TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「純」*横山博人監督作品

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監督:横山博人
脚本:横山博人
撮影:高田昭
音楽:一柳慧
出演:江藤潤、朝加真由実、中島ゆたか、榎本ちえ子、赤座美代子、山内恵美子、田島令子、橘麻紀、花柳幻舟、原良子、江波杏子、大滝秀治、小松方正、深江章喜、安倍徹、小坂一也、小鹿番、今井健二、田中小実昌、羽仁五郎

☆☆☆ 1978年/工藝舎・東映/88分

    ◇

 2009年4月、長崎県の無人島『軍艦島』に上陸が許可され、ツアー観光が出来るようになったとニュースで聞いたときに、30年近く前に観た『軍艦島』を印象的に使ったこの映画を思い出した。
 都会で生きる若者の不安と孤独の日常を活写し、若さの苦悶を鮮烈に描いた問題作である。

 長崎県の軍艦島から集団就職で上京した松岡純(江藤潤)は、都内の遊園地の修理工場で働きながら密かに漫画家を志していた。今週は、ビッグコミックの新人賞の発表が待っている。
 彼には同じ職場の洋子(朝加真由実)という恋人がおり、彼女は純が漫画家になる夢を一緒に応援しながら、何かと世話を焼いてくれる。
 しかし純は、何故か洋子の手のひとつも握ることができず、洋子はそんな純朴な純に惹かれる反面、歯痒さと物足りなさを感じていた。
 一方純には、洋子はもちろん誰にも知られたくない別の顔を持っていた。それは、通勤途中の往復の電車のなかでの痴漢行為だった……。
 新人賞に落ち、洋子には痴漢現場を見られ、すべてに虚しさを憶えた純は、故郷の軍艦島に渡る…………。
 
    ◇

 東映で長いこと助監督を努めた横山博人の監督デビューとなるこの作品が、1978年に製作された後、その評価とは別に配給会社のメドがつかないまま一般公開が危ぶまれていた。が、ATGの審査委員のひとり、川喜多かしこ氏のアドバイスで1979年度のカンヌ映画祭に出品したことで、批評家週間オープニング上映に選出され海外で反響を得、その後自主上映の末、1980年にやっと一般公開された曰くがある。

 映画は、痴漢行為のポルノチックな映像描写が強調されることで、都会に暮らす孤独と、人と上手くつき合う事のできない若者の不器用さが、見事に浮き彫りにされている。
 当時面白い映像表現だと思ったのが、純と洋子を乗せたエスカレーターを、何度も何度も繰り返し真正面から捉える画面構成。純の台詞のほとんどがモノローグでもあり、人間関係の難しさがよく表現されている。
 そして、主人公ふたり以外のほとんどの俳優に役名がないことで、都会の匿名性や孤独感が一層感じられる。

 痴漢シーンの撮影は、実際に中央線や小田急線の電車の中でゲリラ撮影したもので、8mmフィルムのような粒子の荒い画面がドキュメンタリーの様相を見せる。
 痴漢される女性たち(中島ゆたか、榎本ちえ子、赤座美代子、山内恵美子、田島令子、橘麻紀、花柳幻舟、原良子)の表情には、息を飲むほどの迫真さと生々しさが宿っていて、目に焼き付く凄い映像である。

 終盤、純が渡った軍艦島のシーンは素晴らしく、カメラが捉える廃墟が純の甘い感傷を打ち砕き、現実をまざまざと見せつけるのに最上の表現となっている。
 青い海と空をバックにしたスローモーションと、俯瞰撮影の軍艦島はとても美しい。

 この美しさと虚しさのあと、行き場を失った純が夜行列車のなかで美しい女(江波杏子)に弄ばれる。ひとりの女の欲望の妖しさが、純に強い衝撃を与える。

 この作品、実は倉本聡氏のシナリオが原案で、横山監督の大幅な改変に倉本氏が自分の名前を使わないよう抗議したという逸話がある。たしかに主人公の名前といい、その性格やモノローグ多用には、明らかに元シナリオが活かされているのだろう。



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