです。
ものすご~い悪女、やってほしいです(笑)。

今、タイトルが間違ってないか確認してしまいましたが、神代辰巳監督の遺作となったドラマ、「盗まれた情事」の悪女も好きでした。

あれはもう、「こんなにイイ女に罠にはめられたなら、しかたないでしょう」なんて思ってしまいました、悪女側応援してすみませんなんですけど。
2009.07.23 14:30 | URL | #a2H6GHBU [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
ちゃーすけさん

「盗まれた情事」を見ていますか!
三浦友和でもなく、火野正平でもなく、高島礼子でもなく、しっかり最後に主役を奪ったのは余さんでしたね。
キャスリーン・ターナー顔負けですぅ。

週末、レヴューを書き直してここにアップしよっと。
2009.07.24 00:31 | URL | #- [edit]

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