TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「天使のはらわた 名美」*田中登監督作品

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監督:田中登
原作:石井隆
脚本:石井隆
音楽:アビリス
挿入歌:「みずいろの雨」八神純子
出演:鹿沼えり、地井武男、山口美也子、水島美奈子、青山恭子、沢木美伊子、草薙良一、古尾谷雅人

☆☆☆★ 1979年/にっかつ/98分

    ◇

 1978年に始まった『天使のはらわた』シリーズの第3作目は、名美の生き方を鮮烈に描いた秀作『天使のはらわた 赤い教室』と、この作品で助監督を務めた池田敏春が監督した『天使のはらわた 赤い淫画』との間の作品で、石井隆にとっては2本目の脚本作品だ。

 一流女性週刊誌の花形記者・土屋名美(鹿沼えり)が、過去に性的暴行を受けた女性たちの“その後”を追跡ルポしているうちに、取材対象で気のふれた看護婦に襲われ、それにより精神の変調をきたし被害妄想に取り憑かれていく……。

    ◇

 石井隆自らが70年代劇画作品へのオマージュとしたシナリオは、田中登監督によって成就しているのか? 
 名美は自らが堕ちてなんぼ。そこから再生することで女としての変貌が輝くのであって、被害者を取材することだけの観念的なつながりでは、独善的で自己弁護で身を固める名美がただの狂言まわしに終っている。そして村木(地井武男)の方も、幻の女を発見したはずで、その名美に惹かれていく執念の感情の流れが曖昧なのが残念だ。

 それでも、コマ割りなどの劇画イメージを巧く模倣し、魅力的な映像に仕上げた田中監督の裁量は見事だ。石井劇画の映画的手法を逆手にとったかのように、名美役の鹿沼えりの目もとのアップ多用は映画的興奮の絵となっている。
 そして、取材対象の女たちのエピソードにも多種多用の工夫が凝らされており、見るべき箇所は多い。

 タイトルバックに石井隆が本名の石井秀紀名義で1973年に発刊した限定200部の画集『死場処』を使用し、この濃密な画が本編全体の情景描写として映像表現されていく。

 冒頭、第一対象者の奈美子を高田馬場駅のホームからワンショットで追うカメラにまずは釘付けになる。つづく暴行シーンは、劇画【緋のあえぎ】('75)のワンシーンそのままに再現。シナリオにも書かれた雷の閃光で紫陽花の花が飛ぶカットは、【紫陽花の咲く頃】('76)で紫陽花の花が落ちる画のように、石井劇画のファンにはお馴染みの劇画の映画的描写が生かされている。

 ストリッパー蘭(山口美也子)のエピソードは、【カーニバル・イン・ブルー】('75)での不感症になった名美と不能のマー坊の切ない関係をそのまま引用。劇画ではふたりの舞台に沢田研二の「時の過ぎゆくままに」をBGM使用していたが、映画では八神純子の「みずいろの雨」が流される。八神純子の歌声は、このあとも山口美也子の射るような眼差しとともに、効果的に強い印象を残していく。
 マー坊役は『天使のはらわた 赤い教室』と同じ草薙良一。ドンピシャの配役である。

 主婦良子の場合は、彼女の住む家といい、暴行される埋め立て地といい、これこそ、長篇劇画【天使のはらわた 三部作】('78~'79)で見られる荒涼感であり、その映像は見事。エンドマークにもモノクロで挿し込まれる。

 石井劇画ファンだった主演の鹿沼えりは自ら名美役に立候補しただけあって、その意気込みは半端ないものだったようだ。体調不良(38度以上の熱)のなかで撮影された、終盤の病院屋上の雨のシーンは見応えがある。この屋上のシーンは、劇画【雨のエトランゼ】('79)でも効果的な扱いで使用され、後年、石井映画の核にもなっている。

 看護婦の美也に扮する青山恭子は、モルグでの格闘シーンや名美を貶める狂気の怪演ぶりが凄い。ここのエピソードは、最高のホラーに仕上がっている。はらわたが飛び出すシーンで老人の観客がショック死したという逸話があるのだが、本当のところはわからない。

 終盤、編集室で妄想に駆られた名美がデスクの上で股を大きく開く様子は、劇画【赤い教室】('77)の有名なラストカットを引用。
 このオフィスシーンは一日がかりで撮影され、長時間に渡り無理な姿勢でいたことの苦労を、後年になって鹿沼えりが語っていたが、その甲斐があっただけのシーンになっている。ハレーションで飛ばされる鹿沼えりの顔は本編中一番美しく輝き、表情の変化の素晴らしさに圧倒される。

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