TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「きのうの神さま」西川美和

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 映画監督西川美和が書下ろした5つの短篇集。
 僻地医療を題材に、膨大な取材資料から生み出された映画『ディア・ドクター』の、映画の中の時間軸から抜け落ちた、もうひとつの物語である。

 過疎の地に従事する医師や僻地の住民たちの心情を綴りながら、夫婦や兄弟、友人など身近な関係における小さな歪みなど、人の心の奥底にくすぶる本性が鋭くあぶり出される。
 西川美和の洞察力の凄さと、映像クリエイターらしい場面転換とディテールの面白さを味わえる。
 
    ◇

 1983年のほたる
 人と同じが厭な小学生のわたし。町の塾から帰る最終バスのなかで、ある日、いつも決まった運転手に名前を呼ばれた。その日、バスは………。

 ありの行列
 小さな離島に代診としてやって来た若い医師は、島民との医療のありかたを知る……。

 ノミの愛情
 夫は、わたしが長年勤めた救急現場を去るに値するくらい、非の打ちどころのない医師なのよ。夫のことは何でも知っているの………わたしは看護師です。

 ディア・ドクター
 医師である父が倒れた。ぼくは、父を崇拝し医者を志した兄のことを考えた。遠い、遠い、僻地で暮らすあなたを待っています。

 満月の代弁者
 町を去るため、引き継ぎにきた年輩の新任医師を連れて患者の家を回る中年医師。慣れた町から、つぎに行く場所は何処……。

    ◇

きのうの神さま/西川美和
【ポプラ社】
定価 1,470円(税込)

 
    ◆

 何篇かに、映画『ディア・ドクター』の登場人物がリンクされているので、少しタネ明かしをしてみる。
 映画を観た方は、つづいてこの本を読むことをお勧めする。
 

 ホラーとして面白く読めた「ノミの愛情」は、らせん階段の使い方が見事。まさに映画監督らしいビジュアルが浮かんでくる。
 これは自己犠牲に潜む優越感。余貴美子演じる大竹朱美が結婚していた頃のストーリーとなる。
 映画の終盤、松重豊と岩松了ふたりの刑事に対峙する余さんの表情に、この朱美がだぶるだろう。

 「ディア・ドクター」は、「ゆれる」と同様に男兄弟の心情をみごとに描いている。女性がどうしてここまで男を描けるのか………西川美和オッサン説は本当だ。
 ここに、笑福亭鶴瓶扮する伊野治が登場する。弟から語られる伊野の肖像である。

 「満月の代弁者」は、“アルツハイマー”のサキヨを看る孫娘と男の会話がリアル。そして辛辣。
 “男”としか明記されていない主人公だが、最後の数頁に至ってこの男が、瑛太が扮した研修医の相馬啓介のその後と理解するだろう。ニヤリとさせられる。最後の電話の相手は朱美。余さんの顔が浮かんでくる。

 「1983年のほたる」は、井川遥が演じた鳥飼りつ子が小学6年生のときのエピソードとなる。

    ………………

 ついで書いておくと、この本の装丁写真、なにか気づきませんか?
 見えているものが正しいとは限らない。
 写真が逆さなのだ。でも、本来の向きの方がヘンな感じがする奇妙な写真だ。

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